影の支配者
ま、間に合った
…影の支配者…
これから新たな領主が治めることになっている、旧ロッシュ領。
ロッシュ領には地元の民なら誰でも知っていて口に出さない、屋敷がある。
この屋敷の主人、アンドレ。
彼は独裁者だ。
ずっと領主がいなかったこのロッシュ領において、彼は王様。
彼の気にさわった者は、この領で死ぬしかない。
そんなアンドレが、自室でワインを飲んでいると一人の少年が駆け込んできた。
そばかすの散った頬を真っ赤に染め、少年は言った。
「アンドレの旦那!」
「なんだ、うるさいぞ! 食事中だ!」
ガン!
ナイフを机に突き立てた俺に、あいつは息を荒げ驚くべきことを告げた。
「ハアハア……聞いてください、アンドレの旦那。新たな領主が来ると御触れが出ていて」
「なんだと……クソッ!」
あいつは琥珀色の目で俺を見上げた。
「……どうします?」
「ああ、血祭りに上げてやる」
「わかりました。その次の領主はどうします?」
「もちろん殺す」
「その次もその次も、領主送られてくると思います。
全部殺したらさすがに王に疑われ、面倒くさいことになるんじゃないかと」
で、殺すんですか? とあいつは俺に訊いた。
「拘束して、一応領主を生かしておいた方が良いのでは?」
いや、こいつの考えはまだ軽い。
当然領主には護衛がついているだろう、護衛は金を積めばなんとかなるが問題はその後だ。
領主を捕まえても、自殺されたら終わりだ。
危険が高すぎる。
そうだな……
「脅すか、柔軟するかして取り込んだほうが楽か……」
俺の言葉を聞いたあいつは言った。
「さすがアンドレの旦那! キレがちげえ」
グラスを壁に投げつけ、俺はあいつに怒りをぶつけた。
「おい! 敬語で話せ! ……ワインもう一杯持ってこい、片付けもしろ!」
「わかりましたぁ」
あいつはへらりと笑い、部屋から出て行った。
バタン!
「ッチ、今まで一人も領主が来なかったのに今更かよ!」
せっかく俺がこの地方を手に入れたのに。
さっき投げたワインが壁を赤く染めていた、まるで血飛沫のように。
今後は月一回の割合にします。




