帽子事変
…帽子事変…
チュンチュンチュン
ああ、朝日が眩しい。
今朝は太陽が昇る前からリリアーヌに叩き起こされ、特訓に付き合わされた。
「スズキ、出発時間早いから、準備急げよ」
リリアーヌはそう言いながら木製のバケツを投げてきた。
「宿の裏に井戸があるから浴びてこい、なかなか気持ち良いぞ」
リリアーヌは濡れた金髪をタオルで拭きながら言った。
「はーい」
僕は、前もって渡されていたタオルと、バケツを持ち宿の裏に移動した。
「よいしょっと」
ザッバー
僕は浴びる為に井戸から水を汲んでいた。
「ふう……さてと」
僕は被っている帽子に手をかけようとしたその時、草むらがガサッと揺れた。
「だ、誰だ! 出てこい」
ガサガサガサ
「す、すいません」
草むらから出てきたのは、この宿の娘さんだった。
「急に音がしたからびっくりしたよ。どうして草むらに隠れていたんだい?」
宿の娘さんは気まずそうに質問に答える。
「あ、あの少し気になることがあったので、確かめようと思って……」
わざわざ草むらに隠れて確認することってなんだろう?
「草むらに隠れなければわからないことなの?」
僕がそう聞くと、その娘さんは首を横に振った。
これって、Noの意味なのか? 日本ではそうだったけど、国によってはYesの意味として使われているよな……ましてはここは地球ではないし、うーん。
よし、どっちでも問題ない返事をしよう。
「そうなんだ、じゃあその確かめたい事を聞くことはできそう?」
僕がそういうと、娘さんは首を縦に振った。
「はい……できなくはないですけど……」
なんだろう、とても気になる。
「怒らないから、言ってみて」
僕がそういうとその子は僕の頭の上を指差した。
「その帽子です。なぜずっと被っているんですか?」
「こ、これは……」
まずいな……
この国、カリーヌ王国では二年前に起きた戦乱で、ベルント帝国そして人族への不信感が高まっているらしい。
アベル……もといバカエルフみたいな人も多いそうだ。
なのでレリア姫に、私が良いと言うまで人族とバレないように、バレたら何が起こるかわからないわと釘を刺された。
「夕食の時もかぶっていたし……何を隠しているんですか?」
かなり怪しまれているようだ。
こんなことになるとは思っていなかった。
どうにかして、リリアーヌあたりに助けを求めるしかない。
「もしかして…………と、とにかくその帽子を脱いでください」
「いや、ちょっとこれには訳があって……」
僕はそう言いながら、宿屋の娘さんがいる宿の裏口の方へ一歩踏み出した。
「いや、近づかないで! 近づいたら騒ぐわよ!」
「わかった、わかったよ。近づかないから」
どうしよう。
騒ぎも起こすなと言われてるし……
ここは時間を稼いで、レリア姫たちが来るのを待とう。
「とりあえず、訳を聞いてほしい」
「言い訳は結構です。早く脱いで耳を見せてください! それとも見せられない理由でもあるのですか!」
娘さんは強い口調で言った。
そりゃ、人族だとバレるからで……とは言えないよなぁ。
「わかったよ……でもそのあとで話を聞いてもらいたい」
「話はあとで聞くので早くしてください」
もうダメだ……仕方ない帽子を脱いだ後説得するか……
そう思い僕は帽子に手をかけた。




