寝床騒動
…寝床騒動…
「ふ~、お腹いっぱいだ」
「安宿にしては、まあまあでしたね」
お腹をさすりながら、リリアーヌがソレーヌと談笑している。
僕らは夕食を終えて部屋に戻ってきた。
いただきさすとごちそうさまを言ったからだろうか、宿屋の娘さんが、怪訝そうな顔をしていた。
今回の夕食は、あの固いパンに薄い塩味のスープ、そしてお酒だった。
僕はアルコール類が全く飲めないので、水にしてもらった。
「さてと、みんな揃ったわね」
おもむろにレリア姫が話し始めた。
「これから寝る際、どうするか話していきたいと思うわ」
忘れていた、部屋が一つしか取れなかったんだっけ。
僕が頷くとレリア姫が話を続けた。
「そこでまず大きな問題があります。この部屋にはベットが二つしかありません」
さっき部屋に入った時は慌てていて気づかなかった。ベットが二つしかないのか……って
「えっ!」
まじかよ。
確かにそう言われてみれば、大きめのベッドが二つしか置いていない。
宿屋のおっさん、何考えているんだ……
リリアーヌが大きなため息をつきながら言った。
「はぁー、スズキは気づいてなかったのか」
「もうボケが始まりましたか」
ソレーヌ……二十歳でボケるとかないから。
「そこで、私にいい案があります」
「おおっ」
レリア姫の案どんなのだろうか。
僕は少し嫌な予感がした。
「ソレーヌ、スズキを押さえて」
えっ
「はい」
ソレーヌに後ろから羽交い締めにされた。
「なっ、ちょっ、放せ」
僕は逃げ出そうともがいたがビクともしなかった。
レリア姫が話を続けた。
「そこでリリ、スズキを眠らせて」
眠らせてっておい、まさか……
リリアーヌが無言で近づいてきた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「なあに、スズキ」
僕の言葉にレリア姫が答えた。
「気絶させるのは無しで!」
「あら、残念ね。リリ、もういいわ」
あれ、案外早く引いてくれた。
「姫様、そんなこと言ってないでやってしまいましょう」
何言ってるのこの人、てかもう離して、何だかキツくなってきた。
「ちょ、ソレーヌ、痛たたたた、ギブギブ」
痛すぎて、床を叩いた。
「ソレーヌ、離しなさい」
レリア姫の言葉で僕はソレーヌから解放された。
「し、死ぬかと思った……」
「ちっ」
今、ソレーヌに舌打ちされたような……
「他に何かいい案ないかしら」
「はい、姫様! 私にいい考えがあります」
「はい」
ソレーヌが手を挙げて言った。
僕も手を挙げたが少し遅かったようだ。
「ソレーヌ言ってみなさい」
「スズキには、野宿してもらいます」
「あらそれはいいわね。そうしましょうか」
レリア姫は頷きながらそう言った。
せっかく、宿に来たのに野宿か……
僕がそんなことを思っていた時、レリア姫にリリアーヌが近づいて耳打ちをし始めた。
「……さま、……スズキを…………させる……に……す…………ません」
「だい…………だと…………ど、ソレーヌごめんなさい。その案はできないわ」
「姫様、わかりました。後で理由をしっかりお聞かせ願います」
よくわからないけど野宿だけは避けられそうだ。
「リリ、何かいい案ない?」
レリア姫がリリアーヌに聞いた。
「レリア姫、残念ながら良い方法が思いつかなくて」
「まあ、そんな時もあるわ。さてスズキ、さっき手を挙げていたわよね。何かいい案でもあるの?」
いい案というか、これしか思いつかなかったのだが。
「僕は床に寝て、3人はベッドで寝る。幸い大きめのベッドみたいだし、一人と二人に分かれればいけると思う」
「スズキ、それいいわね。ソレーヌ、スズキの案はどうかしら、なかなか良さそうだけど」
「できれば出て行ってもらいたい、ところですが姫様がそうおっしゃるのであれば……」
ですが、をそこまで強調しなくてもいいと思うが……
なんだかソレーヌに徹底的に嫌われているようだ。
「何かが起こりそうになれば、私がスズキを切り捨てます」
リリアーヌがそう言いった。
なにこれ、僕、切られるの? 何かしそうと思われたなら、切られてしまうの?
……泣きたい。
「ところでスズキ、スライム様はどこにいるんだ」
リリアーヌがそう尋ねてきた。
「ああ、あいつならここだよ」
僕はそう言うとかぶり続けてきた帽子を脱いだ。
「ほら、ここで寝てる」
その帽子の中でデローンとしたゼリー状の物体がいた。
「ね、寝てるのか……、というか寝るんだな」
そう言いながらリリアーヌが帽子の中を覗いた。
「スライム様も寝ているわけですし、私たちも寝ましょう。スズキ、私たち着替えるから早く、部屋から出て行ってくださいな」
「わかったよ、レリア姫。終わったら扉をノックして」
僕はそう言うと帽子をかぶり、扉を開け部屋から出た。




