揺れる馬車で
…揺れる馬車で…
「は~~っ」
僕は精神的疲労で疲れ果てている。
リリアーヌに運ばれ馬車まで戻ったのはいいが、
いやよくないが、その後レリア姫に散々ネタにされた。
「あら、荷物持ちどころかお荷物になったスズキお嬢様、何かお悩みでも?」
いや、まだネタにされている。
悩みの種はあんただ!
「姫様、やめてください」
お付きのメイド、ソレーヌが言った。
ありがとう、ソレーヌ。
「お荷物のため息など聞きたくありません。こっちも疲れてきます」
前言撤回、あんたもひどい。
まあでも前回、馬車に乗った時よりはマシだ。
あの時僕は、この揺れに酔って気分が悪くなった。
そして、後頭部を殴られ気絶してしまったし。
ソレーヌが何だか近づいてきた。
「聞きたいことがあるのですが……」
何だろう。
「どうしたの?」
「あなたは何者ですか?」
ああっ、言ってなかったか……
なんて言えばいいのだろう。
まず、正直に言う。
だめだ、変人扱いされる。
旅人とかどうだろう。
いや、色々聞かれたら確実にボロが出そうだ。
こうなれば誤魔化すか……
深く考え込んでいた頭にソレーヌの声が響いてくる。
「あの~聞こえてますか」
意識が現実に戻された。
やべ、早く返事をしなきゃ。
「えっとですね……あっそうだ、これからど……」
「スズキ、誤魔化すのはだめよ」
だめだ、レリア姫によって退路が断たれた。
こうなれば……あれしかない。
「じ、じつは、おおおぼえていないのです。」
やべ思いっきりどもってしまった。
ソレーヌとレリア姫はなんだか冷たい目線を送ってくる。
「そんなのな……」
「ソレーヌ、もういいわ、ところで記憶のないのスズキさん」
レリア姫は、僕の目を覗き込むかのように見てきた。
「あなたは、どこまで覚えていないの?」
えっとどこまで覚えていないことにしようか。
名前、と年齢、性別ぐらいは覚えていても問題ないだろう。
あっ、持ち物も知っていないとやばいかも、そこ突かれると痛いし。
今度はレリア姫の声が響いた。
「スズキ!」
またもや、思考の海に行ってしまっていた。
「えっと、レリア姫。少なくとも自分に関することと、このリュックサックの中身は覚えています」
「ふーん、そうなんだ~、でさっき飲んでいたものは何?」
レリア姫が興味深そうに聞いてきた。
う〜ん、酔い止めぐらい言ってもいいのだろう。
「酔い止めです」
僕の答えを聞き、ソレーヌが言う。
「酔い止め?酔い止めって外を見るか、涼しい風にあたるぐらいじゃないですか」
それにレリア姫が答えた。
「さっき馬車に乗る前に、スズキがなんだかキラキラした板を押して出してたあれよ」
「ああ、あれですか、あの小さい粒に酔い止め効果があるんですか?」
ソレーヌは不思議そうに僕ではなく、レリア姫に聞いた、ってなんでだよ。
「今のスズキをご覧なさい。前に乗った時と違い、全く騒がしくないわ」
「確かに、すごいです、姫様」
ソレーヌはキラキラした目でレリア姫を見た。
すごいのはこの酔い止めだと思うのだけど……
「それを、見せて、キラキラした板ごと」
レリア姫がそう言って右手を差しのばした。




