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【35】 寂しい少女


 シエルが来てから、エレナの生活は変わっていた。それまでは一人きりで特に誰かに何かを急かされる事もなく、一人で食事を取りその食器を片付け、必要とされている薬を調合するだけの毎日だった。楽しみといえばたまに来るウェンディや、薬を必要としている人と話すくらいだった。別に食事を取らなくても、どれだけ夜更かしをしようと誰にも何も言われない生活だった。

 エレナはそんな生活に虚しさを感じていた。寂しかった。誰の為に生きているのかも、自分がそこに居る理由も何も感じられなかったのだ。いつ帰ってくるのかも分からない姉をただひたすら同じ日々を繰り返し待つだけの毎日だった。


 何度もそんな日々から抜け出したいと、そう思っていた。何度も抜け出そうとそう思った。森を出ようと、姉を探しに行こうと何度も何度も思っていた。だがその度に後ろ髪を引かれるような感覚に襲われるのだ。

 もしかしたら自分がこの森を離れたその途端に、姉が帰って来るかもしれない。もしかしたら自分の薬を急遽必要としている人が現れるかもしれない。ここを離れる事で誰かをがっかりさせるかもしれない。そんな思いに囚われて、言い訳を繰り返していた。そうしている内に日々はどんどんと過ぎて行ったのだ。


 そんなある日シエルはエレナの元にやって来た。シエルの世話をする事でエレナは生きている実感を得た。寂しさもシエルと居れば無くなった。エレナはシエルに感謝をしていた。自分の元に来てくれた事、自分と共に居てくれる事、それだけでエレナの心は満たされたのだった。

 人間味に溢れる不思議な生物はエレナの心を癒し、エレナを支えてくれていたのだ。シエルと居ればどんなことも乗り越えられるとエレナは思っていたのだ。


 「シエル……。ずっと一緒に居てね? 貴方がここに来てくれた事本当に嬉しい。ここに来たのが貴方で本当によかった」


 エレナはシエルに微笑み掛けた。明日も明後日も、その次も、ずっとシエルと居られるとエレナは思った。変わらない毎日でもシエルが居ればそれだけで特別な日になるとそう感じていた。シエルが来てからの日々はエレナにとって毎日が特別だった。ただ一緒にご飯を食べるだけでも、一方的に話すだけでも、それだけでもエレナにとっては特別な事だったのだ。


 「おやすみシエル。いい夢見てね?」


 エレナにとってシエルはもう特別な存在、家族になっていた。そんな日々がこれからも続くことをエレナは願い、目を閉じたのだった。




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