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【16】 名家の娘とその恋人について(7)


 翌日王子はレジーナの元を訪れた。昨日の事を全て話した。レジーナは王子の話しを聞き、顔を赤くして憤慨していた。


 「そんなの嘘よ!! マキナ! 貴方まで魔女に誑かされたのね!」

 「おい、落ち着けよ。ルゥは魔女じゃない」

 「信じられない! もういいわ! 私が直接行く! あの魔女を許したりはしないんだから!」


 レジーナは部屋を飛び出した。昨日よりも元気そうなレジーナだったが、体調がいいとは言えなさそうだった。王子は急いでレジーナを追いかけた。


 「レジーナ!! 待って!」

 「離してよ!!」


 王子はレジーナの腕を掴んだ。


 「分からないのか? アッシュは君の事を愛してはいないんだ」

 「違う!! 彼が愛しているのは私よ! あの魔女じゃない! 私達は愛し合っているのよ!」

 「アッシュに一度でもそう言われたのか?」

 「言葉にしなくたって、分かることもあるのよ! いい加減にして! アッシュの所に行くの!!」


 レジーナはアッシュの言う通り聞く耳を持っていなかった。王子の話しも信じていなかった。レジーナの目にはアッシュしか映っていなかった。


 「どうしてそこまでアッシュに固執するんだ?」

 「愛してるからに決まっているでしょ!?」

 「だがアッシュは君じゃなくルゥを愛してる。なぁ、こんな言い方嫌だけど、アッシュは君の好意を利用したんだ。それも君じゃない他の女の為に。そんな男もう忘れろよ?」

 「それでもいいの! 例え利用されていたとしても、一緒に居てくれたわ! 彼は優しく私に微笑んでいてくれたのよ!」

 「だからそれは君のお父さんに頼まれたからで……」

 「信じない! マキナ、これ以上邪魔をするんだったら、許さない。離して」


 レジーナは冷たい目で王子にそう言った。王子は背筋がゾクッっとした。昨日も王子は思った。レジーナの可愛らしい外見とは裏腹な態度、冷たく相手の事を何とも思っていないような目つき、王子はそれを怖いと思った。


 「分かったよ……。でも俺も付いて行く。君に倒れられたら困る」

 「余計なお世話よ。私一人で充分。付いて来ないで」

 「それだったら君のお父さんに言う。お父さんは何て言うかな?」

 「脅迫するの? 最低! 男のする事とは思えないわ!」

 「だったら俺を連れて行け」

 「……分かったわ。その代り私の為に働きなさい。私の言う事は絶対に聞くのよ。私に逆らったらどうなるかなんて分かるでしょ? もうこの街には居られないんだから!」

 「俺は別にこの街に思い入れがあるわけではないよ。だからそんな脅し効かない」


 レジーナは王子を睨みつけた。王子は困ったように眉を寄せた。


 「とにかく行くんだろ?」


 王子はレジーナの腕を掴む力を抜いた。レジーナは王子の手を払うように振りほどいた。


 「もう、気安く触らないで」


 レジーナは王子に冷たくそう言うと、スタスタと歩き出した。


**


 レジーナと共に屋敷の門を出た王子は、驚き立ち止まった。


 「どうしてここに居るんだ?」


 屋敷の前にはアッシュとルゥの姿があった。レジーナはアッシュに微笑み掛けた後、ルゥを蔑むように睨んでいた。


 「アッシュ!! 戻って来てくれたのね! 嬉しいわ。でもどうしてその魔女と一緒に居るの? あ、分かったわ! その魔女を広場で見せしめに、火炙りにでもするの!? だったら私が手配してあげる!」


 レジーナは目を輝かせアッシュを見た。


 「いい加減にしてくれ。ルゥは魔女なんかじゃない! ……そこの、マキナだけに任せるのはやっぱりいけないって、ちゃんとお前と話せってルゥが言うから……」

 「じゃあ、レジーナとちゃんと話しに来たの?」

 「そうだ」


 レジーナはアッシュの近くに居たルゥの車椅子を押し倒して、アッシュに抱き付いた。ルゥはなす術もなく、小さく声を上げた。地面に倒れ込んだ後、歯を食いしばって腕を突き、必死で起き上がろうとしていた。


 「あらあら、惨めね?」


 レジーナはそんなルゥを馬鹿にしたように笑いながら見ていた。


 「ルゥ!」


 アッシュは急いでレジーナを払いルゥを起こした。ルゥは困ったようにアッシュに笑い掛けていた。


 「ありがとう、アッシュ」

 「いいんだ。それよりもどこか打ってないか?」

 「大丈夫よ」


 アッシュはレジーナを睨んだ。


 「何? 何なのその目は! アッシュ、いい加減目を覚まして! その女は魔女で、貴方に呪いをかけたのよ!? 貴方が愛しているのは私でしょ!?」

 「いい加減にするのはお前だ! 何が魔女だ! やっぱりこれがお前の本性なんだな?! これ以上ルゥに嫌がらせや危害を加えるなら許さない!」

 「どうしちゃったの……? ねぇアッシュ。そんな魔女なんか庇って! ねぇ! 目を覚ましてよ!」


 レジーナはアッシュにもう一度抱き付くとアッシュの唇にキスをした。ルゥは目を見開き口に手を当てていた。王子もいきなりの事に唖然としていた。


 「……離れろ……!!」


 アッシュはレジーナを払いのけた後、唇を腕で拭っていた。アッシュの払いのける力が強かったのか、レジーナは後ろに尻餅を付いて倒れた。


 「痛い。アッシュ、起こして?」


 アッシュはレジーナを冷たい目で見るだけだった。見かねた王子がレジーナを起こし、傍に付いた。


 「大丈夫か?」

 「どうして……?」

 「え?」

 「どうして魔法が効かないの!!?」


 レジーナは驚いたように目を見開いた後、歯をギリギリと噛んだ。その形相に王子はギョッとし、レジーナを支えていた手をさっと放したのだった。


 「……魔法?」

 「愛の籠ったキスはどんな魔法にも打ち勝つのよ! それなのに。それなのに……!!」


 レジーナはまたルゥを睨んだ。ルゥは怯えてビクッと肩を震わせた。そんなルゥを庇うようにアッシュがルゥの前に立った。


 「これが真実だからだよ! 俺はルゥの事を愛してるんだ! レジーナ、お前じゃない」

 「どうして!? あんなに優しくしてくれたじゃない!」

 「お前に優しくしたのは、お前の父親から金を貰っていたからだ。その金も全部返した。それにお前の事を可哀想だとも思ったからだ」

 「私が、可哀想?」

 「そうだ。病弱でろくに外にも出られない。笑う事も少ないし、他の同じ年の娘のように過ごせない。お前には友達の一人もいない。それが可哀想だった。だから何かしてやれないかと思ってお前に付き合った。それなのに、お前は……」


 アッシュは呆然とするレジーナの横に立つ王子をちらりと見た。


 「お前はその事を逆手に取り、人の好意に付け込み、わがままし放題じゃないか! 自分の立場をいい事に、他人を脅し、意にそぐわない者には冷たく制裁を加える! それを楽しんでいる! 人の悲しむ姿を楽しそうに見る! そんなやつを誰が愛すると思うんだ?」

 「そんな、待ってよ……。私そんな事」

 「してるじゃないか? 屋敷の使用人にも、俺達商人にも、気に入らなければこの街で、もう仕事が出来ないように手を回す。それで何人も食えなくなったやつを俺は見た」

 「それは……! その人達が悪いのよ! 仕事が出来ない事を私のせいにされても困る!」

 「そうじゃないだろ? 仕事はちゃんとこなしていた。些細な事でお前の機嫌を損ねたから、そうしたんだろ? 皆ビクビクしてる。お前に気を使って、神経質になってる。お前の事を恐れてる。皆はお前の事を好きなんじゃなくて怖がっているだけなんだよ!」

 「違うわ! 私は皆から愛されているもの! 皆親切にしてくれる! 街に出れば体調を気遣ってくれるもの!」

 「だからそれはお前に怯えてるからなんだ! 俺以外にお前と一緒に居てくれる奴が、一人でもいたか? 一日中お前の面倒を見てくれる奴がいたか?」

 「それは……」

 「ルゥと一緒に居てよく思う。ルゥはこんな体になったのに、それでも前向きに健気に生きようとしている。自分の事だって大変なのに、それでも俺を気遣ってくれる。泣きごとなんて一つも言わない。それに比べレジーナ、お前はまるで……。自分の体を不幸だと嘆き、自分より不幸な者を作る事で、他人を貶める事で、自分は不幸じゃないと言い聞かせている。自分で他人に近寄る努力もしない。俺はそんなお前が大嫌いだ」


 レジーナはアッシュの大嫌いだと言う発言に目を見開き、口に手を添えていた。体は震えだし今にも倒れそうだった。


 「アッシュ、言い過ぎじゃ……」

 「足りないくらいだ! 話しを聞かないなら仕方ないだろ? これが事実だ。俺はレジーナに同情もしていた。何処かでルゥとレジーナが重なっていた。だけど、レジーナの性格は、ひん曲がっている。自分は特別だと、何をしても許されるとそう思っているんだろう? 同情を良い事に、何かを施される事を当たり前だと、そう思っているんだろう? 感謝の気持ちなんてレジーナにありはしない。俺はそんな女を愛せるほど、器量はデカくない」


 王子はレジーナの倒れそうな体を支えた。気安く触るなと冷たく言われたが、気にしている場合ではなかった。レジーナは唇を噛みしめていた。

 アッシュの言う通りレジーナは他人に対して冷たい。王子にも身に覚えがあった。レジーナの意見に背いた途端、レジーナは目の色を変え王子に怒鳴った。ゴンザレスの時もだ。ゴンザレスが王子の事でレジーナにもの申そうとした時、レジーナは冷たくゴンザレスに帰るように言った。


 「レジーナ、もう分かっただろ?」

 「……許さない」

 「レジーナ!」

 「全部、その魔女のせいよ! マキナ!! あの魔女を殺して!」

 「レジーナ落ち着け。ルゥは魔女じゃない」

 「嘘よ! 嘘よ!! 全部あの魔女が悪いのよ!! 私は何も悪くない!」


 レジーナは取り乱し、王子の腕の中で暴れた。そんなレジーナをアッシュは憐れみの目で見ていた。


 「何なの!? その目は!!」

 「レジーナ。利用して悪かった。すまない。だがルゥを悪く言った事、俺は許せない。撤回してくれ」

 「撤回なんかするものですか!! 許さない! 絶対に。あんたもその魔女も!!」

 「レジーナ……」


 レジーナは興奮し過ぎたのか咳き込み、ついに倒れた。王子は驚きレジーナに呼びかけた。アッシュが屋敷の者を呼び、レジーナは屋敷へと運ばれていった。



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