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「それで、話というのは?」

あの後、愛華は強引に話を逸らし、彼を彼の部屋に連れ込んだ(やや、語弊があるかもしれないが)。

「は、はい、話ですよね、はい」

「愛華さん…?そこまで恥じらわれると、こちらとしてもやりずらいのですが…」


愛華は彼の部屋のフローリングで正座をし、俯いたまま、居心地悪そうに彼から30°ほど右に体ごと向けていた。

アキトもまた、同様に居心地の悪さを感じていた。

そして、アキトの言葉を最後に、彼の部屋には一時的ではあったが、時計の秒針が空気を震わせていた。


そうして、体感で約1時間、実際には5分の時が経過したころ、愛華は平静を殆ど取り戻していた。


「それで、あの、アキトさん。話というのはイリナ様のことでして…。お嬢様からお話は聞いていますよね?次期国王についてですが…」

「はい、つい先程、本人から相談を受けました」

「そうですか…。それで、アキトさんはなんと仰ったのですか?」


「自分の意思に任せて、俺を巻き込んでくれて構わないと言いました」




「ありがとうございます、アキトさん。これで失礼させていただきますね」

2人の密談(やや、大袈裟ではあるが、実際に周りから他の人間を排除しての会話であったため、妥当であるだろう)が終了した直後、愛華は彼の部屋の前に人の気配を感じた。


「アッキりーん!!ちょっといーい…?って、え〜〜〜〜〜〜!?あ、ああ、ああああ、愛華さんと、アキトくんが…へ、 部屋で、ふ、2人…きり?」



「大変、大変、大変!!!イ、イリナお嬢様〜〜!!愛華さんが、アキトくんを寝取っちゃったよ〜〜〜〜!!」


突然部屋に入ってきたナツキはアキトと愛華に一切の言葉を発させずに、そのまま部屋を出て行き、大声で喚きながらイリナの部屋へと向かっていった。



「アキトさん、どうしましょうか…?」

「まあ、とりあえず、愛華さんは先にイリナの部屋に行って下さい。俺はあれ(、、)を連れて行きますので」

「分かりました。それでは、ナツキより先にイリナお嬢様の部屋へと向かって、ある程度の説明をしておきます。…アキトさん、走るのは良いですが、あまり迷惑は掛けないようにしてください」


アキトと愛華はそこまで話し合うと同じ部屋の扉から別々の行動に出た。


アキトは扉を出て左側、何故か一度階段を下りて走り回っている少女を追い掛け、愛華は扉を出て右側、誰に咎められることも無いような速度で歩き、誤報が伝わる前に主の部屋に向かった。



「おい、ナツキ!叫ぶな!そして止まれ!」

「アキトくんがーー!!野獣になっちゃったー!!」


ナツキは大声で叫び、全速力で走っている。

アキトはナツキほどではないが、声を張り、ナツキを追い掛けている。


ナツキがラウンジの前を通り掛かる直前、扉の中からシャルルの従者、メイドであるラン=アスフィーが出てき、そして落ち着いた雰囲気で、彼ら2人に話しかけた。


「あら、アキりんさんに、ナツキさん?なぜお2人がここにいらっしゃるのでしょうか?」


「おわっ!?ラ、ランさん!?ナツキを捕まえてくださいっ」

「了解しました〜。__ナツキさん、今日は私から抱き締めてあげますよ〜」

アキトは『ナツキはいつもランさんに何を求めてるんだ…』とは思ったが、ここでは口には出さなかった。


「ランちゃーん!」


そして、結果的にナツキはランに釣られた。


アキトも男であるから、『羨ましい』と思わない、でもないが、彼は愛する人の顔を思い浮かべることで、その邪念を振り払った。


「ありがとうございます、ランさん。おかげですぐに事態が収拾しました」


アキトは小走りでランの下へと駆け寄ると、丁寧に頭を下げた。

そして、ランはナツキを優しく抱き締めながら、穏やかな笑顔で返答を返した。


「いえいえ、大丈夫ですよ、お礼なんて。ナツキちゃんみたいに可愛い女の子を抱きしめる口実ができたのですから、逆にお礼を言いたいくらいです」


「はい。ありがとうございます」


ランはアキトに発言と共にナツキの身柄を引き渡し、アキトは発言と共にナツキを受け取った。




同時刻、イリナの部屋には彼女に事の顛末を説明する従者の姿があった。


「申し訳ありません、お嬢様」

「もう、さっきから何回目よ、愛華。大丈夫、あなたのことは信じているわ。倫理観もちゃんと備わっているし…。それに、あまり言いたくないけれど、愛華は主従関係を強く意識するものね。最初の頃なんて、壁が厚すぎて困ったものだったわ…」

「お嬢様!昔のことは関係ないじゃないですか!今私はお嬢様に迷惑をかけてしまったことを謝罪しているのです!」

「じゃあ、謝罪を受け入れて、許す代わりに1つ私の言うことをききなさい?」

「はい、何なりとお申し付けください」

「うふふ、言ったわよ?なら…」

「あっ!?タメ口だけは絶対に無しですっ!」

「ダーメ。何でも言うこときくのでしょう?そろそろ愛華を友達にしたいのよ」

「ですがっ、物事には秩序というものがあるのです。たかがメイドごときを友達など…」

「あ、い、か?今の発言はどうかと思うわよ?『たかが』それに、『ごとき』。人はみんな人よ?それに自分の仕事には誇りを持ちなさい?」

「あ…。はい、申し訳ありません。お嬢様にはいつも教えられてばかりですね」

「じゃあ、私にも料理教えてよ」

「すでに私より上手いではありませんか…」

「あっ、だったら1つ教えて欲しいことがあるの!」

「はい、私にできることでしたらどのようなことでも」

「うふふっ、じゃあ、『友達』を教えてくれない?」

「はい…?」

「私って、姫だから大学でもなんか敬遠されてるの。それにサークルや部活には参加していないから、友達っていないのよね。だ、か、ら。愛華、私の友達になって?」

「……はい。分かりました。お嬢様がそこまで仰られるのであれば。ですが、やはり秩序は守るべきた思いますので、他の皆様の前ではメイドとしての立場に留まりますが、それでも構いませんか?」

「うん、大丈夫よ。ありがとね、愛華。__あ、タメ口だからね?」

「分かっているわ、イリナ」



「イリナ、愛華さん、入ってもよろしいですか?アキトです。ナツキを拘束してきました」

イリナが愛華と友達になれた直後、彼女の部屋に彼らが到着した。

「うん、入って入って」


「ナツキ、説明」

アキトは部屋に入るとナツキをゆっくり座らせると、できる限りトゲのない言い方で諭すように言った。


そして、全ての説明が終わると、ナツキは弱々しい雰囲気を意図せず出しながら、立って頭を下げた。


「うう…。申し訳ありません、イリナ様。私の早とちりでお嬢様にご迷惑をお掛けしてしまって」

しかし、イリナは愛華の時と同様、噤んでいた口を開いて優しく微笑んだ。

「ううん、大丈夫よ、ナツキ。気にしていないから」

「ですが、お屋敷の皆様にもご迷惑をお掛けして、アキトく…さんのイメージを国王陛下や王妃陛下、シャルルお嬢様、ヨハン様に対して悪くしてしまったのではと…」

「それは憶測でしょう?うちの家族のことは私から言っておくから大丈夫よ。勿論、貴女のことを悪くは言わないわ。ナツキがいるとこの家が明るくなるもの。いてくれないと困るわ」

「うう…イリナ様ぁ…。ありがとうございます…!」



その日は以降特に問題は起きず、また王家の全員は『ナツキの早合点だろう』と思っていたらしく、特に何も思っていなかったという。

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