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 十七年前。


 私は大学構内のベンチで本を読んでいる赤井にいきなり説教した。

「貴様の小説はただの自己満足だ!」

 今思えば、私も随分とデタラメな登場をしたものだ。

「読者のことを何も考えていない。語り手に共感できないから物語に入り込めないし、設定は複雑で説明の仕方も下手! お前は読者のことを何も分かっちゃいない! だからお前は舐められるんだよ!」

 赤井は、目の前の人物が何者で何でこんなことをしたのか考える前に――私の言葉を理解した。そうか、そういうことかと。何で、自分の小説が駄作と言われていたのかを今悟った。

「そうか――」

「だから周りに馬鹿にされるんだ。ったく――」

 私は赤井を見ていった。

「俺が、お前を一流の小説家にしてやる」

「……はい?」

 自分でも思う。何を言ってるんだと。

「文句を言うな。信じろ、俺が絶対にお前を一流にしてやる。おもしろい小説を書けるようにしてやる」

 あいつは、このときも私が何者だとか考えてなかったのだろう。私が言い終えた瞬間、間もおかずに返答した。

「マジで!? うん、ありがとう! よろしく頼むよ!」


 それから、私はあいつに小説の特訓をさせた。

「そもそも、小説は他のジャンルとは違う。映画や音楽、漫画とはな。小説ってのは、どうしても不完全で、作品に入り込みにくいんだ。これが他なら違う。映画や漫画は絵があるから、音楽も音があるから、その作品が何を伝えたいのかすぐに分かる。だが小説は違う。小説はあくまで、読者の中で描く芸術だ」

 だから、読者が分からないと意味がない。

「だから、まずは分かりやすくすること。文章や話の構成だな。そして、登場人物を感情移入しやすいようにする。語り手や主人公は、いわば読者の視点だ。彼らを使い作品に入り込ませるには共感させなきゃいけない。読者が「あ、これ私も分かる」と共感させれば読者は小説に意識を潜らせるんだ」私は何度も言う。「いいか、他のジャンルはミサイルのようにぶっ飛んで読者に作品を伝えることができる。だが、小説は違う。まずはこちらに読者を引き寄せて、それから殴ることでしか作品を伝えられない」

 随分、荒っぽい説明だ。

「これが出来なきゃ、小説はただのインクのしみだ。分かるか? よし、まずは基礎を徹底的にやろう」

 そして小学生の国語教科書から教え、学ばせ、文章力を鍛えた。本も一日一冊は読むようにさせ、物語の構造、プロットは昔のハリウッド映画を中心にメモすることで鍛えさせた。(小説もメモさせたが、映画の方が見ながらプロットをメモすることができてやりやすい)

 一年もすると、赤井はあっという間に成長し、伝えたいこと、作品でやりたいことを明確に読者に伝えられるようになり――小説がおもしろくなった。

「ありがとう、しんちゃん! おかげで僕、何でも書ける気がするよ」

 今までは、気持ちだけが前に出ていた。作品には必ず本質と呼ばれるようなものがある。(言葉は何でもいい、核でもテーマでもだ)スタローンのロッキーは貧乏で明日もどうすればいいか分からない不安を抱きながら、それでも負けないぞと作られた。人間失格は太宰治が死ぬような苦悩をしたからこそ、できた。どんな作品もそうだ。その作品がその作品である理由――作者が込めた想いのようなものが込められている。

 だから、それを見た者は感動するのだ。心を動かされるのだ。人は、人の心でしか心が動かない。赤井はそれを最初からしていた。だが気持ちだけが前に行き、伝える技術が稚拙だった。

「僕さ、次はこんな小説を書きたいんだ。題名はそうだな。ダイヤモンドって、確か名前の由来はラテン後で『誰にも屈しない』だっけ。だから、主人公はありとあらゆる敵と戦いながらも、屈しない――そんな物語を書きたいんだ」

 私は言った。

 いいじゃないか、それおもしろそうだ。

 誰も友達がいなくて宇宙にしか想いがはせないからそれを映画にして有名になった監督がいた。幼い頃から体が弱くて、強さに憧れ、屈したくないという想いが、弱者が強者に立ち向かう漫画を書かせたキッカケになった者もいた。

 このとき、BASARAに込められた想いは明白だ。

 あいつも私も、こんな世界が嫌だったんだ。タカ派も平和主義者も、どっちもクソで、どうしようもない世界。だから、私たちはフィクションの世界に救いを求めた。

「俺も分かるよ。その気持ち――」

「なら、しんちゃんも書いてみたら?」

 赤井は言った。

「これだけ教えるのが上手いんだから、しんちゃんも書けるよ。てか見てみたいよ」

 俺は、奴にのせられて小説を書いた。

 後日、あいつは驚愕の顔で言ったっけ。

「……おかしいよ、しんちゃん」顔面蒼白だったな。「これ、おもしろくないよ?」

 私と赤井の違いは明白だ。

 私は、どうしようもない世界に対抗する手段で、思考停止を選んだ。

 売国者と罵られても、いっしょにあいつらを殺そうぜと誘われても、思考停止することで、現実から目を逸らして乗り切った……いや、逃げた。

 だが、赤井は違う。いつも、どんなときも、考えて考えて考え抜いて、そして小説で答えを出した。

 あいつは想いだけは一人前で、いつも読者に訴えかけたいメッセージがあった。

 ……私には、なかった。

 何もなかった。


(了)


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