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Epilogue

その日から自然といつも一緒にいた。恋人、って言葉に何だかそわそわする。

過去の話や未来の話、好きなものや嫌いなもの。話したい事や聞きたい事は無限にあって、初めて1日が24時間じゃ足りないと思った。

意外な程お喋りな自分に気が付いて、そんな発見が楽しかった。


2人きりの年越しは、静かだけど新たな始まりに胸が高鳴った。

年越し蕎麦を食べてみたい、という申し訳なさそうなお願いを聞いたら、目をきらきらさせて喜んでくれた。

来年も再来年も、これからずっと、同じ様に何でもない日を一緒に過ごしていけたらいいな。

独り言の様に呟くから私の気持ちは置いていかれている気がして、私は一緒に過ごすつもりですよ、と不貞腐れつつ言葉を落とす。

ちらと盗み見ると蕩ける様な笑顔でこちらを見ていたから、それだけで幸せだって思えた。



1月中旬。無事Café for Partnerはオープンを迎えた。初日の今日はお世話になった人達との慰労会。

源さんと建築チームの数人や上尾さん、梶野インテリアの5人を迎えて私達がおもてなしをする。

源さんと上尾さんは同じテーブルを囲んで互いの仕事ぶりを評価しつつ、専門的な話で盛り上がっている。

梶野インテリアの面々は、自分達がつくったソファに腰を下ろして落ち着かない様子。それでもこのカフェの大事な部分を担っている事に喜んでくれた。

社長もその出来を言葉少なに褒めてくれた。流石だな、の一言で全て報われた様な気持ちになった。


楽しい会も数時間が過ぎれば、新幹線の時間を気にして皆が席を立つ。もっといてほしい気持ちはあるけれど、忙しい人ばかりで引き留めるのは気が引けた。

それぞれを見送り、6人で片付けを始める。予定ではこれから、カフェのスタッフと最終の打ち合わせをする事になっている。向こうに帰ったらもう夜だろう。

「今日、晩ご飯どうします?」

片付けを終えて、彼に小声で尋ねる。

「うーん、そうだな。」

答えを待っていると視線を感じて2人で振り返る。すると4人がカウンターからこちらを見ていた。

「2人は先帰ってもいいですよ?」

「後は俺達でやっておきますし。」

「引き継ぎだってバッチリです!」

「じゃ、俺も帰っていい?……痛ッ!!」

林田君の一言に竜胆さんが頭を小突く。隣で沙希ちゃんが空気を読め!となじる。夏依ちゃんはそれにただ笑っている。気を遣っているのが分かるから、私達は顔を見合わせて笑った。

「お言葉に甘えて帰ろうか。」

「はい。」

気を付けて、と言う声に見送られて外に出ると、晴れ渡る青空とは裏腹に痛い程冷たい空気が身体を一気に冷やす。路地を歩き出すと当たり前の様に手を握られて、私もきゅっと握り返した。

「あー、ちょっと待って。」

「え?」

握っていた手を解かれたと思ったら、その手を下ろす間もなく抱き締められた。

突然の事に驚いていると、体を離した彼が言う。

「幸せだな、って思ってさ。」

照れくさそうに頭を掻く彼が愛おしくて、今度は私が抱き締めた。




いつになっても、その気持ちは膨れるばかりで。

彼がいなければ、きっと想いの断片すら知らないままで。


愛の意味を知る日。それはきっと、蜃気楼。

ずっとそう思っていた。

あまりにも穏やかな日々。

初めて隣にいたいと思える人が、すぐそこで名前を呼ぶ。

笑い合い、手を取り合って互いの温度を分かち合えば、

愛している、と本気でそう思えた。


貴方以外に愛せる人はいないから、

どうかこの手を離さないで。


誰にも感じた事のない想いを今、

貴方だけに伝えるから。

あの時の貴方の様に、真っ直ぐに伝えるから。


「俺は君を、愛してる。」

―黒く染まっていく窓に、寄り添う2人が映った。


 

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