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34.お揃い

あの後約束通り立花さんの買い物に付き合う筈が、私の買い物に付き合ってくれて、実家に送るものも一緒に見てもらった。疎遠になっているという事だけ話したら、

「じゃ、菅野を想える様なものが良いかもな。」

と提案してくれた。最初に気になっていたガラス細工の鳥の置物を見てぴったりだな、なんて言う。そんな風に言われて何だか嬉しくなって、すぐさま包んでもらった。浮かれた私は今度届けに行こうかな、とまで考えた。…早く届けに行けるといいな。

他にも幾つか買い物をしてから他の4人と合流したら、沙希ちゃんの荷物がすごかった。

「これは今日無くなっちゃうんで、荷物にはなりません。」

そう言って笑うから少し唖然としたけど一緒に食べようね、と声を掛けられてほっとした。1人で食べるって言われなくて良かった……。


旅館へと戻り玄関から伸びる廊下を歩いていると、番頭さんに呼び止められる。

「お客様、花火大会には行かれるんで?」

「はい。そのつもりですが。」

立花さんが代表して答えると、番頭さんは

「実は、本日お泊りのお客様で花火大会に行かれる方には

 サービスで浴衣の貸し出しと着付けをしておるんです。

 皆様、良かったら着られませんか?」

と言ってくれた。

着たい!折角の花火大会だから浴衣も着れたら嬉しい。旅館の浴衣じゃ物足りない。それに…立花さんの浴衣姿もきっと素敵。

「じゃ、お願いします。」

「はいはい。

 ではご用意ができましたら季の間にお越し下さい。

 そこで浴衣をお選びいただけますので。」

「はい、ありがとうございます。」

恐らく皆の願いが通じて、浴衣を着られる事になった。楽しみがもう1つ増えた。


温泉に入る、と言う2人に付いて私も本日2度目の温泉。夜はいつ入れるか分からないもんね。

温泉に浸かるとすぐ、

「あの、昨日の続き良いですか?」

と夏依ちゃんが言い出す。夏依ちゃんの好きな人の話だろう。

「いいよ。」

「まだ話途中だったもんねー。」

答えを聞いて夏依ちゃんは笑って言う。

「沙希さんは竜胆さんで、湖陽さんは立花さんが

 好きって事で良いんですかね?」

その言葉に2人して声を裏返して固まった。夏依ちゃんの話じゃないの?!

「あれ、違いました?」

「いや、まぁ私は違わないけど……はるちゃんは、ねぇ?」

沙希ちゃんは控えめに私を見て確認してくる。何て答えたら良いのかな?嫌いじゃないけど、まだ好きってよく分からないし……。

「あぁ、という事は立花さんの片思いなんですね。」

「へ!?」

「あれ、これは合ってますよね?」

「う、うん。まぁね。てんちゃん恐るべし……。」

沙希ちゃんが呟く。夏依ちゃんって意外とストレートというか言葉を選ばない子だったんだね……。

「お二人共、今日何か進展があると良いですね!

 ていうか、進展させちゃいましょー!!」

そう1人意気込んで夏依ちゃんはザブンと波を起こしながら早々に出て行った。

「てんちゃん、パワフルだね……。」

「うん、意外な一面を見たね……。」

残された沙希ちゃんと呟き合って、私達も温泉をあとにした。


部屋に戻ってから立花さんがくれた包みを開けてみる。中には着物の生地でできたバレッタが入っていた。黄色い小さな花で彩られていて、優しく柔らかな雰囲気のこのバレッタが私に似合う、と言ってもらえたのがくすぐったかった。



「うわー、沢山ありますね!迷っちゃいます。」

夏依ちゃんの言葉はもっともで。女性用80着、男性用50着がこの季の間に全て収められているからそこら中浴衣だらけ。これは迷いそう。

と思ったらすぐに決まってしまった。バレッタの色合いとよく似た、白地に大きく黄色い花が描かれた浴衣。まるで生地に直接筆を入れた様な風合い。色も雰囲気も一目見てこれしかないと思った。

「立花さん、着ないんですか?」

着替えるために隣の部屋へ行こうとして立花さんが少し離れた所に立っているのを見つけた。自分の持った浴衣は気付かれない様に小さくまとめた。

「ん?まぁ、どっちでもいいかなって。」

「折角なんで着ましょうよ。

 その、浴衣姿、見たいです。」

何でもない様に言われるから、我儘にも見たいなんて言ってしまった。浴衣姿で一緒に並びたい。

「……そうか?じゃ、着よう、かな。」

「はい、是非。」

着る気になってくれたのを確認して、部屋を出る。

隣の部屋に移った私を追う様に沙希ちゃんも入ってくる。仲居さんが着付けをしてくれるそうで、浴衣を渡してからはなすがまま。すぐそこで同じ様に着付けてもらっている沙希ちゃんを見ると、目が合って小さく笑い合う。

沙希ちゃんは落ち着いた淡い水色に白やピンクの花が散りばめられているもので、沙希ちゃんらしい明るさや可愛らしさに大人っぽさが加わっていてそれがよく似合っていた。

遅れて夏依ちゃんもやってきて着付けが始まる。夏依ちゃんの浴衣は、薄い黄色をベースに水色やピンク、紺等の縞が入ったレトロな雰囲気。いつも快活な夏依ちゃんがぐっと大人の装いで素敵だった。

「あれ、そのバレッタ浴衣とお揃いみたい。」

髪を自分で結い上げて仕上げにバレッタを留めると、沙希ちゃんに声を掛けられた。

「どう、かな?変じゃない?」

「めっちゃ似合ってるよ!!」

心配になって立ち上がり、沙希ちゃんの反応を伺うと全力で褒めてくれる。

「本当?白い浴衣って、着るのちょっと勇気いるね。」

「もう!そのはにかむ姿すら可愛いよ!」

「どうしたんですか?」

着付けを終えたらしい夏依ちゃんが近付いて来る。そして目ざとく私の浴衣とバレッタに目を留める。

「素敵なコーディネートですね!

 そのバレッタ、もしかして今日買ったんですか?」

「いや、えっと…立花さんが、」

それだけしか言えなかった。だって。

「買ってくれたの?!うわ、立花さんやるなー!」

「私もそんな事されてみたーい!」

「え、」

「こんな可愛い姿見たら、立花さん気絶しちゃうね。」

「さっき自分があげたものをつけてくれて、それに合わせて

 浴衣も決めてくれて。鼻血ものですね!」

「ちょ、」

「どんな顔するのかねー。楽しみだ!」

「じゃ、行きますか。」

2人で勝手に盛り上がって口を挟む事なんてできなかったから。しかも先に行っちゃうし。大きな溜息をつく。姿見の前で自分を見てみる。似合っているのかよく分からない。褒めてもらったけどお世辞だったかな。

勇気を出して着た白い浴衣。できれば似合ってるって言って欲しい。



季の間に戻ろうとした私達を林田君が止める。

「3人共よく似合ってるねー!

 悪いんだけど先に玄関で待っておいてよ。

 その方が待ち合わせぽくって良くない?」

それで一足先に玄関先に行ってそこで待つ事になった。浴衣の事を知らせてくれた番頭さんと仲居さんが通りかかって、

「皆様、よくお似合いで。」

「楽しんで来てくださいませ。」

と言ってくれた。自分の姿を見られる事と立花さんの浴衣姿を見る事に対して、どんどん緊張感が増していく。

「お待たせー。」

林田君の声が聞こえてきた。

「わぁお、やっぱり浴衣ってすごいですね。」

夏依ちゃんの声もして後ろを振り返る。すぐに動けなくなって、ただ一心に見つめている事しかできなかった。

白い浴衣、袖口と首元を彩る赤いライン。赤とんぼが足元を飛ぶ。全てを受け止めてくれそうな程に純粋な白と、固い意志を持った赤。そっと寄り添ったその2色は、真っ直ぐで揺るぎなく、そして包み込む様な優しさを持った、彼自身を表している様だった。

やっぱり赤が似合う。夕日みたいに鮮やかで暖かな。時計の針の色に選んだのは間違いじゃなかった。

見つめ合った2人。この瞬間、確かに時間が止まった。

「行きますよー。」

沙希ちゃんの声で我に返る。4人はもう先を進んでいて、私達も急いで後を追いかけた。自然と前との距離を少し開けて私達は話し始めた。

「……良く似合ってる。浴衣も、バレッタも。」

言って欲しかった言葉に胸が高鳴る。誰に言われた時とも違う、心が暖かくなる感じ。

「……素敵なものをありがとうございます。

 バレッタの色に合うのを見つけたので、

 これにしました。」

白状するのは恥ずかしいけれど、嬉しかったからこの浴衣を選んだのだと分かってほしかった。

「立花さんもとても似合ってます。

 白を選ばれるのは、何だか意外です。」

「林田が絶対似合うって薦めてくれたから。」

「そう、ですか。」

林田君も立花さんに赤が似合うって思っていたのかな。私だけじゃなかったのかな。……先越されちゃった。

少ししょんぼりしていると、前を歩いていた夏依ちゃんが突然振り返って、

「あ、お二人共白で、並んでると何だかお揃いみたい。」

なんて微笑むから、どちらも恥ずかしさに次の言葉が暫く出なかった。

……夏依ちゃん、そういうのはいらないよ……。


 

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