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33.大きな気持ちの小さなカタチ

「思うんですけど、やっぱり本当に格好良い人って

 着飾ってないのにオシャレですよね。」

旅館の人から近くにお土産屋が立ち並ぶ通りがあると聞いて、皆でそこに向かう。

途中で隣を歩く夏依ちゃんがそんな事を言い出す。前を歩いている立花さんと竜胆さんを見ているらしい。

「確かに。」

そう呟く立花さんは自分も言われている事に気が付いていないらしい。

「いや、立花さんも入ってますからね。」

「いやいや、普通な格好だし。」

立花さんは自分の格好を眺めている。ちゃんと自分に合う服装が分かっているからおしゃれなんだよね。

「お二人共、モデルみたいですよ。」

「いいなー、俺もそんな事言われたい!」

林田君も格好良いと思うけど、身長180cm以上あるモデル体型の2人と並ぶと引き立て役にしかならないって前に嘆いていた。

「身内の贔屓目だな。」

「ですね。」

立花さんと竜胆さんは我関せずでそんな事を言う。誰から見てもそうだと思うけれど。

そうしている内に目的の通りへ到着する。立ち並ぶ店はどれも周りの景観を損なわない佇まいで、真ん中を走る石畳の道にも風情を感じた。

お団子を売るお姉さんが試食を差し出し、民芸品の店先ではイグサの香りが鼻をくすぐる。どこかの店の店主の鼻歌が聞こえた。

それぞれ好きなお店に入ることにして散らばった。ガラス細工の店にある小さな鳥の置物が可愛い。ここの限定品のお菓子も美味しそう。そんな風に何件かの店に立ち寄っては買わずに出てしまう。何を買おうかな?配りたい人は皆ここにいるからいらないし、他にお土産を渡す様な相手も特にいないなぁ。実家に、何か送ろうかな?


「菅野、ちょっと助けて。」

「え?」

悩んでいるところに向かいの店から立花さんがやって来る。ガラスの戸の向こうに煌びやかな着物が見えた。

「俺の生命の危機だから。」

「へ?」

生命の危機?一体何があったの?!

「そちらの方への贈り物でしたか。」

「え?」

店の奥まで連れて行かれると、待っていたらしい美人な店員さんが微笑んで言う。贈り物?訳が分からないけど、着物の似合う人はどうしてこうも大人の色気みたいなものを感じさせるのだろう。

「いえ、違うんです。」

速攻否定される。否定するにももう少し柔らかく言ってくれてもいいじゃない。期待なんてしていないのに、何かがっかりするじゃない。

「千果に帯締めと簪を買ってこいって言われてんだけど

 どれ買っていいか分かんなくて。

 あいつ、いつもどんな着物着てるっけ?」

「何度も見てるのに、覚えてないんですか?」

「幼馴染みの服装を一々記憶なんてしないだろ。

 着物とか更に覚えにくいし。」

それってどうなんだろう。興味がないとそうなっちゃうのかな。でも色の系統くらいは分かっていても良さそうだけど。意外な無頓着さに溜息が出る。

「基本的に青とか紫のはっきりした色が多いです。

 帯は反対に白とか銀ですね。」

「そうか。そうなると暖色系かな。」

近くにある帯留めに目が行く。朱色に金糸が織り込まれていたもの。目を引く華やかな雰囲気が千果さんにぴったりだと思った。店員さんが教えてくれる。

「その帯締めは限定品なんですよ。」

「その色に合わせて簪も選んでくれ。」

そう言われて戸惑う。千果さんは立花さんに頼んだのだから立花さんが選んだ方が良いんじゃないのかな。

「私が選んで良いんですか?」

「俺じゃ千果を怒らせそうだ。」

眉を下げて言うから、確かに着物の色も覚えていない立花さんじゃ、怒らせちゃうかも。両方のためになるなら私も参加しようかな。実はこういうものを選ぶのって好きなんだよね。

「どれがいいですかねー。

 うーん、これかこれ、どっちが良いと思います?」

立体的な朱色の花が入った透明なとんぼ玉が付いたものと、留め部分が朱色で白い花が幾つも付いたもの。どちらも似合うと思うけど最終決定は立花さんがすべきだよね。

「……菅野が良い方でいいよ。」

「だめです。立花さんからのお土産なんですから。」

「気にしないと思うけどな。

 そうだなぁ、こっちの方が千果っぽいかな。」

選んだのはとんぼ玉の付いた方。私もそう思った。

「じゃ、これとこれですね。

 うん、千果さんにとっても似合うと思います。」

千果さんへのプレゼントを選ぶ事になるなんて思わなかったな。でもそうやって千果さんとの繋がりも深くなっていけばいいな。

「助かった。会計するから、買い物してきていいぞ。」

別に一緒に店を出ても良い筈なのになぜか早く出て行かせようとする。不可解だけど断るのもおかしい。返事をして店を出た。



気になる。とても気になる。入口すぐに掲げられた着物の隙間から立花さんの背中と店員さんの楽しげな様子が見える。何やら話している途中でこちらを見た店員さんと目が合った。はっとしている私をよそににこやかに微笑んでまた何かを話している。着物の袖で立花さんは見えない。会計が済んだのか店員さんは頭を下げた。

いつの間にか戸の向こうに立花さんが現れた。今更だけど見ていない振りをしてよそ見をする。

「……買い物してて良かったのに。」

「えっと、立花さんが1人はぐれちゃいけない

 と思いまして。」

「おいおい、俺そんなに子供じゃないぞ。」

自分でもなんて下手な言い訳だと思ったけれど、楽しそうに笑ってくれたからいいか。そんな事よりさっきの店員さんとのやり取りが気になる。

「さっきはありがとな。」

「いえ。お力になれて良かったです。」

「はい、これ。」

小さな包みを渡される。受け取ってから何ですか?と尋ねた。

「プレゼント。」

「そんな悪いです!」

もしかして選ぶのを手伝ったから?そんな事のためにプレゼントなんか貰えない。急いで追いかける。

「君に似合うと思ったから。

 店員さんに笑われたんだから、責任取って受け取って。」

君に似合う、の言葉に心は跳ねて店員さんに笑われた、の言葉に首を傾げる。

「え、笑われた?」

「千果のは悩んでたのに、それは悩まなかったって。

 あ、ちょっと恥ずかしいから、今開けるのなしね。」

千果さんのは私を呼ぶ程悩んでいたのに、私のは悩まなかった。だからもはやすぐに出てきたのか。…どうしてこんなにも私を喜ばせるのが上手いのだろう、この人は。嬉しいを通り越して恨めしい。

「じゃあ、それあげる代わりに、俺の買い物付き合ってくれる?」

プレゼントを貰う事に引け目を感じていると思っているらしく、そんな交換条件を出してくる。引け目を感じない訳ではないけれど、返せと言われても返す気はない。今私の手の中にあるから。

「いいですよ。変なの買わせますからね?」

恨めしい彼にそんな意地悪を言ってみる。

「…それはやだな。」

その時弾けた笑い声は、暖かな太陽のひだまりの中に染み入る様に溶けていった。


 

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