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10.忙しい一日

帰ってから沙希ちゃんの言葉を思い返していた。

《立花さん、本気ではるちゃんを好きだよ》

立花さんの気持ちを疑っていた訳じゃない。でもどこか他人事の様に感じていた。それをちゃんと自分の事として再確認したら、鼓動が早くなってなかなか寝付けなかった。


翌日、何故だか緊張してしまう自分に喝を入れて出勤する。昨日の飲み会が楽しかった、なんて話をしていると最後に立花さんが出勤してきた。挨拶もそこそこに、林田君がつまらなさそうに立花さんに話し掛ける。

「立花さーん。今日は千果さんとこからっスか?」

「ん?あぁ。」

「もしや美味しい朝食も頂いて来ちゃったんスか?」

「あぁ。」

「いいなー。俺も千果さん家泊まって、朝食頂きてー!!」

面倒臭そうな答えが返ってくると、机に突っ伏して願望を叫ぶ林田君。

「千果さんの前でそれ言ってみたら?」

沙希ちゃんが楽しげに言うと、がばっと起き上がって真面目な顔で言う。

「沙希よ。こんな事言ったら引かれるに決まってるだろ。」

「下心が丸見えだもんな。」

竜胆さんの鋭い言葉にへなへなと倒れ込む。林田君には悪いけれどこれは笑っちゃう。夏依ちゃんと目を合わせて、声を出して笑ってしまった。


「そう言えば、俺の知り合いが言ってたんだけど。」

「お!今回は何ですか?」

唐突な立花さんの発言に沙希ちゃんが身を乗り出す。最近「俺の知り合いが」ってフレーズをよく聞く。大抵は恋愛絡み。そしていつも林田君へのアドバイスの様に思う。もしかしたら林田君を知っている人からの言葉なのかもしれない。

「その話聞いたら千果さんに近付けるっスか?」

「今よりはな。その知り合いが言うには、

 『格好付けた時程、格好悪くなる。気取らない自然体の

 ままの方が、女には格好良く映る』そうだ。」

怪訝そうな視線を無視して立花さんが言った。この「知り合い」の方は女性なのかな?

「……つまり格好付けずそのままの自分でいろと。」

少しの沈黙の後、やっとの思いで声を出した林田君。頑張ります、とは言っているものの更に落ち込んだ様に見える。軽い人だと思われがちだけど本当は真っ直ぐな人だって事、千果さんには伝わっていると思うんだけどな。


9時を回り、立花さんの声が響く。

「コラボ企画の案件がとりあえず昨日で一段落した

 という事で、また新しい仕事が入った。」

「もうですか!?

 ちょっとゆっくりできると思ったのに……。」

「俺もー。」

正直、私ももう少し期間が空くかと思ってた。急ぎの仕事だろうか。

「とは言っても今回は期間が2ヶ月ある。」

いつもは長くても1ヶ月くらいなのに2ヶ月もあるんだ。もしかして相当大変な仕事なんじゃないの?朝とは違う緊張でそわそわする。

「何やるんスか?」

「ジュエリーだ。クリスマスシーズンに発売予定。

 企画するのはリングとネックレス。

 どちらもペアで出す事になっている。」

ジュエリーって初めてだな。ペアのリングとネックレスか。面白そう。


「キャッチコピーは【愛を繋げるクリスマス】。」

続けられた言葉に思考が止まる。愛を繋げるクリスマス。愛を、繋げる…?


「クリスマスにプロポーズって事ですね?」

「あぁ。まぁ、限定しなくてもいいがとりあえず

 プロポーズの時のプレゼントとして考えてくれ。」

考えられる自信がない。どうしよう。2ヶ月で、足りる?

「なんで伝えるじゃなくて繋げるなんスか?」

「……未来に愛を繋げるという意味合い、だそうだ。」

プロポーズは未来に愛を繋げる事。そういう意味合いだろうか。これは誰かに相談してみた方が良いかな、お母さんとか。大好きな仕事の筈なのに少しだけ憂鬱な気分。



「それで今回から天馬も参加する。」

「へ?」

夏依ちゃんは意味が把握できていないらしい。口が開いたままになっている。

「天馬。今回のこの企画から、正式に

 Life Total Producerだ。1年間よく頑張ったな。」

反射的に出した夏依ちゃんの手に名刺の束が置かれる。LTPのロゴが大きく書かれた名刺。チームの一員である事の証。それを受け取る事が私達にとってどれほどの喜びか、きっと皆思い出しているだろう。うわ言の様に、正式にLTP、と繰り返していた夏依ちゃん。やがて。

「うぅ、うぅ……」

嗚咽を漏らしながら大粒の涙を流す。

「てんちゃん、おめでとう!!」

「夏依ちゃん、頑張ろうね。」

背中を摩りながら声を掛けると首が取れそうな程、何度も大きく頷いた。

「わ、私、私、頑張りますっ!!

 改めてよろしくお願いしますっ!!」

立ち上がって吃りながらも必死に伝える夏依ちゃんに思わずもらい泣き。ずっと一生懸命、頑張っていたもんね。これから一緒に頑張っていこうね。 

「大変なのはこれからだからな。気引き締めろよ。」

厳しく告げる立花さんの声も、いつもより潤んで聞こえた。


 

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