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暁の王国  作者: 観月
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プリムリーズ -2-

 プリムローズの部屋はこじんまりとしていたが、落ち着いた部屋だった。

 このタタール地方より南部では町の歓楽街は朱色の門が目印となることが多かった。さまざまな形態の店が軒を連ねていたが、ここ「ゴブレット」は、なかなかに敷居の高い館であった。

 一見の者は、入ることを許されないうえに、なじみにならなければ、意中の女性を指名することもできない。特に個室を与えられている三名に至っては。彼女たちは豊富な知識と情報網ともちろん美しさと己の芸……そして何よりも口の堅さでもって、このリヴィエリの町の実力者たちにとってはなくてはならない存在であった。

 そのプリムローズが二人を部屋に通して、ドアを後ろ手に閉めるとぎらぎらと燃え立つような目で二人をにらんだ。毛が逆立っていそうだ。

「あなた、誰?」

 おもにその眼はライトを見て放さない。

「あなたが、狩人でないなら、味方になれると思うけど?」

 ライトが答える。

「だから誰かと聞いているの! 私は狩人ではないけれど、今まで魔道士だときづかれたことはないわ。あなたにさっき腕をつかまれた時、何かが腕を這い上がってくるような気配がしたわ。わざとやったのよね? あなたもそうなのね?」

「あなたの防護壁も、なかなかうまく張れているよ。だから今まではうまく逃げおおせていたかもしれないけれど、昨日、俺たちはここより少し上流の山中で黒の魔道士の男に襲われたんだ」

「なんですって?」

「俺はライト。昨日狙われたのはこっちのアレン」

 プリムローズは多少警戒を解いたようだった。

「俺たちはあいつを逃がしたし、あいつにとっても俺たちを逃がしたと思っているだろう」

「だったら、そいつの狙いはそこの少年ってことね。私には関係ないわ」

「あるよ。昨日渡り合った感じからいくと、相手はかなり感覚の鋭い奴だよ。あんたの防護壁は俺に見破られたんだぜ? 俺たちを追って、この町にも探索の手を伸ばせば、プリムローズも網にかかるんじゃないの? あいつらの目的は黒の魔道士以外の魔道士という魔道士を根絶やしにすることなんだから」

「嫌になるわ!」

 たたきつけるように言うと、プリムローズは天を仰いだ。

「今も昔も、私はこんな力欲しいと思ったことはないわよ。遠い先祖に山の民がいたってだけよ。父さんだって母さんだって普通の人間だったわ。魔道士とわかれば以前はお城へ駆り出されて、いやがおうにも魔道士隊になるしかなかったし、今度は今度で、殺されるしかないんですものね!」

「取引をしないか?」

 ライトはプリムローズから目を逸らすといった。

「あんたに、俺が防護壁を張る。こちらの条件は人探しだ。アレンの父親だが、この町で落ち合うことになっている。それらしい人物がこの町に入ってないか探してほしい。俺たちは防護壁は張ってるものの、面が割れている」

「ずいぶんと自信があるのね。あんたの防護壁は完璧ってわけ?」

「プリムローズが感じたとおりにね」

 ライトがおもむろにプリムローズに近づくと首元に手を当てた。

「きゃ! ちょっと待って。いきなり!?」

 プリムローズが追い詰められたように入口のドアに背中をぶつける。顔に赤みがさす。

「相手は、こうしている間にもこの町へ網を仕掛けてるかもしれない。早い方がいい」

 プリムローズがライトの手の当たった首元を抑えている。

 アレンは防護壁を作るときのピリピリとするような、こそばゆい感触を思い出した。

「あの、ぼく、下で待ってようか?」

 プリムローズがはじめてアレンをまじまじと見た。ちょっと幼げなアレンの顔を見つめると再び天を仰いだ。


 

 アレンは、どうやらこの「ゴブレットの館」の女たちに気に入ってもらえたようだ。

 お菓子を運んできてもらうと、一緒におやつを食べていた。何より、アレンは女の子と話すのも苦にならないタイプだった。

 女たちは二人の名前も聞きだして、プリムローズとの関係も探りを入れようとするのだが、当のアレンですら、どういう設定になっているものかわからないのだから、説明しようもない。三人とも魔道士で、黒の魔道士から逃れている繋がりだと言えるわけがない。

 ただ、女の子たちと楽しく話しているうちに2階から降りてきたライトがひょっこりと顔を出した。小一時間ほどは過ぎただろうか?

「アレン、プリムローズが呼んでる」

 足取りも軽やかに、心なしか声もウキウキしている。

 アレンは心の中で確信した。

(ライト、楽しんでるよね? きっと。ぼくの時も面白がってたんだろうなあ。いじめるの好きだよね?)

 プリムローズに何やら同情したくなるような気持になったのだった。

 アレンとライトがプリムローズの部屋へと上がっていくと、はたして……心なしか疲れた顔をしたプリムローズが待ち構えていた。

「アレン、あんたの父さんの特徴を教えて。探そうにも情報がなきゃ何ともならないわ」

 プリムローズの問いに、アレンは父の面影を思い浮かべた。

「髪は短く刈っていて、でも、鼻の下と、あごにひげを生やしていて……もともとは黒かったのだけど、今は白髪の方が多くて……顔は面長、日に焼けている。もともとは暁の城で人間の兵士として勤めていたらしいし、いまだに鍛えているから、ごつい感じで……あ、名前は、ミラース。ここに傷があるんだ。」

 と、アレンは自分の左ほおを指差した。

「わかったわ。こんな仕事をしてるしね、情報集めには多少自信あるのよ。やると言ったらきちんとやらせてもらうわ。明日の昼前までに宿屋に一報を入れる。収穫があろうとなかろうと。それでいいかしら?」

 プリムローズの細い右の眉が「どう?」というように跳ね上がった。


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