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暁の王国  作者: 観月
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プリムローズ -1-

 先ほど買い物をした商店が立ち並ぶ通りのはずれから一つの脇道が伸びる。その脇道の出入り口には朱色の扉のない門がたっていた。その門をくぐると、たくさんの店のようなものが軒を連ねている。ただ、どこも空いている様子はない。ところどころで、飯屋のようなものが数件だけ扉を開けて営業しているようだ。大通りの店に比べると、店の入り口の扉にはけばけばしい模様のステンドグラスがはめ込まれていたり、入口のわきの部屋には大きな上げ下げ窓があったり、その窓にも素敵な、でも、どこか装飾過多とも見えるような格子がはめ込まれていたりする。ライトはその中の一軒の建物の前で立ち止まった。

 そこは奥まった一角で、他の店に比べると真っ白な壁に、戸口にはめ込まれた花の模様のステンドグラスも、高級感がある。こじんまりとした小さなお城のようだ。軒下にぶら下がった木製の看板には空のゴブレットの絵柄、その下に「ゴブレット」と書かれているのは、店名だろうか? この店も営業はしていないらしく、扉は固く閉ざされている。

 ライトはそれを確認すると建物のわきの人二人が並んだらいっぱいといった風な細い路地を入って裏へと回っていく。建物の裏は美しい庭があって、胸の高さほどの壁で囲まれている。一部分が扉になっていて、そこから庭へと入っていく。このあたりの店の裏は川になっているのだった。

 庭では桃の木が花盛りだった。庭の中央には井戸があって、その周りに煉瓦で囲まれた花畑。木立に囲まれた東屋。

 ライトは花畑を抜けると、建物の裏ぐちから躊躇することなく入っていく。アレンは美しい庭に興味を持ったようだが、ライトに遅れないように後に続いた。

 裏口から建物の中に入ると、土間になっていて、そこには竈などがある。

 土間の隣には部屋あって、女の子たちが数人、大きいテーブルを囲んで化粧をしたり、おしゃべりに花を咲かせている。この部屋にも、大きな上げ下げ窓があるが、通りに面した窓とは違って、白い木枠のシンプルなものだ。

 二人が入ってきた気配に一番入り口近くに腰をおろし笑い声をあげていた女が振り向いた。

「えーっと」

二人の顔を見るとどうやら見知った顔ではないと判断したようだ。

「何の用?」

と、訪ねてくる。後ろの女たちも様子に気づきこちらを興味深げに見やる。どの女も、大変に美しい顔立ちをしている。

 ライトは少しそこにいる女たちを見回すと、

「人を探しているんです」

 と、答えた。

「人? ここで?」

 女たちは互いに顔を見合わせる。

「ちょっと、事情を話してごらんよ。あら、かわいい男の子二人もして、いったいこの店で、誰を探してるっていうの? ちょっと、ここの客になるには早いんじゃあない?」

 笑い声が上がり、上がっておいでと声がかかる。

 薄暗い土間から明るい部屋へと入る。部屋の奥の引違戸は開けっ放しになっていて、そこからは二階へと上がる階段がちらりと見える。

「あらー、かわいいこじゃあないのお」

 黄色い声が上がる。

「坊やたちいくつよぉ」

「なぁに? 誰を探してるって?」

 二人の顔を見ると面白いおもちゃを見つけたように取り囲み話しかけてくる。

「姉を探しているんです。ここで見たという人がいて」

 ライトの視線はこの部屋に入った時から階段の上を見つめている。

「って、この中にはいないわけよね? もしかして姉さん方のうちの誰かかなあ?」

「名前はわかんないの?」

「……アンジェ」

 アレンの方はライトの受け答えにぎょっとなったが、訳も分からないし、とりあえず沈黙することに決めた。

「って、本名?」

「ちょっと、誰か姉さん方の本名知ってる?」

「お兄ちゃんたちの名前はなんていうの!」

「本名なんてわかるもんかい。上にいるのはラベンダー姉さんとアイリス姉さんに、プリムローズ姉さん、あ、お母さんもか」

「お母さんがこの子たちの姉さんってことはないわよ~!」

 ライトの一言に、またもやハチの巣をつついたようなにぎわい。その時、二階からぎしり、と床がきしむ音がして、階段を下りてくる足音がした。

「ちょっと、あんたたち、今何時だと思ってるのよ、昼すぎたばっかりよ? こっちは明け方近くまで働いてるの! もう少し寝かせてちょうだい! まったく、この時間じゃあ、もう、寝る気にもならないわ」

 声がかかり、ひとりの女が姿を現した。白い膝上ほどまでの下着の上につやつやとした生地に可憐なプリムローズの柄が散ったガウンを羽織っている。

 今まで黄色い声をあげていた女たちが途端に恐縮する。

 階段を下りてきた女の前では、今まで話していた女たちは小娘、といった感じだ。彼女自身は、プリムローズというより、大輪のバラといった風情だ。

 緩やかにウェーブした金髪を豊かに腰までも垂らしたままの姿で階段を下りると、見慣れない少年を認めて二人の前に立つ。

 ライトは、彼女の姿が現れたとたんに、彼女に目が吸い寄せられたように見つめていた。

「ねえさん」

「え? あんたの姉さんて、プリムローズ姉さんだったの!?」

 女たちから声が上がるが当のプリムローズは

「ちょっと、何かの間違いじゃないの? わたしには弟なんて!」

 と、たじろぐ。

 ライトは手を伸ばしてプリムローズの手首を両手でつかんだ。

「いや、間違いないよ。姉さんだよ、ね?」

 と、プリムローズを見つめたまま、言う。ライトは薄く微笑んで、手はしっかりとプリムローズの手をつかんだままだ。アレンはその時、なぜか、ゾクリとするような気配を感じた。

 その途端プリムローズがさっと青ざめる。

 一瞬その場が凍りついたようだった。

 しびれたように手を握られたまま蒼ざめた顔でライトを見ていたプリムローズが言った。

「とにかく、部屋に来てちょうだい」

 振りほどくようにライトの手を払うと再び上階に消えてゆき、その後にライトもついてゆく。あわてて、アレンもあとに続いた。

 階下からは束の間の沈黙がはじけたように女たちの声が響いた。


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