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暁の王国  作者: 観月
29/33

終焉

 湖の民の城の中では、それぞれの民の長、城の王、そして兵士を束ねるハヤブサのバルドロが集まり、黒の軍からもたらされた停戦の条件について、出口の見えない話し合いがなされていた。

 その中で、白の王ベレアースはミリアム王女救出を、提案した。

「この里には山中を走る秘密の通路……トンネルがあります」

 その発言に湖の里の長アーテルティウム以外のものが驚きの表情をする。

「西の塔と結ぶものもあれば、この里の外まで通じているものもあるのです。アーテルティウム殿、公にしてしまって、申し訳ありませんが、ここまでくれば、秘密にしておく必要もないでしょう」

「で、その通路を使ってあなたご自身が王女の救出に向かわれると?」

 同席したものの反対の声が上がったが、彼の決意は固かった。

「私はすでに一度の戦いを生き延びてきたものです。今回、捕らわれたミリアム殿を放ってまで生き延びるつもりはございません」

 白の王ベレアースの決意が固いと知ると、ハヤブサのバルドロがそれに同行することを申し出た。それと同時に、湖の里の長アーテルティウムは里の外まで伸びるルートを使って、人々をこの里より脱出させ、此処より北西の山中に逃げ延びるという計画も並行して建てられた。

「黒の軍が占拠した西の塔ならば、おそらく最上階の牢の中にミリアム殿は捕らわれているものと思われますが……、そこにいてくれるといいのですがね。あそこですとこちらから、ちょうどつながるルートがある」

 そうして、ミリアム救出のメンバーが決められる。

 ベレアース、バルドロ、グライスそこにベレアースの部下の白の魔道士隊から2名。

 これ以上増えても行動しづらいということでこの5名のみということとなった。うまく救出が果たせれば、里の者達を追い脱出を図る。

「御武運を……!」

「アーテルティウム殿も、お気をつけて」

 ベレアースとアーテルティウムは眼を見合すと、作戦の準備のために部屋を出て行った。


 ミリアム・ガーラント救出の作戦は、すでにベレアースからの先の書状でライトへ知らされている。

 ミリアム王女奪還作戦をベレアースが提案。白の魔道士を含む数名で隠し通路を作って西の塔へ潜入。王女のもとへたどり着いたところで、同行の暁の軍側の者を殺害。ここで白の王も表向き死亡したこととし、彼は表舞台から消える。また、これにより、停戦協定は却下されたとみなし、黒の軍は総攻撃を開始。一気に暁の軍解体を目指す。これが白の王ベレアースよりもたらされた、作戦だった。

「アレン(ミリアム)が、救出にやってきた暁の軍側の兵士を見殺しにできないってなら、ここで仕掛けるよりないだろうな」

 ライトが言った。

 

 もともと、ミリアム王女は殺すなとの命であったので、ライトとしては、この作戦が完全に終わり、王都へ引き揚げる途中にミリアムを逃がすという心づもりであったが、変更せざるをえない。

 白の王がどれだけの人数を引き連れてここへやってくるのか?

「一か八かって感じだな……まあ、生きていたらリヴィエリで会おう」

 ライトはすでにいつものからかうような笑みを口の端に載せて、アレンとアンジェに言った。

 

 グラーヴェ以下黒の軍の者へは、ミリアム・ガーラントの救出部隊がやってくること。その中に間者が入っていること。救出部隊殲滅ののち城へ全面攻撃仕掛けることを伝える。そのうえで、合図があるまで兵士を3階にて待機させるよう指示を出す。


 ベレアース、バルドロ、グライスそしてその後ろに白の魔道士二名。ミリアム王女救出作戦のメンバーは秘密の通路内を声をたてずに歩いていた。

 秘密の通路などとはいえ、山肌をくりぬいた洞窟のようなものだった。奥へ入っていくと、足元は土がむき出しとなり、しっとりと肌寒い。

 しばらく歩くと足元が土から汚れてはいるが布のようなものが敷き詰められたように変わっていった。ベレアースが後ろを振り返り人差し指を口元に当てる。

(しずかに)

 みなはそれまで以上に足音を立てないように気を配った。

通路が突き当たると、そこからは木製の細い階段が上へと延びていく。

 この突き当りが西の塔3階への出入り口。そしてその手前の階段を上ると、5層目の最上階へと続く。

 階段の行き止まり。低くなった天井に留め金のようなものがついていて、ベレアースはそれを外した。神経を張りつめ様子をうかがい、そっと天井をずらしていった。

少しずつ空いた天井からほの暗い光が漏れてくる。その中へ、ベレアースが吸い込まれていく。バルドロを振り返り、笑顔でうなずくと、登ってくるようにと指示をだした。

バルドロは、だが天井から最上階の間へ顔を出したところで動きを止めた。

 部屋の中央に後ろ手に縛られたミリアムが椅子に座った状態でうつむいており、その後ろには、あの少年、ライト・ザーナヴェルト・リヴァイスが王女の喉元に剣を突き付けていたのだ。


「止まるな、入れ」

 ライトがバルドロをにらむと言った。

 バルドロはゆっくりと部屋へ上がっていきながら、白のベレアースをみやる。だが、その表情からは何も読み取れない。

 さらに、バルドロの後ろに続いていたグライスは後ろから白の魔道兵に剣を突き付けられていたのだった。

「いったい、どういうことです」

 グライスはベレアースを見やりつぶやいた。

「ご苦労だったな、ベレアース」

 ライトがにやりと笑って白のベレアースを迎える。

 ベレアースはそれに答えるように歩を進めると、ライトの 隣に立ち、くるりと踵を返した。

「こういうことですよ。私はもともと黒のザーナヴェルト・リヴァイスと志を同じくするものだったのですよ?」

 グライスがベレアースを見つめる。その瞳孔がきゅっと閉まる。


 グライスは剣を振り上げると、ベレアースに切りかかった。

 グライスに剣を突き付けていた兵が、彼の急な動きにわずかに遅れながらもグライスに切りかかる。ライトの左隣に控えていたアンジェが大きく一歩踏み込み白の魔道士の剣を跳ね飛ばす。バルドロが振り返り、もう一人の白の魔道兵に剣を向ける。ライトがミリアムから剣を離し、その剣でベレアースに切りかかり、それと同時に戒められていたはずのミリアム・ガーラントがその戒めをとき立ち上がった。

ライトの剣は確実にベレアースに届いたはずだったが。白の王はかすり傷一つ負ってはいない。

「防護壁か、まあ、当然だな」

 ライトは予期していた。

「ライト様……」

 ベレアースの瞳が熱を持ってライトの瞳を捕えた。

「お父上に敵対されるおつもりか?」

 背後では、アンジェ、バルドロ、グライスが白の魔道兵と激しく切り結ぶ。

「いいや、父に敵対するわけではない。俺には俺のやりたいことがあるだけだ」

「それが、黒の王の欲するところと違うのであれば、同じことでしょう!」

 そう言い放つと、ベレアースの体が揺れた。輪郭を震わせ、ゆがむ。

「やばいな……アンジェ、俺も変態するぞ?」

 ライトのつぶやきが戦うアンジェの耳元にも届く。

「私を見くびるな、戦いのときに感情で動くと思うか! 行けよ、ライト」

 アンジェは先ほどまでのライトの従者ではなかった。ライトを城から引きずり出し、共に村から村。町から町へと旅をした一人の女だ。時には姉のように師匠のように、また兄のようにそして母のように……ライトを見守ってきた。

 一匹の白い大虎に変態したベレアースがミリアム王女の上に覆いかぶさるように襲い掛かる。

 ライトの体からも激しい気が噴出し、その体をゆがませる。白虎の前に出現した巨大な白い尾が今まさにミリアムの肌に食い込ませようとむき出された爪を払いのける。

「まさか……?」

「竜!?」

 まわりの者も戦いどころではなくなった。

 白い巨大な二頭の戦いに巻き込まれぬようにその身をかわす。

「確かに、竜なみのでかさだけどね!」

 アンジェが肩をすくめる。

「黒の王家の血筋の者に多く現れる印は蛇さ。ライトは生まれた時から、輝く白蛇だったよ」

 巨大な白蛇に跳ね飛ばされた虎が壁に当たりガラガラと壁が崩れる。

 異変を察知した黒の軍の兵士が当の階段を駆け上ってくる。

 白虎は穴の開いた壁から当の外へとその身を躍らせ、それを竜と見まごう白蛇がおう。

「ライトーーーー!」

 ミリアムが叫ぶ。そして彼女もその身を躍らせた。それを追い、またバルドロも夜空に姿を消す。

 二人が落ちたと思われる地点からふわりと、一羽の黒鳥と一羽のハヤブサが空へと舞う。


「ちょっと待て、私一人で切り抜けろってか!?」

 アンジェが白の魔道兵と戦いながら悪態をついた。この部屋への戸口には鍵をかけておいたが破られるのもすぐであろう。まあ、アンジェが戦っているのは白の魔道兵だから、階下から上がってきた黒の軍はアンジェの味方をするであろうが……。

 その時グライスがアンジェの背後に回った。

「あなたは……ミリアム様のお味方と思って構わないのか!?」

 横目でアンジェを見やりながら尋ねる。

「ああ、あんたがいたわね。それで構わないわ!」

「では、わたしにつかまるといい。階下までつっきる!」

 見る間にグライスは灰色の見事な馬へと変態した。

 アンジェはその背に飛び乗り首筋にしがみついた。

 部屋へとつながる木戸が開け放たれると、アンジェをのせた灰色の馬は押し入ってきた者どもの上を悠々と飛び越えて、矢のように走った。


 白い竜虎の戦いは、一進一退を極めた。

 虎が牙と爪を剥き襲い掛かれば蛇はその巨体で薙ぎ払いからめ取ろうとする。また、すきをついては空中から黒鳥とハヤブサが白虎めがけて絶え間ない攻撃を仕掛けていく。

 白蛇は戦いながら、少しずつ湖の方へとにじり寄っていた。

 その戦いを目撃したものが言うには。虎の爪が黒鳥に食い込むさまを見たというものもいる。

 また、激しい戦いで、お互いに無数の傷を負いながら、蛇が虎をからめ捕り、湖の中へと引きずり込んでいったというものもいる。

 確かなのは、その戦いの後には白虎も、白蛇も、そして黒鳥もハヤブサも、全てが湖の里から姿をけし、二度とふたたび生きている彼らを見たというものは現れなかった。




 湖の里においての最後の暁の王家と黒の王家の戦いは、途中から姿を消したライト・ザーナヴェルト・リヴァイスに変わり、指揮を執ったグラーヴェにより、湖の里は完全に黒の軍に落ちた。

 だがこの戦いは、暁の王家にとってはもちろんのこと、黒の軍にも多大な傷跡を残す。


 白の王ベレアース、死亡。

 彼の亡骸は、それから数日後に湖から引き上げられることとなる。 


 暁の王家最後の王女ミリアム・ガーラント、不明。


 黒の王の後継者であった、ライト・ザーナヴェルト・リヴァイス、不明。


 黒の軍をあげての執拗な捜索にもかかわらず、ミリアムとライトの行方は杳として知れることはなかった。

 そして、夏が終わり秋が過ぎ、冬となり新年を迎えるに当たり、ついに黒の王ザーナヴェルト・リヴァイスは暁の王家滅亡と、リヴァイス王朝発足を宣言した。

 一つの時代が幕を閉じる。


本編は終了でしょうか。あと、エピローグが1章と、次世代の物語1章でこのお話も終わりを迎えます。

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