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暁の王国  作者: 観月
27/33

ダブルクロス -2-

 そうして、やはり不吉な黒い影は、城内のいたるところにに現れていた。

 黒の兵士がいるはずもない城内で、それを見たというものが現れだす。

 城の西側に位置する塔がすでに黒の魔道士側の手に落ちた。


 まずはじめに落とした西の塔を黒の軍は本拠地とした。

 そして、湖の民達が籠城する城の外からは破城槌による攻撃。と、同時に内にいる黒の魔道兵(白の魔道士の配下の者)も、動きを始める。


 今回の作戦での第一の目的はミリアム・ガーラントの捕獲であった。殺さず、生きて捕えろとの黒の王よりの命である。

 黒の王は、ミリアムを王都で公開処刑とし、これを持って暁の王家消滅と、リヴァイス王朝の発足を宣言する心づもりであった。実のところ、黒の王はもともと、この湖の里をライトが十八となり成人したあかつきに、彼に征伐させようという目論見があった。そうして、ライトを正当な後継者としてデビューさせようとしていたのだ。ただ、暁の王家の生き残りが現れたことによって多少予定が早まったと言える。

破城槌の攻撃により城の門が破壊されれば、雪崩のように外から襲う黒の軍と、幻のように現れる内からの黒の兵とに翻弄される。湖の里の城は、まさに十七年前暁の王家陥落の再現であった。

ミリアムとともにあった、グライスとブランカの兄、妹もすでに戦闘の中で主の姿を見失っていた。切れども切れども湧き出る敵に、死の恐怖を覚え、二人、背中合わせに敵と切り結ぶ。

いかに二人が強いとはいえ、多勢に無勢。まわりをぐるりと黒の兵に取り囲まれていた。

踏み込んでくる黒の兵の剣をグライスが受ける。数度切り結び、重い攻撃に剣が飛ばされた。

「にいさま!」

グライスは妹に突き飛ばされ、一瞬の後に気が付くと、妹は肩口から血を流して顔を眇めている。

「きっさまぁ!」

妹の剣を取ると、そのまま、相手を切り裂く。憤怒の情が体からあふれ、取り囲む兵を数名勢いのままなぎ倒したが、そのまま膝をつき肩で息をする。

と、その時

「ひけーーー!! ひくのだ」

という、叫びを聞いた。

「いったん西の塔までひけ」

目印の旗を閃かせて、黒の軍の伝令が駆け抜けていく。

ガクリ、と、倒れこんだぐらいそのわきを取り囲んでいた黒の兵たちが撤退していく。

(なぜだ……いったい何が起きたのだ……)

「グライス! 無事か?」

 その時、グライスに駆けより肩を貸す者がいた。

「バルドロ様? 黒の軍はいったい……?」

「わからぬ。とにかく負傷したものを運び、この間に手当てを」

「私は大丈夫です。妹を……」

「よしわかった」

 取り残された暁の兵士たちは、突然もたらされた休戦に、深く息をついていた。

 兵士たちが傷の手当をして、身を休めている間に、主だった者達が白の魔道士ベレアースのもとに集まる。みな、顔をそろえ、お互いの無事を確認してうなずき合ったが、そこに一人、姿を現さないものがいた。

「ミリアム様は……お前たちと一緒ではなかったか?」

 グライスが湖の里の長アーテルティウムに問われた。

 妹のブランカは負傷のためこの場にはいない。

「はい、ずっと一緒でしたが、激しい戦いの中、途中はぐれてしまいました。申し訳ございません。確かに一緒に行動しておりましたのに、いつどこではぐれたものか……」

「なんだと?」

 アーテルティウムの顔つきが厳しくなる。

「ミリアム殿を見た方はいないか?」

 ベレアースの問いに

「私も、城が破られる前にお会いしたのが最後ですが」

 と、バルドロが答える。

「まさか、敵の手に?」

 一同が絶句した。

 そう考えれば、突如黒の軍がひいたこともうなずける。

「城内を確認してまいります……!」

 呆然とした顔をしてグライスが部屋を出ていく。

「そうですね、もし、ミリアム殿の消息が分かったらここへ連絡してください。私は、ここを動かずにおりましょう」

 ベレアースが言うと他のものも、グライスの後を追って部屋を出ていく。

 最後にバルドロが残った。

「ベレアース様」

「いかがしました? バルドロ殿」

 ベレアースの後ろに立ち、部屋を出て行こうとしないバルドロに白の王は不思議そうな視線を向けた。

「いくらなんでも、ミリアムさまの件はあまりに不自然とは思われませんか?」

「……」

「敵の手に落ちるにしろ、負傷されたにしろ誰もその消息をわかっていないなどということがあるでしょうか? それに、城内で不審な、黒の軍の兵士たちが多数目撃されています。疑いたくはありませんが、この城の内部にあちら側と通じているものがいるのでは?」

 バルドロが控えめに、だが、じっと白の王をうかがった。

「そうですね。暁の王家の軍は、結局は寄せ集め。その中にそのような輩が混じっていないとは言えませんが、バルドロ殿、わたしも心にとめておきましょう。私の方でもバルドロ殿の意見をお聞きしたいのだが……」

 言いかねるようにベレアースは少し言葉を切った。

「貴殿は私よりも多少長くミリアム殿と親しく過ごされている。彼女が自らここを出ていくといいうことはあり得るだろうか?」

「この戦いのさなかにですか? いや、しないというよりは、出来ないでしょう。ベレアース様は王女陛下をお疑いでしたか?」

「いいえ、そういうことではないのですが、彼女はここから逃げ出したかったのではないかな? と」

「そういう、部分もあったかもしれませんね。でも、逃げられないことぐらいはわかっておられたと思いますが……だから、この里へやってきたのでしょう?」

 バルドロも、ミラースも、ミリアムにライトという同行者がいたことは内密にしていた。最初はミリアム自身がそう望んだためだった。自分と一緒にいたことが知れれば、助けてくれたライトに迷惑がかかるかも知れないというのがその理由だと言った。そのライトが、おそらく黒の悪魔であり、黒の王の息子だと知れてからは、そのライトに命を救われ、親しくしていたことなど言えるはずもない。

 バルドロの心の中にはミリアムに聞きたいことが山のように積みあがっていたが、戦いの中ではその機会を逸していた。そしていま、彼女は姿を消した。最後に彼女が発した警告を信じるべきなのか否か。

「そうですね。万が一、彼女が敵の手に落ちたならば、向こうからなにがしかの働きかけがあるはずでしょう。とにかく今はバルドロ様もゆっくり休まれた方がよい」

 お互いの心の中に黒いしこりを残したまま、二人は別れた。



 それより少し前。

 ミリアムは激しい戦闘の中に入り込んでしまっていた。グライスとブランカと離されてしまう。

(しまった)

 黒の甲冑を着た兵に取り囲まれていた。

 絶体絶命。

 そう思った時、その敵をなぎ倒しながら味方の一団が現れた。

「ミリアム様、ご無事ですか!?」

 ミリアムは現れた一団を呆然と見た。緊張がほどけ崩れそうになる。そのミリアムを仲間の兵が支える。

「こちらに」

 黒の兵に切りかかり、道を作りながらミリアムは誘導されていった。少しずつ喧騒を離れていく。

「待って!……どこへ?」

 ミリアムが息を切らせながら尋ねる。

 一団はとある部屋に入っていく。戸口に見張りが立つ。城のだいぶ奥まった部分で、ここにはまだ黒の兵が入り込んではいない。

 兵士が一人、壁に向かって何やら作業をしている。あちこちの壁を叩いているように見える。しばらくすると、壁の一部分が奥へずれた。

「隠し……通路?」

 ミリアムが驚きの顔をする。

「はい。これは湖の里の長と白のベレアース様しか知らない通路でございます。私どもも、今回初めてこの存在を知らされました。ミリアム様、ベレアース様がお待ちです」

 とっさであった。

 ミリアムはベレアースの名を聞いて、身構えてしまった。自分を守ってくれたはずの兵から後ずさり、距離を置くと剣を構えてしまう。

「どうされましたか? ミリアム様?」

 兵士が一歩ミリアムに近づく。

「あなたたちは、彼の配下のものなの? 彼はいったい何を考えているの?」

「いったいどうしたのです? 戦で混乱されているのでしょうか?」

 そう優しい声音で言いながら、白の王の兵士たちはミリアムを取り囲んでいた。

「さわらないで! 私と話がしたいなら、彼がここへくればいいんだわ!」

 ミリアムを取り囲んだ兵士たちから笑みが消えていた。

 部屋の奥から声がかかった。

「それでもかまわないのですがね……ミリアム様?」

 ぽっかりと口を開けた隠し扉の影の中からベレアース、その人が姿を現す。


「ベレアースっ……!」

 ミリアムは、その人を睨んだ。


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