魔道士狩り ー2-
森の中に現れた洞窟の中に三人はいた。
アレンはいまだ意識が戻らず、ライトが広げたマントの上に横に寝かされている。
洞窟と言ってもさほど奥が深いわけでもなく、入口が裂け目のように高く大きいためにそう暗くはならない。
「地元の者たちの神を祭る洞窟らしいな」
女にしては大柄なアンジェが言った。羽織った裾の長いマントからは、足元のがっしりとした皮のブーツと左右に下げた細身の剣の先がのぞいている。
洞窟の奥には祭壇らしいものと、お供えなのだろう、果物などが置かれている。
「その子を狩っていた魔道士一人には逃げられたね。結界は張った。とりあえず近づく者はいないと思うが……」
「助かった~。いくらちっこいとはいえ、担いで歩くのは疲れる……」
黒髪の少年は寝かされたアレンの隣で足を投げ出していた。
「ライト、お前が助けたんだ。ちゃんと責任を持てよ」
ライトと呼ばれたのは黒髪の少年。アンジェに叱責されながらも楽しそうに眼がキラキラと輝いて口元には笑みがある。ライトの方は薄手の上衣の上に体にぴったりとした丈の短い袖なしの上着を着ている。やはり細身の脚衣は革の履き物の中に入れ込まれている。
「で? ライト。このお坊ちゃんは魔道士なのか?」
「と、おもうよ」
「思うってなんだ? 魔法の力なら私も多少持っているが、私は人間で魔道士ではないからな。魔道士と言われるのはこの国においては、人間と獣の二つの姿を持つ者のみだ。魔道士同士は感じるものなんだろう?」
ライトはアレンを見つめた。
「ああ、それは間違いはない。ただ、こいつは危ない。これだな」
ライトはひょいと手を伸ばすと、アレンの明るいあかみがかった金色の前髪に触れた。
アレンの髪は短髪だったが前髪だけは長く、瞳にかかるほどだった。
ライトに前髪が払われると、額に誰かに親指を押し付けられたかのような形の薄赤いあざが現れた。
「封印したんだ。本性を現さないように。おそらくは狩られないように。でも、封印は解けかかっている。力もない状態で、魔道士のにおいをまき散らしながら歩いていたら、あっという間に黒の魔道士たちに狩られる」
「なるほど」
アンジェが腰をかがめまじまじとアレンの顔を覗き込んだ。
「このお坊ちゃん、なかなかにかわいい顔をしているじゃないか。ライト、お前と同い年くらいじゃないのかな?」
「こいつが? ちびだぜ!」
アンジェが面白そうに顔をあげて笑った。
「お前がでかいんだよ。まだ十六のくせに、無駄に大きくなって……、わたしと旅を始めた一年前はこの子より小さかったんじゃないか? それにしても、もうすぐ私を超しそうじゃないか!」
「追い越すんだよ。もうすぐだ。アンジェももうおばさんだからな。今度は俺が守ってやるよ」
「お前が?」
アンジェはなにか言おうかとするように口をあけたが、一瞬ためらい、少しゆがんだ微笑と呼べるような表情を口元に浮かべた。
「それは……楽しみだな。私は少し出てくる。夜までには戻る。」
そう言い残すと、アンジェの姿はもう消えていた。
ライトはアンジェが消えるとアレンの傷の様子を見た。
アレンが羽織っている丈の短いマントの裾をそっと傷口が見えるほどめくった。出血は止まっているようだが、また動けば傷口が開くかもしれない。
「疲れるからやなんだよなー」
と、つぶやいたがアレンの傷の上へ手をかざすと集中するようにそっと目を閉じた。しばらくして、手をよけると、アレンの衣服には穴が開いたままだったが、傷口は完全にふさがっているようだった。
ライトはアレンの顔を覗き込み、アレンの額に触れようとしたが、首をかしげると思い直したように洞窟の高い天井を見上げた。
「結界は張ったと言っていたし、こいつが起きてからでもいいかな?」
魔力を使うことは、体力を使うことと同じだ。下手に使いすぎれば意識を失うこともある。敵に襲われるかもしれない状況下で、力を使いすぎることは避けたかった。
意を決したように、ライトはその場にごろりと勢いよく横になった。