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暁の王国  作者: 観月
15/33

別れ -1-

 アレン、いや、ミリアムが今度は頭にリボンまでつけようとするゴブレットの館の女たちの手から逃れて裏庭の木立の奥に逃げ込んだとき、庭の裏口から出て行こうとしているライトの姿を見つけた。

 どこに行くのだろう。

 木立の中で少し戸惑ったものの、ドレスの裾をたくし上げると、そっと後を追おうと考えた。

 白い木の扉がきい、と小さな悲鳴を上げて開く。路地をうかがったがもうライトの姿は見えない。店の表側の大通りに出てきょろきょろすると、ライトはもう朱門の方向へかなり遠くまで歩いて行ってしまっている。

 アレン=ミリアムも、慣れないドレスと靴でなんとなくひょこひょこしながら後を追った。ドレス姿がちょっと周囲から浮いているような気もするが、あまり気にしなかった。すぐに追いつくかと思ったのに、ライトはどんどん歩いて行ってしまう。しかも、店が軒を連ねるにぎやかな通りに出て、もう、切れ切れにしか見えない。

 ミリアムは、ひとり取り残されて、途方に暮れて立ち止まった。

(帰った方がいいかな?)

 そう思って少しの間立ち尽くしていた。

 その時、路地から出てきた数人の男に囲まれそのまま、路地へ連れ込まれる。あまりにも一瞬の出来事だった。日が傾き始め白く暖かだった景色が朱色に染まろうとしていた。


 ライトがゴブレットの館を出たのは、特に目的があったわけではない。自分の中に立ち込めたもやもやとしたものを持て余して、外に出たのだ。誰と顔を合わす気分でもなかった。

 にぎやかな通りに出て、店を見るでもなく歩いていた時、その男の声が自分の背後からしたのだ。

「ライト・ザーナヴェルト・リヴァイスさま」

 とっさに後ろを振り返ると見たことのある男がフードつきのマントをかぶって立っていた。

「グラーヴェ?」

 グラーヴェは、あのアディーレ村掃討作戦において、ライトに同行したたった一人の魔道士だ。

「どうか、そのまま。下手に動かれますと、あの少女がどうなるか私にもわかりません」

「少女?」

 聞き返すと、グラーヴェは少しばかり驚きの混じった声を上げる。

「お気づきではありませんでしたか、貴方の後ろを派手なドレスを着た少女がついてきていましたよ」

 うすく笑う。

 全くどうかしていた。後を追って来たミリアムにも気づかなければこの男に真後ろに立たれるまで気づかないとは!

「ライト様、すぐ右の路地に入ってはいただけませんか?」

 ライトは素直に従うと、また、後ろを振り返ったが今度はどこにもグラーヴェの姿は見えない。路地の奥は水路になっていて、船などで、物資を運ぶこともできるし、洗物などをすることもできるようになっている。そして、水路はタタール川にそそぐ。

 路地の奥にたったライトへ、声だけがどこからともなく降ってきた。

「タタールの砦に詰めているものから、魔道士を一匹取り逃がしたとの報告がありました。その逃亡を助けた者の特徴が、あまりにライト様とアンジェ様に似ていたもので、私が確認としてやってきたのです。黒の魔道士たちの間でもあなたを直接見たことのあるものは私くらいのものですし、貴方の存在すら知らないものも多い。ライト様、お父上のもとへ戻ってはいただけませぬか? わたしを遣わすに当たり、今ならばお父君も今回のことは不問に処すとの仰せです」

 沈黙。

「では、あの少女は私どもの好きなようにさせていただきますが?」

 ライトの瞳が暗さを増した。

「あの者に手を出すな」

「なるほど、あの少女は、有効ということですな」

 ライトは笑った。見た者が震えるような笑みだった。

「何を言っている? あれに手を出せばただでは済まぬぞ。俺ではなく、父によってだ」

「訳がわかりませぬ」

「あれの名はミリアム・ガーラント。暁の王家最後の生き残りの王女。父の獲物だ。あれをとらえるために父が張った罠に、今まさにかかろうとしているところだ。それを横から手折られたら、父が黙っていると思うか? 首が胴体から離れないことを祈っていてやろう」

 ライトの言葉はグラーヴェに多少なりとも混乱を与えた。真実半分、はったり半分である。ライトは言葉をつないだ。

「目障りな湖の里……。何のために今まで野放しにしてきたと思う。王家の魔道士の残党、そしてミリアム王女を引き寄せるためだ。あそこには白の魔道士がいる」

 さらに追い打ちをかける。

「明日の日の出までには、タタールの砦へ向かう。父の元へ戻ろう。ミリアムについては俺が指示を出す。それまで手は出すな。今狩っては何の意味も無くなる」

 グラーヴェがなんと出るか? アディーレ村掃討作戦において、ライトのもっとも残忍な部分を目の当たりにした者だ。だが、自分は、父によって全権を与えられる後継者とされながらも、そこから逃げ出した者だ。


「わかりました。明日の日の出までお待ちしましょう。一つ手前の路地の奥。水路に浮かぶ船の上に王女はおります」

 あたりから、黒い気配が消える。

 ホッとしたのもつかの間、ライトは水路に沿って走った。

 少し先に見える船の上に少女が一人乗っているようだった。

「アレン!」

 今助けに行く。と声をかけようとしたが遅かった。

 駆け寄るライトを認めたとたん、ミリアムがはじかれたように立ち上がったのだ。

 不安定な幅の狭い小船。しかも、彼女は猿轡をされ、手は後ろ手に縛られている。

「ばか! 座ってろ」

 バランスを崩したミリアムは、そのまま後ろに一直線に水面へ落ちて行った。

 ライトはシャツと剣をその場で剥ぎ取ると、水路の中へ身を投じた。


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