表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の王国  作者: 観月
1/33

魔道士狩り -1-

アレンの背後には切り立った崖があった。

 下方には明るい日差しを浴びてキラキラと一筋の川がなかれてゆくのが見える。遥か……というほどではないが落ちたら生きてはいられないだろう。

 アレンは崖を背に、手に握る剣をもう一度左手で握り直した。右手をそれにそえ、ふーっ、と大きく息を吐いた。つ、と、額に汗が流れる。

 ……四・五・六人。

 父とはとうにはぐれ、追手は執拗にアレンのみを追ってきた。わき腹に受けた傷は深手でこそなかったが、旅装である丈の短いマントの下に着た、白い襟なしの上衣にまで赤いしみを作り、いまだ傷はふさがってはいない。

 追手の背後には青々としたオークとブナの森が広がり、その木立の中から這い出してきた六人の追手は、崖へ向かってじりじりを輪を縮める。

「なぜ、ぼくを狙う」

 そう問いかけると、アレンはぎりっと歯を食いしばった。

「魔道士狩り」

 丈の長い黒のローブに身を包まれたリーダーらしい男が口の端に笑みをのせる。

「待て、ぼくにそんな力は……」

「わかるさ。同族だ。防護壁をかけることもできぬのか。……行け!」

 追手がその言葉を合図に一気に間合いを詰める。その時、昼でも暗く湿ったブナの林の中から一陣の風のように何者かが飛び出した。アレンの前に突き出された剣を右手に握りしめた剣で薙ぎ払い、返す刀でアレンに切りかかった追手を一刀に切り捨てる。

 どう! と、男が転がった。

 同時に太い幹のかげから、別の追手の背後にも、大柄な女剣士が現れた。女は右手と左手に細身の刀を握る。二刀流。器用に二本の刀をくるくると操ると、そこには二人の死体が転がっていた。後ろで一つにまとめた長い赤毛が女に合わせて動く。


「三対三かな?」

 アレンをかばうように立ちふさがった、背の高い少年が言った。

 黒髪が太陽の光にキラキラと光り、さらさらと吹き付ける風に揺れていた。柔らかい声には、だが、この状況を楽しんでいるような響きがある。

「ちっ!」

 リーダー格の男が舌打ちをすると、残った二人の男が脇目も振らず真っ直ぐにアレンに剣を向けて飛び出した。

 少年はあわてた様子もなく剣を払いのけたが、アレンはとっさに後ろへ一歩ひいた。ぐっとひいた右足が崖を踏み外す。

「アンジェ、頼む!」

 と、黒髪の少年が女剣士に声をかけた。

 アンジェと呼ばれた女は躍り出ると、よろめいている男たちに襲いかかった。

 少年は転がり落ちるアレンにちらりと顔を向けると右手を差し出した。

 谷間にアレンの甲高い悲鳴が響く。

(……!だめだ!間に合わない!)

 アレンは叫びながらも死を覚悟した。

 剣が手を離れて谷へ落ちていく。

(死ぬんだ……)

 死を受け入れようとした、その時、差し出された少年の手の先から光り輝く何かがほとばしり出た。真っ白な光となって、うねうねととぐろを巻くよう螺旋を描きながらアレンに向かってすさまじい勢いで迫った。

「あ……?」

 そうつぶやいた時には光に巻きつかれ、次の瞬間には崖の上の黒髪の少年の腕に支えられていた。

 気が遠くなる。

「せっかく助けてやったのに、あっさり諦めようとしやがって!」

 かみつくような声を聴きながら、アレンの意識は途切れた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ