地獄
「すまんのう、おぬしは本来まだ死なないはずじゃったが神であるワシのミスで死んでもうたのじゃ」
「ミスっすか」
どことも知らぬ空間に、俺と不思議な老人。
俺はすっぽんぽんだが老人は白い布……マントと言うべきかローブと言うべきかもよくわからない服を身に纏っていて、手には魔法使いが持っていそうな身長ほどある大きな木の杖を持っている。
その顔はまぁ、なんとも徳がありそうというか、ツルッパゲで白いまゆ毛がボーボーで目が隠れるくらい、白いひげもボーボーな、まぁ神様って言うだけあって、らしい姿の老人だった。なんかすごい後光みたいなオーラを噴出させているので、もはや神と言われても疑う事はできまい。
しかしそんな神様がミスをするとは。
いや、確かに俺の死因は変なものだったんだけどさ。
「いやー、俺もまさかポップコーンの破裂したパン! って音でショック死するとは夢にも思わなかったです」
「うむ、まさにワシ痛恨のミス。そのタイミングで本来ショック死するのは地球の裏側に居た犯罪者の男で、死刑判決をくらった恐怖によるショック死じゃったんじゃよ。マジメンゴな」
その死刑囚の経歴を教えてもらったが、まぁクズだった。そりゃ死刑になるわ。
てかショック死なんて生ぬるい、もっと苦しんで死ねよ、と言いたくなるくらいのクズの身代わりに俺が死んだのか。
「ま、神だって間違える事くらいあるわい。ちなみにその死刑囚の男は本来の死ぬタイミングを逃してしもうたためにあと40年ほどは死ねぬ体になっての。まぁ3回ほど死刑を執行された後、世間体では死んだと公表されてから何故死なないのかの不思議を探る為に、人間の科学者達が日夜いろんな実験をしてどこまで不死身かを確かめるような献体として使われる運命になっておる。難儀な事よのう」
クズが苦しむのは自業自得だが、一番の難儀は俺がそんなクズの身代わりに死んでたことだっつーの。
チョベリバ。
「所でお主の処遇についてじゃが」
「やっぱお詫びで転生ですか? チートで異世界? マンガとかアニメ、ゲームの世界だったりするんでしょうか」
そういうお話よくあるよな。
ファンタジー世界で子供の頃から勉強や魔法を覚えて体も鍛えて冒険者になって、ギルドの受付嬢が美人で俺に惚れて野党に襲われる貴族の馬車を助けたら貴族の令嬢に惚れられて、ギルドランク上がったりして色々あって亜人とかも人間だよう、とか言って猫耳少女とかダークエルフとかに惚れられて、あとミソと醤油を作ったりウンコを肥料にして畑を耕したり火薬を作って俺の軍隊超ツエーとかやって。
そういう人生を約束されるなら、神様のミスで殺された事も、多少は許してやらん事でもない。
「はあ? 転生? ちょっと待て、お主の頭の中を見せてもらうぞ」
したら、神様の奴は俺の言葉に驚いたような顔をして、なにやら不穏な事を言う。
頭の中を見るって?
「なるほどのう、転生か。そういうのもあるのか。人間世界の娯楽か、今度調べてみるか」
何をされるのか、と身構えた時には神様はなんか一人でうんうんと言っている。
なにこの展開……
「すまんのう、転生と言うのも面白そうじゃが、ワシ今回はそういうの想定しとらんかったから違う進路にさせてもらう」
「えー、転生じゃないんですか?」
「うむ。お主の次に間違いで人を死なせたら、そいつをチートで転生でファンタジー世界でミソと醤油な感じにしてやろう。で、お主じゃが」
ちいっ、俺自身がその恩恵を受けたかったのに、俺以外の奴がその恩恵を受けるのかよ。
神様のミスってどのくらいの頻度か知らないけど、俺の前の奴がちゃんとアイディアだしとけば俺は今頃チート転生者だったんだぞ。くそっ。
とは言え、だ。
自分のミスで死なせた人間に対して神様の出す進路ってのもそれ程悪いものでは有るまい。
一体どんな物になるのやら。
「お主は地獄行きとする」
「はぁ!?」
「本来、お主の代わりに死ぬべきだった男が地獄行きの運命であったからのう。地獄行きの切符が一枚余ってしまうんじゃよ」
「ちょっ、おまっ」
「だからおぬしを地獄に送って帳尻を合わせたいのじゃ」
「な、何で俺が地獄ッ」
「じゃが安心せい!」
「出来るか!」
「感謝するがよい!」
「するか!」
「後の説明は地獄で、じゃ。それではさらばじゃ!」
「お前が地獄に落ちろぉぉぉおおお!!」
そうして俺は地獄に落ちた。
地獄……そこはまさに地獄である。
鬼や悪魔が罪人たちを苦しめまくるのだ。
罪人たちの魂は年末に謝罪しようとも許される事はないし、罪人たちが反旗を翻そうとしても前世の罪の重さが罪人たちの魂を押しつぶし身動きを封じる。
そんな罪人たちに掛けられる慈悲は一切無いのだ。
痛みも肉体的な直接の苦痛や精神的な苦痛だけでなく、魂の魂による魂のための苦痛など、色々ありまくりだ。
しかもここは地獄だから、例えなんど苦しめられても鬼や悪魔の都合のいいように罪人たちは元気に苦しめられる日々。
そんな恐ろしい地獄に落ちた俺は……地獄ライフをエンジョイしている。
「ちーっす、閻魔大王さま」
「おうお主か。今日も飽きんのう」
俺の一日は早い。
この地獄の朝9時くらいから、閻魔大王さまが地獄に送られた罪人をどんな奴なのかを見切って色んな場所に落とす仕事場から始まるのだ。
「そりゃもう。地獄に居る期間が長い魂は亡者みたいなもんですからね。フレッシュな罪人の方が面白いんですよ」
「そういうものか。まぁ人間の考えは良くわからんが好きにするがよい」
そして始まる一日。
閻魔さまの超速の裁きで罪人たちは地獄の中の相応しい場所に落とされていく。
そんな中で。
「おっと美人発見伝。閻魔さま、この女キープで」
「うむ」
罪人というのは何も男だけではない。
女も多いのだ。
悪女めゆるさん!
閻魔さまがヒョイッとつまんで無造作にポイッと投げた女の罪人は、スゲエ速度で壁にぶつかりバウンドして俺の足元に落ちる。
ここが現世だったら死ぬんじゃね? と思うような投げられ方。
しかしここは死後の世界だから、罪人は苦しむ事は出来ても死ぬことは出来ないのだ。
でも見た目がグロいと楽しめないから見た目だけを整える。
「ひぃぃぃ、い、痛い! 痛いぃ!」
見た目は治したが痛みを除去してないから痛がってら。
つってもこの女は生前、すごく悪い事をしているのだ。過激すぎてなろうじゃ書けないけど、本当に酷いやつなのだ。
だから俺はこの女に罰を与えてやるのだ。
「痛いか、苦しいか。でもお前の犠牲者達の苦しみも痛みもそんなものではない。だから俺はもっとお前を苦しめたいのだ」
そして俺は体感時間を引き延ばし、一瞬を永遠のようにしてから、女を相手に色々した。
何をしたかと言われても、なろうだから書けないような事だ。
ヒントを出すとすれば、俺は男でこの罪人は女で外見だけは美人と言うこと。
俺が何をしたか、それは想像にお任せだ。
この女の体感時間で1週間ほど、俺は楽しませてもらったが、実際にはまだ一瞬しか経っていない。
「あー、スッキリした。もうこいつに用はないし……適当な地獄に送っておくか」
見た目だけは綺麗に整えた女を俺は適当な地獄に落とす。
現場の鬼や悪魔の気まぐれで体を直される事はあるかもしれないが、あの女は地獄での苦しみの地獄だけは消えないのだ。
地獄には記憶も奪う苦しませ方もあるが、地獄で苦しんだ記憶だけは消せないのである。
ちなみに、たまに聖人ぶって
「私は苦しむべきなのだ、それだけ悪い事をしたのだから」
なんて言う奴も居るが、そういう奴は自分が何をしたのか、どういう悪い奴なのかの記憶を奪い、善行した記憶だけを残した状態で苦しめまくって、理不尽だ理不尽だと泣かせる事になる。
それからしばらく賢者タイムだった俺も、暫くして美少年の罪人を発見したので、閻魔さまにこっちに寄越してくれと頼む。
「ほいよ」
そして閻魔さまが美少年を寄越してくれたので、俺はまぁ、ヤるわけだ。
なにをヤったかは想像に任せる。
「ふースッキリ。じゃ、こいつも用は済んだし適当な地獄に投げて、と」
再び賢者タイムに突入する俺だが、またムラムラしたら罪人をほしがるための待ち時間である。
さて、地獄に落ちた俺がなんでこんな事をしているのか、と言うと。
俺は地獄に落ちたが罪人として落とされたわけではないのだ。
だから何をしても良いよ、と言われた。
最初はわけがわからなかった。
頭がおかしくなったのかと思った。
俺の周りは生前恐ろしい罪を犯した罪人たちと、その罪人をひたすら苦しめる鬼や悪魔である。
めちゃ恐ろしかった。怖かった。
俺は逃げた。逃げに逃げた。
しかし、鬼も悪魔も罪人は苦しめるが俺には何もしなかったのだ。
周りの罪人たちはそんな俺について逃げようとしたが、その罪人たちは誰も彼もが鬼や悪魔に捕まって苦しめられまくっていた。
元気な罪人の中には、不公平だ、何でお前だけ、なんて俺に突っかかってくる奴も居たが、そんな声は一切届かないかのように鬼や悪魔が罪人をメコッと叩き潰す。
しかし、ついに俺は鬼や悪魔の目を盗んで忍び寄ってきた罪人に捕まりかけ……そこで逆に罪人を叩き潰してしまった。
地獄では、罪人同士のいざこざすら許されていない。
もし罪人が自分以外の罪人を殴れば、鬼や悪魔はそいつを徹底的に痛めつける。
そんなルールがあるのだ。
だから俺は今まで罪人たちから逃げるだけだった。
今は偶然鬼や悪魔が俺を見てみぬ振りをしているが、俺が罪人を叩けばそれを口実に俺まで苦しめられるのでは、と思ったから。
しかしそうはならなかった。
鬼はノシノシと俺に近づいてきたが、用があるのは俺ではなく俺に掴みかかろうとした罪人。
つぶれたそいつの体を無理矢理ブクッと膨らませた鬼は、さらに風船を膨らませるようにしてブクブクと膨らませた後、手にした金棒で思いっきり遠くに打ち飛ばして針山に突っ込ませて去っていった。
俺が罪人を叩き潰した事をまるで気にせずに。
それから俺は色々試した。
地獄で苦しむ罪人に手を差し伸べ、その手にナイフを突き刺し地面に縫いつけ目玉に指を突き刺しても、鬼や悪魔は何も言わない。
女が居たので、ちょっとR18な事をやってみたが、何も言われない。
そして、意を決して鬼の一人に一体どういうことかを聞いてみたら、なんと俺は地獄に送られたけど、別に罪人として送られたわけじゃないから何をしても良いとの事だった。
何をしても……たとえば、鬼や悪魔を殴ってもいいらしいのだ。怖いからやった事はないが。
で、俺は地獄を巡りながら色々な事をやった。
何が出来るのか、そんな自分の能力も試してみた。
俺自身の能力が上がったわけじゃないのだが、地獄で好きに振舞う為に、俺は罪人を本当に好き放題できるのだ。
力を入れなくても罪人の体を壊せるし、直す事もできる。
鬼や悪魔がやるように、生前の罪の記憶だけを消して良い事しかした記憶が無いのに、自分の知らない罪で苦しめられる罪人だって作れた。
時間すらをも操れた。
まるで神になったかのような気分である。
そうして地獄めぐりをしていると、閻魔大王さまの仕事場を見つける事も出来た。
死んだ罪人が最初に送られる場所で、ここにやってきた直後の罪人は地獄のルールも何も知らない、まさに生きた罪人である。
どいつもこいつも、やたらと生意気で世界は自分を中心と思い込んでいるような罪人ども。
そんなものを見つけてしまったら、俺はもう地獄の罪人じゃ満足できなくなってしまった。
とは言え、閻魔大王さまは見た目が超怖いし、本当に何をやってもいいのか分からなくて怖い部分もあったから、尋ねてみたらアッサリ快諾してくれた。
ビックリしたね。
それからと言うもの、俺は朝9時から閻魔様の仕事の終わる午後2時まで、罪人で遊んだりして、残りの時間は地獄インターネットや地獄ゲームをして遊ぶ日々を送っているのだ。
「おっと、男らしい精悍な面構えの犯罪者発見伝! 閻魔さま、そいつを貰いたいです」
「うむ」
そうして、賢者タイムが終わった再び俺は閻魔さまから犯罪者を貰う。
男らしい見た目に相応しく、中々に猛々しい魂の持ち主であるようだが所詮は犯罪者よ。
「そうら、性格、魂、プライド、それらはそのまま! 見た目と体力だけ美幼女になっちゃう光線! ククク、地獄へようこそ!」
俺がその犯罪者に何をするかは、内緒だよ。
ここはまさに地獄だぜ。