3 遭遇
そう、はやりの王道モノを書きたかった。(アンチだけど)
5月のゴールデンウィーク明け、我が校では全生徒強制参加のイベントがある。
新入生歓迎……と言う名目の在校生ストレス発散のイベントで、4月に入学しそろそろ慣れてきた頃、友達を作る機会を持たせよう……なんてお題目でとりおこなわれる、在校生悪乗りの場だ。
目をつけられている奴は当然のこと、この場で痛い目を見る。要するに、出る杭は打たれる。
打たれたくなければ、帝王サマ達のように打ちようがない杭になるか、斎城のように返り討ちする杭にならねばならない。
逆に言えば、ここで実力発揮しておくと今後の学校生活が楽になる。
まぁ、あの当時は斎城もソコまで目立つ生徒ではなかったし、去年はさほど荒れなかった。
ちなみに斎城を叩き潰したい奴らを帝王サマとその仲間達がぶっ潰したのはまた別の機会である。馬鹿な連中だよ、まったく。
それはともかく、今回はソコまで目立つ……斎城会計は目立っているけど、悪い方にじゃない……奴もいないからアソコまでの事態はないだろう、とつい最近まで思っていた。
なんでつい最近かって言うと、始業式に間に合わなかったっつって、少し遅れて編入生が来たんだよ。
コイツが問題だった。
『来たこれ』とか言って面白がっていた紫藤でさえ、今は露骨に避けまくっている。
よーく考えてみてくれ、始業式に間に合わなかったけど少し遅れて編入してきたわけだ。そんでもって、今はまだ5月なわけだ。つまりソイツが問題児だって判明するまでに一ヶ月もかからなかったってわけだ。
よーするに超弩級の大問題児だったわけ。
「高明ーっ!」
ざわついていた食堂がしーんと静まりかえった。
未成年ばっか、しかも食べ盛りの男子高校生が集まる夕飯時の食堂が騒々しくなきゃ嘘だろ。つまりこの状況は異常。異常なんだよ! 気づけ!
が、宇宙人と評された転校生には通用しない。
「早くしろよ、高明っ。透と一輝も早く来いよっ!」
聞きました? 奥さん。高明に透に一輝ですって。
説明しようっ!
高明……俺様生徒会長、正源寺高明。
透……校内一可愛いと噂の会計、和泉透。
一輝……校内一爽やかと噂の書記、霧島一輝。
今日は生徒会役員の半数をはべらせているんですか。
「そう急がなくても飯は逃げねぇよ」
飯は逃げなくても、俺は逃げたい。
宇宙人ほど機微に疎くはないらしく、それぞれ違う表現ながら周囲の反応に不快感を表す役員達。
つまり、会長、睥睨。和泉会計、困惑。霧島書記、不快。
今回は事前察知出来なかったので、抜け出ることが出来なかった。俺達、2Aの面々。次に食堂に来るときは、宇宙人に誰かを張り付かせて行動を逐一連絡させよう。そうしよう。
ちなみに宇宙人1S、役員はすべてSクラで会長、副会長、霧島書記は2年、和泉会計は3年。斎城会計、九重書記は1年である。
お分かりか? はべらせている役員は全員、せ・ん・ぱ・い、なわけ。
「今立ったら、目立つかなぁ?」
目立つと思うぞ、赤石。特にお前は。
「あの子が寄ってくるかもね、お前に」
斎城の言うとおり。お前、超美形の自覚ないのか? 宇宙人が美形好きってのはもう我が校で定説だろ。
「勘弁して欲しいなぁ」
「俺に迷惑かけたら絞めるから」
紫藤は機嫌が底辺。
「立ったらいいだろ、お前。そんで囮になれ」
帝王サマはやっぱり帝王サマだよな、鈴木。
「いやぁぁぁ」
小声でも目立ってるぞ。お前等。まぁ、注目しているのは一般人で、役員席に行った宇宙人には見つかってないみたいだけど。
なんで今来るかな、あいつら。
とりあえず、俺ら凡人で隠されているから、大人しくしていれば大丈夫だろうが、こんな中で飯食ってもうまくねぇだろ。
「俺、もういい。垂穂食べる?」
「お前が食え」
「食べなさい」
「食べなきゃダメだよぉ」
立花が答える前に、他3人から同時ダメ出し。
「月ちゃんの為に来たのにぃ」
「食べた量少なすぎ。それとも不味かった?」
「違う。美味いよ。美味いんだけどさ」
「宇宙人はいないものとしろ」
「いや、いるし」
宇宙人が赤石、紫藤に反応して突撃して来るもんだから、ここ最近食堂で食べることがなくなっていた5人が、本日、来そうにない時間を狙い、下僕達……まぁ要するに我々2Aのクラスメイト……を囲いとして食事をしに来たのは、新メニューが美味いと聞いた斎城が食べてみたいなと何の気なしに言ったからである。
口が滑るとはこのこと。ここまでされるとは斎城も考えていなかったであろうに……。
あれだね、斎城はもっと自覚した方がいいね。自分が他3人に立花と同じくらいの発言力を持っていることを。
立花と同じくらいってのは、その程度の可愛らしい望みは全員総意で軽~く叶えられるってこと。
叶えた後のことを、他3人は少し考えた方がいいのではないか、とはしばしば思うが……今のように。
「花彦っ! こっち! 遅かったなっ!」
やべぇ。
立花でさえも思ったことであろう。斎城会計の登場であった。
しかし、一々叫ぶなよ。