2 偶像
生徒会役員説明話的
我が校において、生徒会とはアイドルとイコールである。
当然ながら舞台に上がると黄色い悲鳴が上がる……だって、アイドルだから。
ちなみに、我が校は男子校である。
一面男子である。
すでにオッサン化が始まっているのがちらほら混じっている男子高校生の群である。
幼稚舎から居れば、もう日常で動揺もなにもしないけど。
我が校の生徒会は、会長・副会長各1名。会計・書記が各2名。計6名で構成されている。
で、その6名で足りない場合は、生徒会補佐ってのの任命権を持っているので、いくらでも増やせる。
家柄がよく、勉強も出来、顔が良ければ生徒会候補になるわけで、見栄えはよくカリスマ性もあるものの、はっきり言って生徒会に向かない人間が役職付きになる可能性はなくはない。
しかも一番重要なのが家柄なわけで、生徒会への適性、生徒会として必要な能力……なんてモノは考慮されずに選出されるのだ、当然であろう。
つまり、例年、補佐が選ばれ、その補佐が役職付きより能力が高いってのは、ぶっちゃけ普通だったそうな。まぁ、頭は最低ラインを保っているから、優秀な補佐を選ぶくらいは出来るってこと。
ただ、俺達の世代の生徒会はそんな伝統を覆して、かなり優秀である。
生徒会長、俺様。副会長、侍。会計その1、チャラ男。会計その2、可愛い子ちゃん。書記その1、ラブラドール。書記その2、儚げ美人。
以上、校内評価。
とりあえず、補佐なしで回している現在、例年より格段に優秀なのであろう。
「静粛に」
キャーキャー言ってた群衆が、副会長の一言で静まりかえる。
まぁ、大きな声では言えないが、我が校には抱きたい・抱かれたいランキング……一応大きな声では言えないってことを知っている……ってのが裏である。
表だって出てくるのは、それを総合した人気ランキングだけだが、その元になるモノがあるわけだ。
新聞部がアンケートして順位づけをして、裏新聞も作られるし、教師も黙認って感じ。
ま、それはともかく、会長はその抱かれたいランキングで1位。人気ランキングでも1位のこの学校で1番にもてる男なのである。そんな基準で選ばれるのである。
繰り返し言うが、この学校は男子校である。
「生徒会長、挨拶」
キャーがギャーになっている気がするどよめき……雄叫びが混じっている気がするのは、この際置いておく。
「黙れ」
さすが、俺様生徒会長、正源寺高明。
堂々とした体躯に、整った顔立ち。ワイルド系美男子。外見通りの肉食系。同い年とは到底思えない。
我が校で一番の家柄……平安まで遡れる古さと嗚呼あのっと一般人でさえわかる超有名企業のオーナー一族。当然跡取り。
成金親父が見栄で入れた俺とは大層な隔たりがあるってもんだ。
しかし目下の俺の興味は、傲岸不遜を絵に描いたような生徒会長でも、融通が利かない頑固者副会長でも、頭軽そうなきゃぴるん系の会計でも、誰にでも尻尾を振りそうな馬鹿犬系書記でも、突っついたらぶっ倒れそうなサナトリウム系書記でもない。
顔良し、スタイル良し、頭良し、運動神経良し……サラサラ金髪長髪、赤石春来ポジを狙っているのか、と聞きたくなるような、王子様系会計、斎城花彦君である。
斎城って斎城だよな……ちらりと横目で確認する斎城は相変わらずのオタクルック。
斎城本家の三男坊と触れ込みの花彦君と斎城分家の分家と噂の月哉君。
親戚なのは確かな様子……周りに気取られないように努めているようですが、こういう場で絶対花彦君は月哉君を探すんですよね。で、速攻見つける。あまりの素早さにたぶん探しているのを気づいているのは、ほとんどいない。
そして、親の敵でも見るみたいに、すんごい目で、特にべたべた月哉君にくっつく立花を睨みつける。まぁ一瞬だから、これまた立花本人と斎城と俺くらい? いや、帝王サマとその仲間達も知っているんだろう。斎城会計の敵意はそっちにも向いているし。
劇場型のこの講堂は、当然ながら固定席……つまり映画館みたいな席が中央の舞台を中心に半すり鉢状に配置されている。
いや、もうホントコンサートかよって感じなんだが、現在その舞台から遠い席にいる。うん、すぐそこが扉っていう一番に逃げ出すには良い位置。
「目、良すぎじゃね?」
俺の右前に座っている立花が正面を見たままぼそりと呟いた。
「ごめん」
その隣、俺の目の前で斎城がまっすぐ正面を見たまま応じた。
よーするに、斎城は斎城会計がやらかしたことに対して謝るぐらい近しい関係であるわけだ。
公には本家と分家、口も利かない関係だってことになっているけど?
極少でも血の繋がりがあるってわけで、その前髪と眼鏡に隠された素顔に興味津々な人間が、斎城会計サマが高等部に上がってからこっち、更に増えてきている現状……ま、俺もそのうちの一人のワケだが……帝王サマとその仲間達、立花を除く、と柏木を筆頭とする信者がピリピリしている。
斎城本人は何を考えているんだろう? 立花ほど鈍くないことは確かだけど……なんて考えてたけど、状況把握は出来ている、のか?