斎城月哉 Saijou Tukiya
紹介編 四人目
何でもそつなくこなす癖になんでこと恋愛に関しては不器用なんやろ? と思う。
図書館での騒動を怒りのままに席を立ち、俺を連れて寮へ帰る……というパフォーマンスで切り抜けた要……これ、切り抜けたって言うんやろか?
……まぁ、とにかく、帰ってきた自室。
「真大って俺が本家の人間だって気づいてるっぽいね」
「お前自身が本気で隠してないのにちょっと頭があれば気づくだろ。あんな噂信じているのは、馬鹿な垂穂とその他大勢ぐらいのもんだ」
その他大勢が信じていれば、別に気づかれてもかまわへんねんけどなー。
「結局、垂穂の試験勉強が出来てないし」
「後で来るだろ。最初っから部屋でやりゃーよかったんだよ」
今度は要が不機嫌とか。
「好きな人への対応がまともに出来ないのは自分なのに、不機嫌になられてもね」
「月……喧嘩売ってる?」
「俺、平和主義」
要は隠してないけど、あんな外見で真大も春来もたいがい戦闘民族だ。
俺にとって垂穂は癒し。
ま、それは垂穂以外のメンバーが思ってることだろうけど。
本当だったら、図書館で勉強会なんてしたくなかった。
予想通り、要・真大・春来の牽制で俺達の周囲は不自然に誰もいない空間が形成され、それでもチラチラ向けられる視線に真大がキレるに至る。
「なんで垂穂ってあんなに鈍感?」
図書館で! って言い出したのは垂穂。
なんだかんだ言って結局、垂穂の願いはよほどではない限り叶えられるので願い通りになったが、垂穂以外の人間はこういう結末を予測していただろう?
で、話は戻るわけだけど。
「いやそれよりも、なんでこの部屋は提供しないとか言ったりしたわけ?」
そう! いつも通りこの部屋で集合していれば、ああなりはしなかったのに!
「うるせぇ」
「後、垂穂が自分じゃなく俺になつくのが気に入らないからって垂穂に当たるのはいい加減にしなよね」
「黙れ」
「垂穂、勘違いしてるよ、アレ。真逆に。分かってるんだろうけど」
「黙れって」
ふてくされた要を放置して、メールでの要請どおりちょっとした食べるものを用意しはじめる。
要の予想通り今から来るらしい。3人とも。
春来からのメールの大量のハートを思い出してため息が出た。
「月哉~」
べったり俺に懐く垂穂。
視線がキツくなる要。
図書館の再現。
やれやれって思っているとぐいっと引き寄せられる。
「なにすんだよ、春来っ」
垂穂の文句で後ろの人間を把握。
「ねぇ、ツキちゃん」
「なんだ、春来」
「俺のお嫁さんになって?」
「俺レベルの料理の腕を持ったお嬢さんはゴロゴロいるから、手近ですますな」
「バレたか」
バレないわけないやろ。
「でもさ、今、お嬢さんと同棲出来ないわけだから、俺の同室になって?」
「お前の同室はどうするんだ?」
「追い出す」
「……いい笑顔だな」
まぁそれもいいかもしれん。一考の価値は……。
「追い出すなっ! つーかずるいずるいずるいっ! 俺も月哉と同室がいいっ!」
「ルームメイトからクレームが来てるぞ」
そう、現在のルームメイトは垂穂である。
優男風の顔立ちにチャラい言動で、一見力なんてなさげに見える春来であるが、俺達の中で一番背が高いし実は体格もよろしい。
俺、脱いだらすごいんです、を地でいってる。
翻ってみるに、俺の身長は平均値。体格で負けるってことは普通に考えれば腕力で負ける。
要するに、ここまできっちりホールドされてしまうと、春来に逃がす気がない限り逃げられない。
「垂穂はまた要と一緒の部屋でいいじゃん」
うん、それを考えたらいい案な気がするんだ。
「いやだ、俺が月哉と同室がいい」
きっぱり言い切った垂穂。
さっきからのお前の言動で要の機嫌がとんでもなく傾いているのに気づいてくれ。
そして、春来。
「いい加減放せ」
「えー」
「えーじゃない」
ちょっと力が抜けた隙に逃げ出そうと腰を浮かしたところ、狙っていたようにくるりんと向きを変えられた。
ってか狙ってたな。
「お前、武道とかやってるの?」
「俺? 小さい頃はあまりにも可愛らしすぎて浚われそうになることが多かったからきっちり護身用には習ってたよ」
やっぱり。
するりと頬をなで上げた手のひらが前髪をかきあげる。
あっけにとられる俺にふっと笑ってもう片方の手でメガネをずらす、その奥から現れた俺の裸眼をのぞき込み春来は言った。
「やっぱ、ツキちゃん俺の嫁にならない?」
部屋の空気が一瞬固まる中、要の低い声が響く。
「遊びでソレに手を出すな」
春来は笑みを浮かべたまま要にちらりと目をやると、メガネと前髪を元に戻した。
「それってさぁ、遊びじゃないならいいってコト?」
拘束していた腕が前髪とメガネを触る為に離れていたことに気づき、さっさと春来から離れて自分の場所へ戻る。
「要、お前いつから俺の保護者になった」
「保護者のつもりはないが、おまえに何かあれば連れ出した俺が殺される、違うか?」
「雪ちゃん過保護やもんなぁ」
「……アレは過保護の範疇か?」
「物心ついた頃にはああやったから、俺にとっちゃアレは普通」
「普通なわけないだろ」
「世間を知っていくうちに、ちょっと過保護なんちゃうかなーとは思った」
「ちょっとでもねえ」
「ほんなら、だいぶ過保護ってコトで。まーしゃーないやん、親と兄兼ねてんねんから」
ぺろっと口に出したら、さっと垂穂の顔色が悪くなった。
やべっ。
「あー……」
ばーかって顔の要。
真大と春来はわかってるっぽい。
「あんな、俺、親が交通事故でどっちも逝ってしもたから、兄貴が親代わりやってぇ……えぇー垂穂くん?」
沈んだ垂穂と慌てる俺。
周囲が助けを出すことはなかった。
友達甲斐のないやつら。