紫藤真大 Shidou Mahiro
紹介編 三人目
俺様平凡×オタクって萌えないよね。俺の萌えポイントをついてこない。
俺様平凡こと鈴木要と、オタクこと斎城月哉のルームメイトセットを横目にしながら思う。
まぁ、頭がいいだけの平凡と思われている鈴木君が実はこの学校でも一二を争う家柄の東條家の跡取り息子であるのは、ポイントが高い。
そして、実は根暗オタクと思われている斎城君が超絶美形とかだと俺が美味しい。
この前髪を上げて、その分厚い眼鏡を外してやりたい。しかし機会を見つけられない。……なんか警戒されているし。誰だよ、俺に気をつけろとか月哉に言ったの。
まぁ、限定されるけど。要でしょ、春来に垂穂。可能性の高い順に言ってみました。
「真大」
「なーに?」
俺、月哉の声好きなんだよね。柔らかいトーンで、高すぎもせず低すぎもせず。
「真大」
返事をしておきながら意識を明後日へ飛ばしているのを見抜いた月哉の声が少し尖る。
「ねえ、月哉。前髪ピンで留めていい?」
よく見える口元がひきつった。
口元しかよく分からないようになっているから、必然的に口元だけで月哉の様子を伺うわけで、そうなると案外人間てわかりやすいことに気づく。見る場所さえ間違えなければ、ピンポイントに集中してれば感情が読めるんだって。
まぁ、月哉の場合、出さないようにも出来るけど、俺達に対してはしないってだけだろうけど。
「月、真大は放っておけ」
出た。過保護な俺様。
「じゃあね、眼鏡外さない?」
俺の萌えポイントを上げるための代替案。本当はどっちもして欲しいけど。
「何この直接交渉……」
垂穂が月哉の隣の席で呟く。
ちなみに月哉から見て左が垂穂、その左が要。月哉の正面が俺。春来は垂穂の前。シチュエーションは放課後の図書館でお勉強会……主に垂穂の為の。
「不意をつくのが無理なので、正攻法でいってみました」
「……中身知らんかったら、さわやか笑顔で友達思いの言動にしか聞こえへんとこがいややわ」
俺達にしか聞こえない程度の小声で月哉が呟く。
俺の近寄るなオーラを察知したのか、隣り合ったテーブルには見事に人がいないしね。
「そういや、要はツキちゃんの素顔見たことあるんじゃないのぉ?」
「ある」
「「ずるい」」
「なにがずるいんだ、バカか」
冷たい要のツッコミも耳に入っていない垂穂は月哉に迫る。
「俺もみたい。ね、ダメ?」
オタク×平凡か……昔は俺様平凡×平凡だったはずなのになぁ。
実は幼稚舎期、垂穂は可愛かった。あるでしょ、子供としては愛らしいけど、成長して男前にはならないよねって顔。
今でも愛嬌のある顔だし、不細工ってわけでもない。あ、要も不細工ではない。両方、学内では平凡呼ばわりされているけど、学内でも平均よりは上だと思う。
でも悲しいかな、この二人がよく行動をともにしている俺も春来も、そして今は一緒にいることがなくなった志吹も学内で上位に入る美形で親衛隊持ちと来た。
まぁそんなこと考える前の幼稚舎から一緒にいるわけで、今更引き離し工作が出来るわけもなく、陰口を叩くだけだけど。
で、どっちが叩きやすいかって言えば、学年トップの頭脳を持つ要ではなく、どこを切り取って見てもせいぜい中の上である垂穂になる。
そうなってくると俺達は垂穂を守るためにも、他の人間を寄せ付けなくなる。
そういう悪循環で思春期に入った俺達はどんどん周囲を見限ってきた。
志吹は……違う道を選んだけれど、アレにはアレの事情があるし。
それはともかく、そんな俺達の中に突如として沸いた異物。それが月哉。なんだかんだ言って、垂穂には直接手を下せなかった連中も、月哉なら出せると踏んだ。
なんだかんだ言って垂穂には一定数の信者がいるけど、月哉にはいないってのもあるし、つき合いの長さがそのまんま重要度に直結していると考える単細胞も多いから。
「真大、なんでさっきからそんなに機嫌が悪いんだ?」
「垂穂……」
他の連中が気づいていてもあえて指摘しないでいることを指摘しちゃうのが垂穂の垂穂たる所以だよね。
しかし、そこですまなさそうにする月哉がダメだよね。俺の機嫌の悪さの原因が分かっちゃう聡さは、時としてマイナスとなる。
垂穂くらい鈍感だったらいいのに。
「月哉がちょっと俺に素顔を見せてくれたら機嫌は上昇すると思うよ」
「ホント、真大ってツキちゃんが好きだよねぇ~」
「なに言ってるの、春来だって大好きでしょ」
「そうだけどさぁ」
「俺も好きだから!」
ってそこで月哉の手を握る垂穂もダメだよね。
スパンッと垂穂の頭が快音をたてた。もちろん、要が原因だ。
「なにすんだよっ!」
「触るな、減る」
減らないよ。たぶん要以外の月哉を筆頭とした全員が思っただろう。俺達以外の聞き耳を立てている奴らも含めて。
「ホンマ、ダメダメやな、要」
「うるせぇ」
なんか分かり合っているのが気に入らない。
月哉が落ち込む垂穂の頭を撫でてやっているのも気に入らない。
「そう言えば、どうやって二人は知り合ったの?」
ちょっと大きめな声で仕掛けた俺を要が睨みつける。
それは先生方でさえ気圧される強さを持っているんだけど、幼稚舎からのつき合いである俺達には効かない。
「俺達?」
どうしたものか、と首を傾げる月哉。
どうしてやろうか、と睨みつける要。
俺も聞きたいと目を輝かせる垂穂。
面白がっている春来。
俺達は知っている。東條家のお坊ちゃんが、関西の斎城家のお坊ちゃんとお家の事情で知り合う可能性がなくはないと。
しかしこの学園内では、東條家のお坊ちゃんは頭が良いだけの平凡鈴木君で、斎城家のお坊ちゃんは本筋から外れた分家出身の名前だけ斎城のオタクである。
その筋書きに添うような言い訳が出来るといいね。
にっこり笑った俺に要の視線がさらに強くなった。