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『最近の、正確にはあゆみ先輩に会ってからの刻人くん変だよ( ・`д・´)
悩んでいる事があるなら聞いてあげるから、声かけるように( ・`ω・´)』
刻人は自室のベッドに横になって響からのメールを読んだ。親切な言葉とは反する印象の顔文字は、照れ隠しだろうか。あゆみと話してから、刻人が以前から考えていた可能性が、確信に変わろうとしている。いま、そのことを考えることで手一杯で他のことがおろそかになっていた。響に相談して胸の中で渦巻いている考えをまとめてもらうのはとてもいい案だ。しかし話すということは巻き込むのと同意。学校の愚痴を話すように簡単な決断はできなかった。
翌日の学校は、いつもより少し騒がしかった。原因がわかったのは昼休みになってからで、情報は芥子間が持ってきた。「新しい都市伝説が流行っている」そう言って集めてきた断片的な話を、ときどき冗談を交えつつ喋る。
むかし流行った”口裂け女”と同じで、”正体不明のモノ”に高校生が襲われるという自体が発生している。出現する場所は大通りを少し離れた場所、ひと目をつかない場所が多いらしい。”正体不明のモノ”が現れる場所には、まず青い平面上の色の変化が起こる。1m程度の円状に青くなるのだ。その青い平面からソイツは現れる。形状はいくつかあるらしいが、基本的に人間ではあり得ないような大きさの赤い腕が出て、近くにいた人を襲った。青い円状の平面だけが目撃されるパターンもある。
青い平面に赤く大きい腕、間違いなく蒼い世界が関わっている。昼休みが終わりそうだったので、電話は避けて噂の概要を響にメールした。また、放課後にそのことを直接会って相談したいとも。刻人は大きくため息をつく。兄のことを悩んでいたら、さらに問題が上乗せされた。高校2年に上ったばかりの頃の平和な日常はどこにいってしまっただろう。
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「蒼い世界が関わっていることにまず間違いはないと思う。だから、この問題を解決するために動きましょう」
いつも使っている喫茶店の席について早々、響は本題を始めた。
「最初は、そうね。噂を総合して、問題がどのような存在であるか推測しましょう。そうしないと捜査の方針が決められない」
「どんな存在か。この前あゆみさんから聞いた赤い怪物、”セルフィッシュ”の性質とは違う部分があるから、そこをまず考えよう」
「”セルフィッシュ”は人の負の感情の集合体で、人が多いところに発生することが多い。路地裏とか少し離れているけど、噂の怪物も人通りの多い場所での目撃談が多いから、合ってると思う」
「それに赤い身体も同じ。身体の色は決定的だと思うよ。まず同じ存在だと考えていいはず」
「となると、噂の怪物が現実世界に干渉してきているだけが問題ね。あゆみさんの話では”セルフィッシュ”は蒼い世界でしか存在できないという話だったわ」
そう、それが最大で問題。これまで戦ってきた”セルフィッシュ”にも、そんな力を持つものはいなかった。なぜそんな力を持つ”セルフィッシュ”が生まれたのか、それも大切ではあるが、最優先すべきことではない。
「その理由を考えるのは今度にしようか。噂のヤツが完全なイレギュラーの可能性もあるから、2例目が現れた時に考えればいい。優先的に考えるのは、いかにしてヤツを補足して退治するかだと思う」
「確かにそのとおりだね。と言っても確実に噂の怪物を補足する方法なんて思いつかないわ。噂にあった場所を捜索する位しか思いつかない」
「”セルフィッシュ”と同じ存在って結論だから、今まで俺たちが遭遇した”セルフィッシュ”の出現場所も捜索場所に加えよう。それと今回のヤツは今までにない能力を使うってことは、今まで以上に強い可能性がある。絶対ひとりで捜索しないように」
「むしろこっちのセリフだよ、刻人くん。能力的に一人前になって慢心してる刻人くんは、最近ひとりで突っ走り気味だよ。ひとりで捜索をしないことはもちろん、2人で捜索しているときも気を抜かないように」
そんなことないよ、と刻人は返したが響のジト目に何も言えなくなった。自分ではそんな意識はないのだが、響から見たら違うのか。今度からは注意しなくては、自分はアイツラに負ける訳にはいかないのだから。
あゆみにも相談することを決めて、早速今日から捜索をはじめることにした。まだ噂の場所はまとめていないので、今まで”セルフィッシュ”が現れたことのある場所を周ることとした。
まずは学校の最寄り駅で、近場でもっとも栄えてる小池駅周辺を捜索する。小池駅から北に5分歩くと刻人の通う今坂高校、南西に15分歩くと響の通うすめらぎ高校がある。お互いの通学路は人通りが多く、今までに”セルフィッシュ”が発生したことがあった。そのため、最初にこの通学路の捜査から行った。
喫茶店で1時間ほど作戦会議をしていたので、帰宅している生徒はまばらだったが、注目されているのを肌で感じることができた。隣の響はそんな視線が気にならないのか、長い髪を揺らしながら堂々と歩く。すでにクラスで響との仲は噂になっているので、刻人としてはいまさら気にする必要はないのだが、響は学校で刻人との関係は噂になっているのだろうか。なっていた場合、響はどのように返しているのか、刻人は気になった。
綺麗な女の子と友だちになれてよかったという思いが刻人のなかにあり、それと好意は別次元だと考えている。悩みが大きくて、恋愛の方に思考がさけていないのもあるかもしれない。響との出会いは、蒼い世界との出会いであり、それは兄の問題の発生でもある。刻人の思考を支配しているのは、兄の死因、その追求だ。今、あゆみの話を聞けたことでさらにその謎が深まるとともに、真実へ一歩近づいてきている感じを受けている。
そこにきて、”セルフィッシュ”がらみの事件。本当はこんな捜査をしてる暇はない。でも被害がではじめている現状、ほうっておくことも出来ない。二兎を追う者は一兎をも得ず。ひとまず兄のことは無理やり隅っこに追いやって、目の前の捜査に集中すべきだ。響に対する思いも、その関係も今は考えることじゃない。大事なパートナーであることに変わりはないのだから。
考えに集中していたせいで気づかなかったが、いつの間にか隣を歩いていた響が歩みを止めていた。さっきまでの堂々とした態度は影を潜め、不安そうに少し俯いた顔をしている。刻人が響を見ていることに気づくは、ハッとした顔をしたあとに無理やり作った笑顔を向けてきた。その笑顔が何も聞くなという意思表示に思えて、刻人は響に何も言えなかった。
その日、刻人たちはお互いの学校から駅までの通学路と、駅の周辺を捜索したが、噂の怪物に出会うことはなかった。




