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蒼色レガシー  作者: 羽八
5/13

2-1


―――斑鳩(いかるが)の兄貴は自殺したのではないか


 兄さんが死んで数日が経つと、その死が自殺によるものではないのか、という噂が広まった。兄さんの死因は自動車との接触による頭部外傷。事故現場は見通しの悪い一車線の交差点。遅刻しそうになって焦っていた自動車の運転手の不注意で、左折する際に兄さんにぶつかってしまった。そのとき兄さんは交差点付近でうずくまっていたため、左折途中の運転手から死角となっていた。


 自殺の噂がたったのは、兄さんがうずくまっていた理由が分からなかったからである。兄さんはこれといった持病はなく、貧血を起こしたことさえなかった。また遺体を検証した結果、自動車との衝突以外に目立った外傷はないことがわかっており、怪我をしてうずくまっていたという可能性も消えた。では、わざと自動車の死角にうずくまっていたのではないか。自動車に轢かれることで自殺を計ったのではないか、という流れで噂が生まれた。


 両親は必死に自殺を否定したが、噂を鎮める効果はなく兄さんの自殺だったということで人々の認識が統一された。



 赤い怪物から繰り出される右ストレートを自分の体を念動力で素早く後退させて避ける。数回の戦闘をこなして怪物のスピードに慣れてきたが、それでもボクサーみたいに紙一重でかわすのは無理なので、安全最優先で能力を使って回避した。怪物の注意が完全に刻人に向いたのを確認した(ひびき)が怪物の後方から近づき、1mの球に圧縮した水を怪物の後頭部に思いっきり加速させてぶつける。


「チャンスよ!全力で攻撃して」


 近くにあった公衆トイレの床に力を素早く疾走らせて地面から切り離し、公衆トイレをそのまま怪物に叩きつける。トイレが粉々になり土煙が上がり視界が悪くなったが、気にせず近くにある銅像や街灯などダメージを与えられそうな物を怪物がいた位置に叩きつける。周囲に物がなくなったのを見て、刻人は大きく息を吐き、警戒を解かずに怪物を探す。土煙が消えて視界が戻ったとき、怪物は半透明になり消えかけていた。刻人は体を弛緩し響を見ると、彼女は笑顔を向けてくれた。


「もう能力的には一人前だね」


「響さんのご指導のおかげです」


「わかっているならよろしい」


 いらないボケをしたせいで、響の表情が微笑みからニタニタ笑いに変わってしまった。刻人(ときひと)は軽く後悔しながら、自分が作った惨状を見渡す。怪物を倒すための投擲物として周りの物を使ったので、刻人の周囲10mは完璧に更地になっている。建築用の重機を使ったとしてもゆっくり動かすことすら無理なことをこの能力さえあれば簡単に動かすことができる。怖いな、と思った。


 怪物が完全に消えると、蒼い世界全体の彩度が落ちてモノクロになっていく。その変化に合わせて、刻人と響の体にも元の世界に戻るために体が透明に変わる。五感もだんだん薄れていくので、貧血を起こしてゆっくり倒れているような印象。次第に薄れていく意識の中で、刻人は蒼い世界にいるときに感じる違和感が何なのか考えていた。



 半月ほどで蒼い世界という非日常はただの日常になりかわった。あの世界にいる間は時間が経過しないため、二重生活のような過酷さを強いられることもない。マイナス面はほぼなく、能力を思い切り使うことで日頃のストレスを解消できる素晴らしい場所。怪物はいるけど平和な世界。―――本当に?


 響と何度も怪物退治を繰り返すことで次第に疑問が大きくなった。なぜ怪物は生まれるのか。なぜ能力が自分に備わったのか。響に一度聞いてみたが、分からないと答えられた。彼女は刻人が現れるまで1人で怪物に戦っていたので「どうやって倒すか」が重要項目で他のことは考える暇がなかった。答えは自分で探すしかないが、答えを見つけるための材料が不足している。青い世界の核心に迫る情報はどこにあるのか。それを頭の中で何度も何度も考えたが、何も思いつかない。


 学校でも悩むようになり、クラスメイトからからかい含みに声をかけられることが多くなった。「彼女と次のステップに入る方法に悩んでいるんだろう。分かるよ」と訳知り顔で近づいてきた芥子間(けしま)に対しては渾身のローキックを決めてしまった。ローキックは相手に怪我をさせる心配が少ないので、気軽に本気を出せる素晴らしい打撃である。


 答えが提示されるかわからない疑問を悩んでは仕方ない。そう結論づけようかと思っていたとき、彼女が俺達の前に現れた。



 怪物にいつ襲われても大丈夫なようになるべく一緒に行動しよう。その方針で登下校などを二人でしていたら、気づくとプライベートでも頻繁に響と刻人は遊ぶようになっていた。そろそろ夏物の洋服が並んでいるからみたいと響が言ったので、その日は買い物に出かけた。買い物するならモールだろうと、駅に向かっていると、後ろから女の人に声をかけられた。その声を聞いた瞬間、刻人の心拍数は一段上がり、体が硬直して振り向くことができなくなった。


「あれ?もしかして響ちゃんじゃない」


須々木(すすき)先輩。お久しぶりです。帰省してたんですね」


「ちょっと家庭の事情でね。そっちの男の子は彼氏さん?」


 刻人の話題になったので、硬くなった体を無理やり動かしてゆっくり後ろを向く。響が刻人を紹介してくれているのかもしれないが、全然耳に入ってこない。女の人と目が合うと、彼女が目を見開いた。


「…刻人君だよね」


「…お久しぶりです、あゆみさん」


 事情が全くわかっていない響は視線を刻人とあゆみにキョロキョロ移動させて困惑しているが、説明してやる余裕が刻人にはなかった。一度強くこぶしをにぎり、なるべく自然に見えるようにあゆみに笑顔を向ける。うまく出来たかは分からないが、あゆみは驚いた顔をやめて、笑顔を刻人に返してくれた。


希人(さきひと)のお葬式以来だから、3年ぶりか。元気にしてた?」


「はい、お陰様で。あゆみさんも元気そうですね。相変わらずにぎやかな空気を発してますよ」


「空気が見えるの!もしかして刻人君の能力は視力強化系?」


―――能力

 あゆみははっきりそう言った。落ち着き始めていた頭が再び混乱する。”能力”とは蒼い世界で使えるあの力のことを言っている?もしかしたらただのジョークで、全く関係のない話題なのか?何と言って返したら正解だ?…もうわけがわからない。

 見かねた響が助け舟を出してくれた。


「刻人君の能力は念動力(サイコキネシス)ですよ。刻人くん、あゆみ先輩は蒼い世界の先輩なんだ。あゆみさん、どうして刻人くんが能力者だってわかったんですか?」


「響ちゃんと刻人君の接点はゼロだしさ。もしかしたらと思ってカマかけたの」


「どういうことですか!あゆみさんもあの世界に行けるんですか!」


「うん。行けるようになって、もう4年は経つかな。これでもベテランなのだよ」


「4年前からなら、兄さんも蒼い世界のことを…」


「知っていた。というか希人も能力者だったからね」



―――それも、刻人君と同じ念動力者(サイキッカー)。偶然にしては出来過ぎてるね。運命…なのかな。

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