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蒼色レガシー  作者: 羽八
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1-3


 半歩前を歩く(ひびき)は、膝上丈のスカートを揺らす。その様子を横目に見ながら、刻人(ときひと)は今日は本当に能力を試すのか疑問に感じていた。どう見ても響の服装はお出かけ用で、運動するには不向きだ。しかし、そのことを素直に聞くのはなんとなく嫌な予感がして、会って10分程度経つのに聞けなかった。これまで響を観察してきた結果、たぶん質問次第では彼女は不機嫌になると予想がついた。服装、アクセサリーなどファッションに関わることに一般の女子高生と同等以上にこだわりを持っているが、頭はいいので、響は空気の読めてない無意味なことをしない。


 世間話をしつつ、服装のことをなんと言って聞くか考えるのにさらに5分かかった。どうやら、能力のテストは激しく動きまわるようなことはないらしいし、そんなに時間もかからないそうだ。テストの後に遊ぶことを考えてこの服装にしたとのこと。そんなことをしていたら、目的の公園についた。公園はそれなりの規模のもので、野球ができそうな広さの芝生が数カ所、それに湖もある。


「これだけ広ければ十分よね」


 湖の隣にある、だだっ広い芝生の中心に立って響がそうつぶやいた直後、世界が蒼色に変化した。


「半径200mくらいの世界を作ってみた。じゃ、さっそく刻人くんの能力が何なのか、試してみましょうか」


「具体的にはどうやったら能力って発動するの」


「うーん。言葉にするのは難しい。例えば手を動かすにはどうするばいいかって聞かれたら答えにくくない?手を動かそうと思うだけで動かせるわけだし」


「確かにそうだけど、それじゃ困るんですけど…」


「重要なのは、自分には能力があるということを意識すること。手を動かることができるってわかってないと動かすことなんてできるわけないじゃん」


 響が存外頼りにならない先輩であることが判明したので、刻人は自分で考えることにする。能力を意識しろと言われても、具体的にどんな能力が備わっているのか検討もつかないので、意識しようがない。せめて何かの取っ掛かりが欲しいところ。


「そうだ。響さんの能力を見せてよ」


「あ、そっか。実際に見せるほうがはやいってことでまだ話してなかったっけ」


 響は体を湖のある方に向けた。それからゆっくりと右腕を水平になるまで持ち上げると、それに合わせて直径1mほどの球の形をした湖の水が持ち上がった。


「私は水を操る能力なの。気体・液体・固体の全ての状態で操作することができるけど、一番使うのは液体かな」


 しゃべりつつ、響は水を操作した。急上昇や急降下、八の字と上下左右自由自在に動かせるようだ。響の能力は、一般的にイメージする超能力と似ている。まずは能力はサイキック系と仮定して考えようと刻人は決めた。メジャ-なところだと念動力(サイコキネシス)発火能力(パイロキネシス)あたりか。


 自分の能力を見せ終えた響は、あとは自分で頑張ってみてと言いベンチに座って携帯をいじりだした。この後の予定を何も考えてきてないであろう刻人の代わりに、お店とかを調べるとのこと。全くその通りだったため、文句も言えず一人で能力を試すことにした。


 響と同じ動作をしながら、湖の水を動かすことを意識してみたら、数センチだけ持ち上がった。できた波紋が広がりを見ながら、刻人は自身の能力がサイコキネシス系なんだと考えた。動かす対象を総当りで試していけば、いつか当たりに当たるはず。目につくものをひと通り動かそうとした結果、刻人は能力をおおかた把握することができた。


 響のように対象は水だけといった物質の種類の制限はないかわりに、物質の状態に制限があり、能力の対象は個体だけで、それ以外はほとんど効果がなかった。個体ならどんな物質でも自由自在ではなく、操作しやすいものと操作しづらいものがある。傾向として、大きいものほどコントロールが落ちる。ある程度練習すれば精度は伸びるかもしれないけど、基本的にコントロールよりもパワーが優れている能力のようだ。おっとりした性格に似合わず能力は力技特化なのね、と響は笑っていた。



 刻人の能力の概要が判明したところで、その日のテストは終了となった。能力を使ったせいか、甘いものを食べたくなったので、スイーツを食べに行く事にした。響が選んだお店は、繁華街から少し外れたところにある和風な甘味処。


「集中して勉強すると糖分がほしくなるじゃない。あれと同じよ」


 蒼い世界は肉体の疲労はない代わりに、脳が披露するのだと先にきたクリームあんみつを頬張りつつ、響が言う。たしかにテスト勉強をした後と似た疲労を刻人は感じていた。響が食べているあんみつからほのかに漂う甘い香りが食欲をかきたてられ、刻人の頼んだ白玉ぜんざいが来るまでの時間が苦痛だった。しかし、苦痛に耐えた後のぜんざいは至福の味がした。カフェの時もそうだったが、響が選ぶ店はどれも味が素晴らしい店ばかり。これが女子高生の情報収集能力なのだろうか。恐ろしい。


「そうそう。ひとつ注意しておかないといけないことがあったんだ」 


「蒼い世界のこと?」


「もちろん。注意点はひとつ。刻人くんも能力を使う感覚はわかったから、たぶん今日の私みたいに世界を作ることもできるようになったと思うんだけど、一人でそれはやらないようにってことなの」


「…理由を聞いてもいい?」


「単純に危険だからよ。まだ私は遭遇したことはないけど、自分で蒼い世界を作った場合でも、怪物が出る可能性は否定出来ない。刻人くんは初心者だし、一人での戦いは避けるべき」


「至極まっとうな忠告で、返す言葉もないっす。以後、心に留めておきます」


「素直でよろしい」


 刻人の返答に満足したのか、そのあと響は黙々とクリームあんみつを食べた。その表情はとても幸せそうで、見てるこっちまで巻き込まれそうなほど魅力的だ。ただ、刻人の心には少しだけザラザラしたしこりのようなものが残った。


 甘味処から出た後は、「刻人くんの服が普通すぎて駄目」という響の意見が出たため、刻人の服を探すこととなった。その日の刻人は、濃い灰色のジーンズに真っ白いシャツと紺のカーディガンで、ぱっと見では制服にも見えるような格好であった。刻人はお金があまり持っていないのもあって、服に対してはお金をかけない方針で、なるべく無難な物を選ぶ傾向がある。それは高校生として間違った感覚だと響は言う。



 飲食店の情報と同様に、響は男性物の服屋の情報も熟知していた。よく行く甘いものの情報だけでなく、行く機会のほとんどないであろう情報を知っているとは女子高生は計り知れない。ふと、響には彼氏がいるのかもしれない、と思った。その可能性を考えたとき、すこし胸がいたむ。刻人にはそれが恋心に由来するものなのか、子供っぽい独占欲に由来するものなのか判断しかねた。現段階では結論を導き出すことは無理なので、胸が痛んだ事実をそっと自分の中にしまって、これまで通りになるように意識しながら、響と向き合った。


 その日、響とは夕方の6時頃に家まで送ってわかれた。響とわかれて一人になった刻人は、厳しい表情をしながら自宅へと向かっている。あと5分ほどで自宅に着くという所まで来たとき、刻人は急に思いついたような表情をして、近くにあったブランコと砂場しかない小さな公園へと足を運んだ。その直後、公園は蒼い光で包まれた。


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