プロローグ
プロローグ
刻人は生まれて始めて寝坊して、学校に急いで向かっていた。寝起きは良い方なので、普段は寝坊をすることはない。だが、昨晩は寝る前に読み出した小説にはまってしまい、寝たのが明け方となってしまった。
電車に乗ったら休憩できるので、それまでは頑張ろうと思い、運動不足の体でダッシュする。自宅から駅までは歩いて15分程度なので、走れば5分で着くはず。しかし、2分走った時点で体は悲鳴をあげて、まともに動いてくれなくなってしまった。自分の貧弱さにほとほと呆れつつ、一気に駅まで走るのを諦めて、少し歩く。街中を全力疾走する姿は目立つので、周りの視線が気になり、ちらっと周囲を確認したら、周りには誰一人としていなかった。
違和感を覚えた。朝の通学通勤の時間だから、駅に向かう道で周りに人っ子一人いないのはおかしい。それに、目のホワイトバランスが狂っているのか、視界の青味が強かった。
走ったせいが通常よりも増している心拍数がさらに増加するのがわかった。 感じはじめた恐怖を振り払うかのように、もう一度走り出す。するとすぐに人影を見つけることができた。刻人は安堵し、全力疾走だったスピードをジョギング程度まで落としながら、その人影の横を通り過ぎようとした。
再び恐怖を伴う違和感が襲った。近づいたそれは言葉通りの゛人影゛だった。真っ黒に塗られた等身大パネルのようで、とても人間とは言えない。周囲にも同じような゛人影゛がたくさんあり、異様な空間を形成している。恐る恐る゛人影゛に触れてみると、それは気体のようで、掴むことができなかった。
ますます不思議になってきたが、自分が遅刻しそうなことを思い出して、駅に向かって走り出す。目の前の現実から逃避するためにさっきまで以上に全力を出す。
そのとき、刻人の前に、巨大な物体が降ってきた。
青い空間の中では異彩を放つ真っ赤な物体で、人と同様に五体満足の体だが、バランスは人のそれとは大きく異なっていた。胴体はほぼ球形で全長の75%の大きさがある。その代わり手足は異様に短く、そして太かった。申し訳程度にちょこんと乗せられた頭は、三日月のように嗤った口だけがある。
これは死んだな、と刻人は思った。もしこれが現実なら墓場に直行で、これが夢なら、目を覚ますことになるだろう。全力で後者になることを祈った。祈ることしかできなかった。体は恐怖で固まっていて、逃げることができなくて、怪物がゆっくりとした動作で拳を振りかぶるのを見ることしかできない。
「何をやってるの!ぼうっとしてないで戦うなり、逃げるなりしなさいよ!」
怪物の次に振ってきたのは、女の子だった。それぱっと見でわかるほどに、スタイルが抜群にいい子。彼女の、某特撮ヒーローを真似たキックをくらった怪物は、数mぶっとばされて壁に激しくぶつけられ、動かなくなった。
「ぼさっとしない!逃げるよ」
女の子は刻人の手をとって、逃げるのを誘導するため走り出す。起こった出来事が非現実過ぎて「これは夢だな」と思い、手を引かれるまま走った。ただ、繋いだ手はやけに温かく「これは現実だよ」と主張していた。




