10回ループするまでにサッカー日本代表にならないと人類滅亡ってそりゃないよ【短編版】
連載版を10/16から公開予定です。
もし気にいっていただけたら御一読いただけると嬉しいです。
10回ループするまでにサッカー日本代表にならないと人類滅亡ってそりゃないよ
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うおおおお、なんでじゃあ!
何で通用しないんだぁああああ!!
ループ四周目。人生を三回やり直して、ようやくプロサッカー選手になった。
いや、最初の普通の人生を合わせると、人生は五回目だ。
長かった。
本当に長かった。
普通なら、ここで感動の涙を流してもいいと思う。
幼い頃から夢見たプロの世界。厳しい競争を勝ち抜き、ついにたどり着いた憧れの舞台。
実際、契約書にサインしたときは少し泣いた。
だが、今は別の意味で泣きそうになっている。
「おい! 何やってんだ! 早く出せ!」
先輩の怒鳴り声が飛んできた。
慌ててパスを出す。
その瞬間、相手選手の足が伸びてきた。
「あっ」
ボールを奪われた。
そして、そのままカウンター。
「お前、何回同じことやってんだよ!」
「す、すみません!」
……いや、待ってくれ。
おかしくないか?
俺、人生四周目だぞ?
もう百年ほどサッカーをやっている。
サッカー歴だけなら、世界中の誰よりも長い。
それなのに、二十歳そこそこの先輩に怒鳴られている。
しかも、反論の余地がない。
俺が悪い。
百パー俺が悪い。
だから余計に腹が立つ。
神様、そりゃないよ。
◇
そもそも、なぜ俺が人生を何度もやり直しているのか。
話は、最初の人生の終わりまでさかのぼる。
俺はごく普通のサラリーマンだった。
学生時代にサッカーをやっていたものの、特別うまかったわけでもない。中学、高校と部活動を続けた程度だ。
きっかけはもう覚えていないが、ある日、神様を名乗る存在が現れた。
神様と名乗るなんて危険な匂いしかしないが、なぜか疑うことができなかった。
圧倒的超絶的存在──自分でも何を言っているかわからない──であることが勝手に理解できた。
そして、信じられないことを言い出した。
『お前には、サッカー日本代表になってもらう』
その言葉に耳を疑った。
いい年したおっさんに何を言っているんだ。
せめて、あと三十年若くして圧倒的な才能をくれ。
そう返したら、神様はあっさり答えた。
『心配するな。五歳からやり直させてやる』
おお、これはもしや、WEB小説でよくある展開かな!
『三十歳になるまでに、サッカー日本代表のA代表に選ばれれば成功だ』
おおお!
『失敗すれば、また五歳に戻る。挑戦できるのは十回までだ』
ん? 挑戦?
十回まで??
『十回までに成功しなかった場合、人類を滅亡させる!』
え、人類を、なんで?
なんで俺のサッカー人生に人類の命運が懸かっているんだ!
『お前が思っているような特別な才能や、いわゆるチートは与えない。あくまでもお前のまま五歳に戻す』
ちょっと待ってください!
それは無理です!!
俺も若ければ〜、なんて飲み屋のオネーチャンに言ったことはありますが、あれは冗談です!
せめて元プロ選手に頼めよ!
何が目的なんですか!?
しかし、神様は聞く耳を持たなかった。
気がつけば、俺は五歳になっていた。
小さな手。
短い足。
やたらと高い声。
鏡に映っていたのは、幼い頃の俺だった。
時代も丁寧に俺の五歳の頃、1987年だった。
──昭和です、悪いかよ。
こうして、人類の未来を懸けた、俺の長すぎるサッカー人生が始まったのである。
ちなみに、神様からもらえた特典は一つだけ。
人生をやり直しても消えないノートだ。
何ページ書いても終わらず、次の人生にも持ち越せる。
記憶も引き継げるので、過去の経験を記録しておけるというわけだ。
ありがたい。
実にありがたい。
……できれば、足が速くなるとか、時を止められるとか、俯瞰で周囲を見られるとか、そういう特典が欲しかった。
◇
一回目のループ人生。
俺は、とにかくサッカーを頑張った。
五歳児とは思えない集中力で練習した。
周囲の子供たちが砂遊びをしている間も、ひたすらボールを蹴り、筋トレや持久走など考えつくまま練習した。
何せ人類滅亡だ。このことが常に頭にあり、怠けることが許されないのだ。
これももしかしたら特典なのかもしれない……。
当然、最初は無双した。
そりゃそうだ。
こっちは大人の頭でサッカーをやっているし、最初から鍛えているんだから。
これは楽勝かもしれない。
そう思った時期が、俺にもありました。
ところが、年齢が上がるにつれて周囲との差が縮まり始めた。
高校では強豪校のレギュラーになれたものの、プロから声はかからなかった。
大学でもサッカーを続けたが、結果は同じ。
もはや日本代表にはなれないことが分かっているが、次のループに備えて情報を集めて過ごす。
そして三十歳。
失敗。
二回目のループ人生。
今度はプロクラブの育成組織に入った。
ちなみに前回のメモから親を巧みに誘導し、株で大金持ちにした。すべては人類滅亡回避のためだ、これくらいは許してくれ。
環境が大事、そして環境を整えるためにはお金が必要だと学んだからだ。
前回の経験もある。
今度こそいける!
そう思っていたら、とんでもない天才たちに出会った。
何なんだ、あいつら。
上手すぎなんですけど!?
同じ年齢なのに、明らかに素材からして違う。
こっちは二周目なんですけど?
結局、ユースまでは進めたが、プロにはなれなかった。
三十歳。
また失敗。
三回目のループ人生。
ならば、もっと練習すればいい。
足りないのは努力だ。
そう考えて、過去二回の経験を総動員した。
朝から晩まで練習した。
限界まで身体を追い込んだ。
結果。
身体が壊れた。
……うん。
やりすぎた。
サッカーを続けられなくなった俺は、その後、栄養学や身体のケアについて勉強した。
スポーツトレーナーとして働き、怪我を防ぐ方法や、効率的な練習方法を研究した。
ついでに恋愛、結婚もしてみた。家族も作った。
そして、三十歳。
三回目の失敗。
当然、家族は消えた。
俺は泣いた。
ループを抜けるまで、二度と家族は作らない。
ここまでで、ループ人生だけでも七十五年。
さらに、最初の普通の人生もある。
俺はもう、百年以上生きている。
百年だぞ?
サッカーの歴史くらい長くないか?
──と思って調べたが、サッカーの歴史の方が長かった。すみません、先輩、失礼しました。
なのに、まだ日本代表どころか、プロにすらなれていない。
そして迎えた、四回目のループ人生。
過去三回分の経験。
蓄積された練習データ。
栄養管理。
身体のケア。
すべてを組み合わせ、俺はついにプロ契約を勝ち取った。
やった。
やったぞ。
ついに、ここまで来た!
ただし二部だ。
一部のチームには入れなかった。
まあいい、ここから上がっていけばいいのだ。
二部からのサクセスストーリーなんて腐るほど聞いたことがある。
……そう思ったのが、数か月前のことである。
◇
「おい、次いくぞ!」
「はい!」
俺は慌てて練習に戻った。
今日のメニューは、狭いエリアでのボール回し。
別に初めてやる練習ではない。
これまで何千回、いや何万回と繰り返してきた。
なのに、ボールが回ってこない。
いや、正確には回ってくる。
回ってくるのだが、すぐに奪われる。
「遅い!」
「はい!」
「そこじゃない!」
「すみません!」
「周り見ろ!」
「見てます!」
「見えてねえだろ!」
……おっしゃるとおりです。
見ているつもりなのだ。
ちゃんと首も振っている。
相手の位置も確認している。
でも、いざボールが来ると、考えていたことが全部吹き飛ぶ。
相手が速い。
寄せが速い。
判断が速い。
何もかもが速い。
こっちが一つ考えている間に、相手はもう次のプレーに移っている。
ちょっと待ってくれ。
俺は百年近くサッカーをやっているんだぞ?
何でこんなことになるんだ?
練習が終わったあと、俺はグラウンドの隅に座り込んだ。
足は重い。
頭も痛い。
何より、心が折れそうだった。
「お疲れ。大丈夫か?」
声をかけてきたのは、チームの先輩だった。
俺より二つ年上の選手だ。
もちろん、人生の通算年齢では俺の方がはるかに上である。
だからどうしたという話だが。
「……全然ついていけなくて」
「まあ、最初はそんなもんだろ」
「でも、俺なりにずっと練習してきたんです」
「そりゃ、みんなそうだよ」
先輩は笑った。
悪気はない。
悪気はないのだが、その言葉はなかなか刺さった。
みんなそう。
そうなのだ。
プロになるような選手は、みんな才能があり、そしてそのうえで努力してきている。
俺だけが特別頑張っているわけじゃない。
……いや、人生を四回やり直している分、さすがに俺の方が長く頑張っているとは思う。
そこは認めてほしい。
言えないけど。
「でも、お前、面白いよな」
「何がですか?」
「練習の意図とか、戦術の話はすごく理解してるだろ。コーチと話してても、よく分かってるなって思うし」
「はあ」
「なのに、ボール持つと急に普通になる」
「……」
普通。
普通って言われた。
人生四周目なのに。
「いや、悪い意味じゃなくてさ。考えてることに技術が追いついてない感じがするんだよ」
その言葉に、俺は顔を上げた。
「技術、ですか?」
「そう。例えば、ボールを止める位置がちょっと違うだけで、次のプレーが遅れるだろ? パスもそう。ほんの少しずれるだけで、受ける側が一歩余計に動かなきゃいけない。受ける側の位置や体勢もそうだな」
「……ああ」
「そういう細かいところかな。プロだと、そのちょっとした差が大きいから」
先輩はそう言って、立ち上がった。
「まあ、慣れもあると思うけどな。頑張れよ」
「ありがとうございます」
先輩が去っていく。
俺はしばらく、その背中を見つめていた。
……技術。
基礎技術。
そんなもの、散々練習してきた。
止める。
蹴る。
運ぶ。
何万回も繰り返してきた。
しかし、思い返してみれば、俺はいつも結果ばかり気にしていた。
パスが通ったか。
ボールを奪われなかったか。
試合に勝ったか。
そればかりだった。
同じパスでも、プロの選手は味方が次にプレーしやすい場所、より得点が取れる場所へ出している。
同じトラップでも、次の動作につながる位置にボールを置いている。
俺は、そこまで徹底できていただろうか。
……いや。
できていなかった。
「そういうことか……」
思わず声が漏れた。
これまでの人生で、俺は何度も壁にぶつかってきた。
練習環境。
才能の差。
身体の限界。
そして今回。
プロの世界で求められる、基礎技術の質。
なるほど。
ようやく分かった。
分かったのだが。
「……それ、もっと早く教えてくれよ!」
思わず叫んでしまった。
近くにいたスタッフが驚いてこちらを見る。
「どうした?」
「い、いえ! 何でもないです!」
危ない。
変なやつだと思われるところだった。
……いや、もう思われているかもしれない。
◇
その夜。
俺は自室の机に向かっていた。
目の前には、一冊のノートが置かれている。
神様から渡された、唯一の特典。
何ページ書いても終わらない、不思議なノートだ。
見た目は、ごく普通の大学ノートである。
ただし、中身は普通ではない。
これまでの人生で積み上げてきた記録が、ぎっしり詰まっている。
練習メニュー。
身体の成長記録。
食事内容。
怪我の原因。
試合での反省。
出会った指導者の言葉。
プロクラブの育成方針。
そして、何度も書き直した次の人生の計画。
最初の頃は、ただの日記だった。
それが今では、ちょっとした研究資料になっている。
自分で言うのも何だが、なかなかの力作だ。
これを大学に提出したら、何か学位をもらえないだろうか。
……いや、百年分のサッカー研究をしておいてプロで通用しない人間の論文なんて、誰が読みたいんだ。
俺は新しいページを開いた。
ペンを握る。
そして、今日分かったことを書き始めた。
基礎技術の質。
ボールを止める位置。
パスの精度。
次のプレーへのつながり。
どれも当たり前のことだ。
しかし、その当たり前を、俺はまだ身につけきれていなかった。
ならば、どうすればいい?
答えは簡単だ。
次の人生では、もっと早い段階から徹底すればいい。
子供の頃から、正しい技術を身体に覚え込ませる。
ただ回数をこなすのではなく、一つ一つの動作の質を高める。
そして、そのための練習方法を、今のうちに研究する。
……よし。
やることは決まった。
俺はノートに大きく書き込んだ。
【第4回人生・研究記録】
プロ契約:達成。
日本代表:未達成。
現在の課題:プロ基準の基礎技術が不足。
次回の研究テーマ:育成年代からの基礎技術の習得方法。
残り挑戦回数:六回。
そこまで書いて、ペンを止めた。
六回。
まだ六回もある。
そう考えるべきなのだろう。
実際、最初の頃は十回もあれば何とかなると思っていた。
だが、四回目の人生でようやくプロになれた。
それも、試合に出ることすら難しいレベルだ。
日本代表なんて、まだ遥か彼方にある。
しかも、相手は日本中から選ばれた一握りの選手たちだ。
俺が一生懸命練習している間、彼らだって成長している。
いや、そもそも俺より才能がある。
……何だ、この無理ゲー。
改めて考えると、条件が厳しすぎるだろう。
神様。
今からでも難易度を下げてもらえませんかね?
Jリーグデビューで成功とか。
せめてオリンピック代表でも可とか。
いや、もういっそ県選抜くらいで。
……駄目だろうな。
俺は天井を見上げた。
返事はない。
まあ、期待していなかったけど。
小さくため息をついて、もう一度ノートに目を落とす。
そこには、これまでの三回の人生で書き続けてきた記録がある。
何度失敗しても、次にやるべきことは見つかった。
今回だってそうだ。
プロの世界で通用しない理由が、一つ分かった。
ならば、まだ前には進める。
進めるはずだ。
……たぶん。
俺はノートを閉じた。
窓の外には、静かな夜の街が広がっている。
ここに暮らす人たちは、明日も普通に仕事へ行き、学校へ行き、いつもどおりの生活を送るのだろう。
その未来が、俺のサッカーの腕前に懸かっている。
誰も知らない。
俺以外、誰も。
いや、本当に何で俺なんだろうな。
もう一度、残された回数を数える。
六回。
あと六回。
「……あと六回で、本当に日本代表になれるのかな……」
返事は、やっぱりなかった。
仕方ない。
とりあえず明日も練習だ。
人類の未来は、まず俺のトラップ改善から始まるらしい。
……先が長すぎる。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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