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10回ループサッカー日本代表にならないと人類滅亡

10回ループするまでにサッカー日本代表にならないと人類滅亡ってそりゃないよ【短編版】

作者: いとやん
掲載日:2026/10/11

連載版を10/16から公開予定です。


もし気にいっていただけたら御一読いただけると嬉しいです。


10回ループするまでにサッカー日本代表にならないと人類滅亡ってそりゃないよ

https://ncode.syosetu.com/n5157mw/

 うおおおお、なんでじゃあ!


 何で通用しないんだぁああああ!!


 ループ四周目。人生を三回やり直して、ようやくプロサッカー選手になった。


 いや、最初の普通の人生を合わせると、人生は五回目だ。


 長かった。


 本当に長かった。


 普通なら、ここで感動の涙を流してもいいと思う。


 幼い頃から夢見たプロの世界。厳しい競争を勝ち抜き、ついにたどり着いた憧れの舞台。


 実際、契約書にサインしたときは少し泣いた。


 だが、今は別の意味で泣きそうになっている。


「おい! 何やってんだ! 早く出せ!」


 先輩の怒鳴り声が飛んできた。


 慌ててパスを出す。


 その瞬間、相手選手の足が伸びてきた。


「あっ」


 ボールを奪われた。


 そして、そのままカウンター。


「お前、何回同じことやってんだよ!」


「す、すみません!」


 ……いや、待ってくれ。


 おかしくないか?


 俺、人生四周目だぞ?


 もう百年ほどサッカーをやっている。


 サッカー歴だけなら、世界中の誰よりも長い。


 それなのに、二十歳そこそこの先輩に怒鳴られている。


 しかも、反論の余地がない。


 俺が悪い。


 百パー俺が悪い。


 だから余計に腹が立つ。


 神様、そりゃないよ。


     ◇


 そもそも、なぜ俺が人生を何度もやり直しているのか。


 話は、最初の人生の終わりまでさかのぼる。


 俺はごく普通のサラリーマンだった。


 学生時代にサッカーをやっていたものの、特別うまかったわけでもない。中学、高校と部活動を続けた程度だ。


 きっかけはもう覚えていないが、ある日、神様を名乗る存在が現れた。


 神様と名乗るなんて危険な匂いしかしないが、なぜか疑うことができなかった。


 圧倒的超絶的存在──自分でも何を言っているかわからない──であることが勝手に理解できた。


 そして、信じられないことを言い出した。


『お前には、サッカー日本代表になってもらう』


 その言葉に耳を疑った。


 いい年したおっさんに何を言っているんだ。


 せめて、あと三十年若くして圧倒的な才能をくれ。


 そう返したら、神様はあっさり答えた。


『心配するな。五歳からやり直させてやる』


 おお、これはもしや、WEB小説でよくある展開かな!


『三十歳になるまでに、サッカー日本代表のA代表に選ばれれば成功だ』


 おおお!


『失敗すれば、また五歳に戻る。挑戦できるのは十回までだ』


 ん? 挑戦?


 十回まで??


『十回までに成功しなかった場合、人類を滅亡させる!』


 え、人類を、なんで?


 なんで俺のサッカー人生に人類の命運が懸かっているんだ!


『お前が思っているような特別な才能や、いわゆるチートは与えない。あくまでもお前のまま五歳に戻す』


 ちょっと待ってください!


 それは無理です!!


 俺も若ければ〜、なんて飲み屋のオネーチャンに言ったことはありますが、あれは冗談です!


 せめて元プロ選手に頼めよ!


 何が目的なんですか!?


 しかし、神様は聞く耳を持たなかった。


 気がつけば、俺は五歳になっていた。


 小さな手。


 短い足。


 やたらと高い声。


 鏡に映っていたのは、幼い頃の俺だった。


 時代も丁寧に俺の五歳の頃、1987年だった。


 ──昭和です、悪いかよ。


 こうして、人類の未来を懸けた、俺の長すぎるサッカー人生が始まったのである。


 ちなみに、神様からもらえた特典は一つだけ。


 人生をやり直しても消えないノートだ。


 何ページ書いても終わらず、次の人生にも持ち越せる。


 記憶も引き継げるので、過去の経験を記録しておけるというわけだ。


 ありがたい。


 実にありがたい。


 ……できれば、足が速くなるとか、時を止められるとか、俯瞰で周囲を見られるとか、そういう特典が欲しかった。


     ◇


 一回目のループ人生。


 俺は、とにかくサッカーを頑張った。


 五歳児とは思えない集中力で練習した。


 周囲の子供たちが砂遊びをしている間も、ひたすらボールを蹴り、筋トレや持久走など考えつくまま練習した。


 何せ人類滅亡だ。このことが常に頭にあり、怠けることが許されないのだ。


 これももしかしたら特典なのかもしれない……。


 当然、最初は無双した。


 そりゃそうだ。


 こっちは大人の頭でサッカーをやっているし、最初から鍛えているんだから。


 これは楽勝かもしれない。


 そう思った時期が、俺にもありました。


 ところが、年齢が上がるにつれて周囲との差が縮まり始めた。


 高校では強豪校のレギュラーになれたものの、プロから声はかからなかった。


 大学でもサッカーを続けたが、結果は同じ。


 もはや日本代表にはなれないことが分かっているが、次のループに備えて情報を集めて過ごす。


 そして三十歳。


 失敗。


 二回目のループ人生。


 今度はプロクラブの育成組織に入った。


 ちなみに前回のメモから親を巧みに誘導し、株で大金持ちにした。すべては人類滅亡回避のためだ、これくらいは許してくれ。


 環境が大事、そして環境を整えるためにはお金が必要だと学んだからだ。


 前回の経験もある。


 今度こそいける!


 そう思っていたら、とんでもない天才たちに出会った。


 何なんだ、あいつら。


 上手すぎなんですけど!?


 同じ年齢なのに、明らかに素材からして違う。


 こっちは二周目なんですけど?


 結局、ユースまでは進めたが、プロにはなれなかった。


 三十歳。


 また失敗。


 三回目のループ人生。


 ならば、もっと練習すればいい。


 足りないのは努力だ。


 そう考えて、過去二回の経験を総動員した。


 朝から晩まで練習した。


 限界まで身体を追い込んだ。


 結果。


 身体が壊れた。


 ……うん。


 やりすぎた。


 サッカーを続けられなくなった俺は、その後、栄養学や身体のケアについて勉強した。


 スポーツトレーナーとして働き、怪我を防ぐ方法や、効率的な練習方法を研究した。


 ついでに恋愛、結婚もしてみた。家族も作った。


 そして、三十歳。


 三回目の失敗。


 当然、家族は消えた。


 俺は泣いた。


 ループを抜けるまで、二度と家族は作らない。


 ここまでで、ループ人生だけでも七十五年。


 さらに、最初の普通の人生もある。


 俺はもう、百年以上生きている。


 百年だぞ?


 サッカーの歴史くらい長くないか?


 ──と思って調べたが、サッカーの歴史の方が長かった。すみません、先輩、失礼しました。


 なのに、まだ日本代表どころか、プロにすらなれていない。


 そして迎えた、四回目のループ人生。


 過去三回分の経験。


 蓄積された練習データ。


 栄養管理。


 身体のケア。


 すべてを組み合わせ、俺はついにプロ契約を勝ち取った。


 やった。


 やったぞ。


 ついに、ここまで来た!


 ただし二部だ。


 一部のチームには入れなかった。


 まあいい、ここから上がっていけばいいのだ。


 二部からのサクセスストーリーなんて腐るほど聞いたことがある。


 ……そう思ったのが、数か月前のことである。


     ◇


「おい、次いくぞ!」


「はい!」


 俺は慌てて練習に戻った。


 今日のメニューは、狭いエリアでのボール回し。


 別に初めてやる練習ではない。


 これまで何千回、いや何万回と繰り返してきた。


 なのに、ボールが回ってこない。


 いや、正確には回ってくる。


 回ってくるのだが、すぐに奪われる。


「遅い!」


「はい!」


「そこじゃない!」


「すみません!」


「周り見ろ!」


「見てます!」


「見えてねえだろ!」


 ……おっしゃるとおりです。


 見ているつもりなのだ。


 ちゃんと首も振っている。


 相手の位置も確認している。


 でも、いざボールが来ると、考えていたことが全部吹き飛ぶ。


 相手が速い。


 寄せが速い。


 判断が速い。


 何もかもが速い。


 こっちが一つ考えている間に、相手はもう次のプレーに移っている。


 ちょっと待ってくれ。


 俺は百年近くサッカーをやっているんだぞ?


 何でこんなことになるんだ?


 練習が終わったあと、俺はグラウンドの隅に座り込んだ。


 足は重い。


 頭も痛い。


 何より、心が折れそうだった。


「お疲れ。大丈夫か?」


 声をかけてきたのは、チームの先輩だった。


 俺より二つ年上の選手だ。


 もちろん、人生の通算年齢では俺の方がはるかに上である。


 だからどうしたという話だが。


「……全然ついていけなくて」


「まあ、最初はそんなもんだろ」


「でも、俺なりにずっと練習してきたんです」


「そりゃ、みんなそうだよ」


 先輩は笑った。


 悪気はない。


 悪気はないのだが、その言葉はなかなか刺さった。


 みんなそう。


 そうなのだ。


 プロになるような選手は、みんな才能があり、そしてそのうえで努力してきている。


 俺だけが特別頑張っているわけじゃない。


 ……いや、人生を四回やり直している分、さすがに俺の方が長く頑張っているとは思う。


 そこは認めてほしい。


 言えないけど。


「でも、お前、面白いよな」


「何がですか?」


「練習の意図とか、戦術の話はすごく理解してるだろ。コーチと話してても、よく分かってるなって思うし」


「はあ」


「なのに、ボール持つと急に普通になる」


「……」


 普通。


 普通って言われた。


 人生四周目なのに。


「いや、悪い意味じゃなくてさ。考えてることに技術が追いついてない感じがするんだよ」


 その言葉に、俺は顔を上げた。


「技術、ですか?」


「そう。例えば、ボールを止める位置がちょっと違うだけで、次のプレーが遅れるだろ? パスもそう。ほんの少しずれるだけで、受ける側が一歩余計に動かなきゃいけない。受ける側の位置や体勢もそうだな」


「……ああ」


「そういう細かいところかな。プロだと、そのちょっとした差が大きいから」


 先輩はそう言って、立ち上がった。


「まあ、慣れもあると思うけどな。頑張れよ」


「ありがとうございます」


 先輩が去っていく。


 俺はしばらく、その背中を見つめていた。


 ……技術。


 基礎技術。


 そんなもの、散々練習してきた。


 止める。


 蹴る。


 運ぶ。


 何万回も繰り返してきた。


 しかし、思い返してみれば、俺はいつも結果ばかり気にしていた。


 パスが通ったか。


 ボールを奪われなかったか。


 試合に勝ったか。


 そればかりだった。


 同じパスでも、プロの選手は味方が次にプレーしやすい場所、より得点が取れる場所へ出している。


 同じトラップでも、次の動作につながる位置にボールを置いている。


 俺は、そこまで徹底できていただろうか。


 ……いや。


 できていなかった。


「そういうことか……」


 思わず声が漏れた。


 これまでの人生で、俺は何度も壁にぶつかってきた。


 練習環境。


 才能の差。


 身体の限界。


 そして今回。


 プロの世界で求められる、基礎技術の質。


 なるほど。


 ようやく分かった。


 分かったのだが。


「……それ、もっと早く教えてくれよ!」


 思わず叫んでしまった。


 近くにいたスタッフが驚いてこちらを見る。


「どうした?」


「い、いえ! 何でもないです!」


 危ない。


 変なやつだと思われるところだった。


 ……いや、もう思われているかもしれない。


     ◇


 その夜。


 俺は自室の机に向かっていた。


 目の前には、一冊のノートが置かれている。


 神様から渡された、唯一の特典。


 何ページ書いても終わらない、不思議なノートだ。


 見た目は、ごく普通の大学ノートである。


 ただし、中身は普通ではない。


 これまでの人生で積み上げてきた記録が、ぎっしり詰まっている。


 練習メニュー。


 身体の成長記録。


 食事内容。


 怪我の原因。


 試合での反省。


 出会った指導者の言葉。


 プロクラブの育成方針。


 そして、何度も書き直した次の人生の計画。


 最初の頃は、ただの日記だった。


 それが今では、ちょっとした研究資料になっている。


 自分で言うのも何だが、なかなかの力作だ。


 これを大学に提出したら、何か学位をもらえないだろうか。


 ……いや、百年分のサッカー研究をしておいてプロで通用しない人間の論文なんて、誰が読みたいんだ。


 俺は新しいページを開いた。


 ペンを握る。


 そして、今日分かったことを書き始めた。


 基礎技術の質。


 ボールを止める位置。


 パスの精度。


 次のプレーへのつながり。


 どれも当たり前のことだ。


 しかし、その当たり前を、俺はまだ身につけきれていなかった。


 ならば、どうすればいい?


 答えは簡単だ。


 次の人生では、もっと早い段階から徹底すればいい。


 子供の頃から、正しい技術を身体に覚え込ませる。


 ただ回数をこなすのではなく、一つ一つの動作の質を高める。


 そして、そのための練習方法を、今のうちに研究する。


 ……よし。


 やることは決まった。


 俺はノートに大きく書き込んだ。


 【第4回人生・研究記録】


 プロ契約:達成。


 日本代表:未達成。


 現在の課題:プロ基準の基礎技術が不足。


 次回の研究テーマ:育成年代からの基礎技術の習得方法。


 残り挑戦回数:六回。


 そこまで書いて、ペンを止めた。


 六回。


 まだ六回もある。


 そう考えるべきなのだろう。


 実際、最初の頃は十回もあれば何とかなると思っていた。


 だが、四回目の人生でようやくプロになれた。


 それも、試合に出ることすら難しいレベルだ。


 日本代表なんて、まだ遥か彼方にある。


 しかも、相手は日本中から選ばれた一握りの選手たちだ。


 俺が一生懸命練習している間、彼らだって成長している。


 いや、そもそも俺より才能がある。


 ……何だ、この無理ゲー。


 改めて考えると、条件が厳しすぎるだろう。


 神様。


 今からでも難易度を下げてもらえませんかね?


 Jリーグデビューで成功とか。


 せめてオリンピック代表でも可とか。


 いや、もういっそ県選抜くらいで。


 ……駄目だろうな。


 俺は天井を見上げた。


 返事はない。


 まあ、期待していなかったけど。


 小さくため息をついて、もう一度ノートに目を落とす。


 そこには、これまでの三回の人生で書き続けてきた記録がある。


 何度失敗しても、次にやるべきことは見つかった。


 今回だってそうだ。


 プロの世界で通用しない理由が、一つ分かった。


 ならば、まだ前には進める。


 進めるはずだ。


 ……たぶん。


 俺はノートを閉じた。


 窓の外には、静かな夜の街が広がっている。


 ここに暮らす人たちは、明日も普通に仕事へ行き、学校へ行き、いつもどおりの生活を送るのだろう。


 その未来が、俺のサッカーの腕前に懸かっている。


 誰も知らない。


 俺以外、誰も。


 いや、本当に何で俺なんだろうな。


 もう一度、残された回数を数える。


 六回。


 あと六回。


「……あと六回で、本当に日本代表になれるのかな……」


 返事は、やっぱりなかった。


 仕方ない。


 とりあえず明日も練習だ。


 人類の未来は、まず俺のトラップ改善から始まるらしい。


 ……先が長すぎる。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


現在、もう一つのサッカー小説『この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~』も連載しています。


こちらは、地方の企業のサッカークラブがプロを目指して成長していく物語です。毎朝8時10分に更新しています。


本作とはまた違ったサッカーの面白さを描いていますので、よろしければそちらも読んでいただけるとうれしいです!

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