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人為的な遮断(セクター7)

魔法というリソースが、冷徹な経済合理性によって管理される世界。

主人公アレンは、中央区の近代化に伴い「保守コストの削減対象」として、最果てのセクター7へと放逐された熟練技術者です。


彼の武器は、派手な魔法ではなく、現場で積み上げた診断と修理の経験。

これは、使い捨ての駒として扱われた男が、都市の不具合に淡々と向き合っていく記録です。

錆びついた鉄柵が、乾いた音を立てて閉まった。

その向こう側は、王都の光が辛うじて届く境界線だ。


「……またか」


僕、アレンは独り言をこぼした。手には、民間保守会社「ギア・メンテナンス」から発行された一枚の辞令がある。


内容は簡潔だ。本日付で貴殿を「セクター7管轄・特別維持管理班長」に任命する。

班長といっても、部下は一人もいない。事実上の左遷であり、体のいい厄介払いだ。


僕はこの会社で8年間、泥と油にまみれて働いてきた。

14歳の時、あの大災害で両親を失い、生きるためにこの業界に飛び込んだ。

以来、来る日も来る日も、都市の血管とも言える配管を直し続けてきた。


「コスト対効果の最適化、というわけだ」


感情を排した思考で、僕は現状を分析する。

中央区には、新型の「永久魔導ポンプ」が導入された。魔力を流し込めば半永久的に稼働し、故障も自己修復するそのシステムは、僕のような手作業の保守技術を過去のものにした。


アナログな技術者の維持費は、もはや無駄な固定費でしかない。


だが、解雇するには違約金がかかる。だから、誰もやりたがらないこのセクター7へ送り込み、自主退職を待つ。

それが会社の導き出した、極めて論理的な「解」なのだろう。


僕は肩にかけた道具袋の重さを確かめた。

中身は使い古されたレンチやプライヤー、それにいくつかの測定器だ。

支給された作業着は安物で、所々が油で汚れ、生地も薄くなっている。僕の外見は、街ゆく人々から見れば、ただの無気力な青年に映るだろう。


実際、自分の価値を高く見積もるつもりはない。僕はただの消耗品だ。


境界の門を背に、荒廃した通りを歩く。

建物の影は長く、空気は重く停滞している。

舌の奥に、鉄錆と微弱な電気を舐めたような痺れが走る。魔力汚染の症状だ。

かつての栄華を物語る巨大な排水管は止まり、不自然な静寂が辺りを支配していた。


割り当てられた拠点――廃墟同然の管理事務所の扉を開ける。

埃が舞い、カビの臭いが鼻を突いた。


いや、それだけではない。古い埃の上に、新しい足跡がある。

さらに机の上には、飲みかけで放置され、いまは干からびたコーヒーの染みが残っていた。


「……計算が合わないな」


誰もいないはずの場所。それも、つい最近まで『誰か』が生活していた形跡。

事務所の奥から、金属管を撫でるような、規則的な風切り音が聞こえる。


僕は警戒しつつ、給水制御室へと向かった。

そこにあるべき主給水弁は、錆びついて固着しているのではなかった。

真新しい溶接痕。

何者かが、意図的にハンドルを固定し、水を止めている。


「故障じゃない。……人為的な遮断だ」


呼吸が一拍遅れた。だが、思考速度は落ちていない。

これは単なる左遷先ではない。

新しい溶接痕が、その事実を示している。


僕は、『都市のバグ』の中心に放り込まれた。


それでも、僕は工具を握りしめた。

手のひらに汗が滲む。だが、不具合を放置することは、僕の生存定義に反する。


「修正を開始する」


闇の奥へ向けて、僕は小さく宣言した。

返事のように、どこかで金属が擦れる音がした。

お読みいただきありがとうございます。

技術革新は、往々にして旧来の熟練労働者を現場から押し出します。アレンが直面した「永久魔導ポンプ」の導入は、彼個人の能力不足ではなく、構造的な切り捨て(パージ)に他なりません。


しかし、合理性を突き詰めたシステムほど、予期せぬ「人為的な不具合」に脆弱なもの。

セクター7の給水弁に施された不可解な溶接痕は、一体誰の、どのような計算に基づいたものなのか……。


次回、固着したバルブを前に、アレンの“手際”が火を吹きます。

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