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龍は世界を渡る  作者: 人外主人公大好き
2章 ファンタジーの世界
50/60

49.龍は冒険者になる

―――

ルナス視点


「おー……」


思わず、そんな声が漏れた。


石造りの建物。

人の出入りが多く、扉の開閉に合わせてざわめきが溢れてくる。

掲げられた看板には、見慣れた――いや、見慣れすぎた文字。


「“冒険者ギルド”か。いいね」


指で顎を軽く叩く。


「世界が違っても、この手の装置は外さない……」

「テンプレだけど、だからこそ使いやすい」


建物から出てくる人々を観察する。

装備はまちまち。

粗末な革鎧の者もいれば、明らかに高位魔具を身につけた者もいる。


実力差は大きい。

けれど――全員、生きている。


「夢を見る場所で、現実を突きつけられる場所」


冒険者ギルドというのは、いつだってそうだ。

才能の選別所であり、墓場への受付でもある。


「……分身に王国は任せたし」


小さく笑う。


「こっちはこっちで、空気を吸うとしよう」


ルナスは、そのまま扉へ向かう。


中に入れば、

仕事、噂、失敗談、英雄譚、そして――

“世界がどこまで歪み始めているか”の手触りが、否応なく分かる。



重い扉が開き、喧騒が流れ込んできた。


―――


その人物が足を踏み入れた瞬間――

ざわめきが、嘘のように途切れた。


誰かが息を呑む音。

椅子が軋む音。

酒場代わりの喧騒を満たしていた雑音が、綺麗に消える。


理由は、一つではない。


一部は、その人離れした容姿に目を奪われた。

黒い翼。隠しきれていない角。

外套の隙間から覗く鱗は、装飾でも魔具でもない“生のもの”。


――人間じゃない。

だが、魔族とも違う。


一部は、説明のつかない異質感に背筋を撫でられた。

強いとか、弱いとか、そういう次元ではない。

ただ「ここにいてはいけないものがいる」と、直感が告げてくる。


そして、ほんのわずかな者だけが――

自分の本能が、恐怖していることに気づいた。


理由は分からない。

剣を抜くべきなのか、頭を下げるべきなのかすら判断できない。


分かるのは、ただ一つ。


――逆らえば、死ぬ。

――いや、死で済めばまだいい。


受付嬢が、硬直したまま瞬きを忘れている。

熟練の冒険者が、無意識に杯を置く。

歴戦の戦士ほど、動けなかった。


その人物――ルナスは、そんな視線を一身に受けながら、きょとんと首を傾げる。


「……?」


数秒。


やがて、何事もなかったかのように歩き出す。


床を踏む音は、軽い。

けれど、その一歩一歩が、空間そのものを踏みしめているかのようだった。


「へえ……」


穏やかな声。

敵意はない。威圧もしていない。


それが、余計に恐ろしい。


「ここ、思ったより人が多いね」


その一言で、ようやく誰かが呼吸を思い出す。


ざわめきは戻らない。

ただ、視線だけが追い続けている。


――誰もが、理解してしまった。


この冒険者ギルドに入ってきたのは、

“冒険者”ではない。


世界の均衡そのものに、足を踏み入れてしまった存在だということを。


―――

受付嬢視点


ゆっくりと、その人物は歩み寄ってきた。

足音は軽い。なのに、不思議と床が軋むような錯覚を覚える。


目の前で止まる。


「…………」


受付嬢は、言葉を失ったまま瞬きをする。

喋らない、のではない。

――喋っていいのか、分からないのだ。


冒険者ギルドの受付を十年以上務めてきた。

荒くれ者、英雄気取り、貴族崩れ、魔族まがい……

“人間の皮を被った何か”は、これまで嫌というほど見てきた。


それでも。


(……初めて)


目の前の存在は、どの分類にも当てはまらない。


黒い翼。

角。

尻尾。

外見だけなら、魔族や竜人に近いはずだ。


だが――

決定的に、違う。


(……見えない)


力量が、感情が、目的が。

何もかもが、霧に包まれている。


強者なら分かる。

弱者ならなおさらだ。

危険なら、もっと分かりやすい。


だがこの存在は、

「判断そのもの」を拒絶している。


本能が、小さく警鐘を鳴らす。


――近づくな。

――だが、逃げるな。


相反する感覚に、喉がひくりと鳴った。


(人……なの?)

(それとも……)


考えすぎだ、と自分に言い聞かせる。

ここは冒険者ギルド。

相手が誰であれ、まずは受付をする。それが仕事だ。


受付嬢は、意を決して口を開いた。


「……あ、あの」


声が、わずかに震えたのを自覚する。


「ご用件を……お伺いしても、よろしいでしょうか」


それは、極めて事務的で、

極めて慎重な言葉だった。


一瞬の沈黙。


そして――

目の前の存在が、ほんの少しだけ口角を上げた。


「大丈夫だよ」


低く、穏やかな声。


「普通に対応してくれていい」


その一言で、受付嬢は理解した。


(……この人、“分かってる”)


自分が怯えていることも、

周囲が息を潜めていることも、

そして――それを気にしていないことも。


「冒険者登録をしたいんだ」


その言葉に、ギルド内が微かにざわめいた。


受付嬢は、深く息を吸う。


(……落ち着け)


震える手を抑え、いつもの業務用の笑顔を作る。


「か、かしこまりました」

「それでは――お名前をお伺いしても?」


相手は、少しだけ考える素振りを見せてから答えた。


「ルナス」


短く、はっきりと。


その名前を帳簿に書き記した瞬間、

受付嬢はなぜか――


(……この名前、後で絶対後悔するやつだ)


そんな予感だけを、はっきりと覚えてしまった。


冒険者ギルドの日常は、

今この瞬間、確実に“逸れ始めていた”。

いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。

見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです

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