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龍は世界を渡る  作者: 人外主人公大好き
2章 ファンタジーの世界
48/48

47.楽しみ


―――

烏丸愜視点


召喚されてから、三日目。


そして――

訓練は、もう始まっていた。


「次、前に出て」

「魔力の流れ、意識して!」


王城の訓練場。

広く、天井が高く、壁一面に魔術式が刻まれている。


クラスメイトたちは、もう“異世界の住人”みたいだった。


剣を振るやつ。

魔法陣を前に集中するやつ。

身体強化で跳ね回ってるやつ。


「すげぇな……」


思わず、そんな言葉が漏れる。


誰もが、少しずつだけど“何か”を掴み始めている。

最初はぎこちなかった動きも、今はもう訓練として成立していた。


「烏丸、次お前な」


兵士の一人に呼ばれて、前に出る。


――何度目だろう、これ。


剣を渡され、構える。

教えられた通りに、振る。


……重い。

当たり前だ。

特別な力も、身体強化も、何もない。


「力を流すイメージだ」

「身体の内側を――」


「……すみません」


途中で止める。


「何も、分からないです」


兵士は一瞬、困った顔をした。

怒られはしない。

けど、どう扱えばいいか分からない、そんな顔だ。


「……今日はここまででいい」


後ろに下がる。


クラスメイトの視線を感じる。

同情、気遣い、少しの戸惑い。


それが分かるから、余計に何も言えない。


「まあ、最初はそんなもんだよ」


誰かがフォローしてくれる。

ありがたい。

でも――胸の奥が、少しだけ空く。


そのとき。


「ふむ、順調……とは言い難いけど、悪くはないかな」


聞き慣れない声。


訓練場の端。

いつの間にか、そこに“それ”はいた。


黒い翼。

小柄な体躯。

でも、雰囲気だけは、はっきり異質。


「えっと……」


誰かが戸惑ったように声を出す。


分身は、くるりとこちらを向いて、軽く手を振った。


「ああ、自己紹介がまだだったね」


声は柔らかい。

でも、妙に遠い。


「私はルナスの仲間」

「正確には、“従者”って言った方が近いかな」


ざわ、と空気が揺れる。


「ルナス本人は、しばらく戻らない」

「その間、私はここで君たちを観測し、必要なら助言する」


「命令権限はないよ」

「でも、王国とは話が通ってる」


事実確認のように、兵士や魔術師たちが黙って頷く。


「だから安心して」

「訓練の邪魔はしないし、無理もさせない」


そう言ってから、視線が――こちらに向いた。


烏丸愜。

まっすぐ、逃げ場のない視線。


「……君が、空白の子だね」


心臓が、一拍遅れる。


「え?」


分身は首を傾げる。


「あ、ごめん。言い方が悪かった」

「“まだ何者でもない”子、かな」


周囲が息を呑む。


「力がないわけじゃない」

「ただ、形がないだけだ」


淡々と、事実を述べるように。


「安心していい」

「今は、君だけじゃない」


「……?」


「ただし」


分身は、少しだけ真剣な目をした。


「君だけが、“間に合わない可能性”を持っている」


意味が、分からない。


でも。


「だから、君は見ておく」

「訓練も、失敗も、迷いも、全部」


そう言って、少しだけ笑った。


「よろしく、烏丸愜」

「君は――面白い位置にいる」


何が、面白いのか分からない。

けど。


その瞬間、胸の奥の空白が、ほんのわずかに“反応した”。


訓練場の喧騒が戻る。


誰も、何も変わっていないはずなのに。

世界だけが、少しズレた気がした。


――烏丸愜はまだ知らない。


自分が“育てる対象”ではなく、

“起点”として観測されていることを。


そして、ルナスの分身がここにいる理由もまた、

決して善意だけではないことを。



―――

ルナス(分身)視点


観察対象――烏丸愜。


少年は剣を持ち、教えられた通りに振るっている。

だが、他の者のように風を切る音はしない。

魔力の奔流も、斬撃の兆しもない。


ただ、振っているだけだ。


「……本当に、ただの人間だね」


率直な感想だった。

今この瞬間だけを見れば、この少年が“龍になる”など、到底信じられない。


力がない。

才能も、兆しも、表層には一切見えない。


――だが。


「それでも……」


私は、確信していた。


自分が“造られた存在”だからこそ分かる。

自然発生の魂と、手を加えられた魂の違い。


この少年には――

誰かが、確実に手を加えている。


不自然なほどの空白。


通常、人の魂に欠けがあれば、生きてはいられない。

ほんの僅かな穴でさえ、精神は崩れ、存在は歪む。


それなのに。


「……多すぎる」


空白が。

欠落が。

“何もない部分”が。


それは欠損というより、意図的に削られた跡に近い。

壊れているのではない。

壊れないように、調整されている。


「魂の“器”だけが残されてる……」


中身を流し込むための、空の容器。

普通の人間ではあり得ない状態。


それでも少年は、立っている。

笑い、戸惑い、剣を振っている。


「……異常だよ、これは」


同時に、理解した。


この少年は、完成品ではない。

“未完成”ですらない。


「起動前の――素材か」


誰が、何のために、どこまで設計したのか。

そこまでは分からない。


だが一つだけ、はっきりしている。


「この子は、自然には絶対に辿り着かない場所へ行く」


意思とは無関係に。

選択とは無関係に。


だからこそ。


「……ルナスが目をつけるわけだ」


これは訓練対象ではない。

勇者候補でもない。


世界の流れを変えうる、起点。


私は視線を外さず、静かに結論づけた。


「――監視対象、最優先」


もし、この空白に“何か”が流し込まれたとき。

その瞬間こそが、世界が壊れるか、救われるかの分岐点になる。


そしてそれは、

この世界ではなく――

もっと深い場所で起きる。


了解。

王国側の現実的で冷静な評価と、そこに潜む違和感が浮き出るように整えるね。



―――

王国視点


「……して、勇者の皆様の教育は順調か?」


玉座に腰掛けたまま、アストレア国王が静かに問いかける。

声には感情は乗っていない。

だが、それゆえに答える側は誤魔化しが許されなかった。


「はい」


応じたのは、訓練を統括する騎士団長だ。


「既に皆様、我が国の正規騎士を上回る力を見せております」

「基礎段階とはいえ、魔力制御、身体強化、戦闘感覚――いずれも想定以上です」


側近たちの間に、わずかな安堵が広がる。


勇者召喚は成功している。

少なくとも、“数”と“質”においては。


しかし。


騎士団長は、一拍置いてから言葉を続けた。


「……一人を除いて」


その場の空気が、再び引き締まる。


国王は目を伏せたまま、短く問う。


「烏丸愜、か」


「……はい」


否定はなかった。


「率直に申し上げます」


騎士団長は、慎重に言葉を選びながらも、核心を避けなかった。


「あの少年に、才能は見られません」


剣の適性もない。

魔力の総量も、感知能力も、平均以下。

身体能力も、訓練を積んだ兵士にすら及ばない。


「努力はしております」

「指示にも従い、態度も真面目だ」


「ですが――」


一瞬、言葉を区切る。


「“伸びる兆し”が、ないのです」


才能がある者は、遅くとも三日もあれば何かを掴む。

たとえ不器用でも、魔力の揺らぎや、感覚の芽生えが見える。


「彼には、それが一切見えません」


王は、ゆっくりと目を開いた。


「……完全な凡人、ということか」


「はい」

即答だった。


「少なくとも、現時点では」

「勇者候補として期待できる要素は、何一つ」


その評価は、王国としては当然だった。

合理的で、冷静で、正しい判断。


だが。


国王は、ふと、思い出す。


――ルナスの言葉。

――“空っぽ”という表現。

――そして、分身があの少年に向けた、あの視線。


「……それでも」


王は、静かに続けた。


「ルナス殿は、彼を名指しした」

「そして、分身もまた、彼を“観測対象”としている」


側近の一人が、苦い表情で呟く。


「才能がないからこそ、という可能性も……?」


「あるいは」

国王は低く言った。


「才能が“ないように見える”だけ、か」


騎士団長は黙したまま、視線を伏せる。

反論できない。

だが、肯定もできない。


「いずれにせよ」


王は、結論を下す。


「烏丸愜の扱いは変えぬ」

「他の勇者と同等に訓練を続けさせよ」


「特別扱いはしない」

「だが――切り捨ても、しない」


「……御意」


誰もが理解していた。


あの少年は、王国の基準では“外れ”だ。

だが同時に、

**規格外の存在が、二度も名を挙げた“唯一の例外”**でもある。


玉座の間に、静かな緊張が残る。


王は、心の中で呟いた。


(才能がないのなら、それでいい)


(問題は――なぜ、それでも彼なのか、だ)


答えはまだ、どこにもない。


だが確実に、

王国の視線は――烏丸愜という少年から、もう外れなくなっていた。



―――

???


――モテモテだね!――


弾むような、どこか楽しげな声。

だが、その響きには一切の温度がない。


――さしずめ、ギャルゲーの主人公ってところかな――

――まあ、国や神に好かれたところで、碌なことにはならないけどね――


くすくす、と笑う気配。

誰かを嘲るでもなく、同情するでもなく、ただ“面白がっている”。


――さてさて、ルナスはどう動くんだろう?――

――新たな龍の誕生、それも龍神が直々に手を出しているとなれば――


言葉の端々に、期待が滲む。


――いやー、最高だよ――

――因果も、魂も、世界も、全部ぐちゃぐちゃになりかねない――


――やっぱり、こうじゃないと――


一拍。


――愉悦だ――


その一言だけが、やけに重く響いた。


――ねえ?――

――せっかくだからさ――


声は、こちらを“見る”。


――一緒に、この物語を楽しもうよ――


――最後に笑うのが誰かなんて、まだ分からないんだから――


世界のどこにも属さない視線が、

ルナスを、烏丸愜を、龍神を、そして未来そのものを――

等しく、盤上の駒として眺めていた。


物語は、すでに観測されている。

しかも、最悪に近い観測者によって。

いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。

見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです


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