46.龍は手を打つ
―――
ルナス視点
ここは、世界の狭間。
誰の手も届かず、誰の意思も介在しない。
存在という概念そのものが希薄な場所――言うなれば、世界の核心。
時間は流れているようで、流れていない。
因果は絡み合っているようで、まだ結ばれていない。
「………さて、どうするかな」
声を発しても、反響はない。
この場所では、音でさえ意味を持たない。
龍の誕生は、すでに確定している。
未来視でも、因果の収束でも、その一点だけは揺らがなかった。
問題は――そこに至るまでだ。
「いかにして、自分を守るか……」
龍が生まれるほどのエネルギー。
世界一つを壊しかねない規模の力が、どこから供給されるのか分からない以上、最悪の想定は避けられない。
指先に、わずかに黒い燐光が灯る。
それは力の残滓であり、存在の証明。
「……もし、そのエネルギーの“供給源”が――」
思考は、自然と一つの結論へ収束する。
「この身だった場合……」
否定はできない。
龍は現象に近い存在だが、誕生の“起点”には必ず何かが要る。
莫大なエネルギー、強固な因果、そして――安定した器。
「……最悪だね」
吐き捨てるように呟く。
ルナス自身は、特例だ。
自己を持ち、観測者であり、干渉者でありながら、完全には世界に属していない。
だからこそ――
“燃料”としては、これ以上なく都合がいい。
「龍神のジジイなら、やりかねない」
怒りはない。
ただ、事実としてそう判断しただけ。
「……いや、正確には」
視線を、存在しないはずの“未来”へ向ける。
「すでに仕込みは終わってる可能性の方が高い、か」
烏丸愜。
空っぽの少年。
何にも染まっていない、だからこそ何にでもなれる存在。
「器としては、完璧すぎる」
ルナスは、ゆっくりと翼を広げる。
この場所では、翼に意味はない。
それでも、それは“考えるための癖”だった。
「なら――やることは一つ」
龍の誕生を止めることはできない。
それは、世界が選んだ未来だ。
「誕生の“形”を、歪める」
自分を糧にしない形で。
世界を壊さない形で。
そして――少年が“怪物”にならない形で。
「……そのための分身、王国、そして生徒たち」
点だったものが、線として繋がっていく。
「間に合えばいいけど」
珍しく、そんな言葉が漏れた。
世界の狭間に、微かな波紋が走る。
因果が、わずかに揺れた証。
「さて……次は」
静かに目を閉じる。
「龍神に気付かれる前に、一手打たないとね」
その存在が再び動き出した瞬間、
世界はまだ、それに気付いていなかった。
――本当の危機が、すでに始まっていることを。
―――――
???
―気づいたか。
いや……いずれ辿り着くとは思っていたがな。
我が生の、唯一の汚点よ―
―気まぐれで人を龍とし、
その結果、我が束縛をすり抜け、
自由などという概念を得てしまった―
―だが……力は最上に近い―
―それを使いこなせぬのは、当然の帰結だ―
―いかに現在が龍であろうと、
根が矮小な生命であった事実は変わらぬ―
―だからこそ、新たに誕生する存在は違う―
―あれは、我が生で最高の“完成形”となる―
―種はすでに蒔いた。あとは、芽吹くのを待つのみ―
一拍の沈黙。
―……ほう?
何やら、こちらを覗くものがいるらしいな―
―面白い―
―だが、因果の流れは変わらぬ―
………………
いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。
見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです




