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龍は世界を渡る  作者: 人外主人公大好き
2章 ファンタジーの世界
44/48

43.測定


―――――

???視点


広間を出た生徒たちは、王城内の一室に案内された。


長机と椅子が並び、最低限の照明と水が用意されている。

豪華ではないが、話し合いをするには十分な空間だった。


扉が閉まった瞬間、誰かが大きく息を吐いた。


「……やっと、座れる」


「頭、ぐちゃぐちゃだよ……」


最初は小さな声だったが、少しずつ会話が戻ってくる。

泣いている者はいない。

取り乱す者も、今はいなかった。


魚町先生が立ち上がる。


「みんな、よく聞いて。

 今から、分かっていることと、分からないことを整理します」


声はまだ硬い。

だが、さっきよりも落ち着いていた。


「まず――ここは、異世界。

 元の世界には、現時点では戻れません」


一瞬、空気が沈む。


「次に、“失敗した召喚者がいる”。

 これは……全員が無事だとは限らない、という意味です」


誰も口を挟まなかった。


「それから――あの黒い翼の人物」


視線が、部屋の隅へ向く。


そこには、壁にもたれるように立つ黒翼の存在がいた。

背中には大きな黒い翼。

頭には滑らかな曲線を描く角。

腰の後ろでは細長い尻尾が静かに揺れ、

首元や腕には、黒い鱗のような質感がわずかに覗いている。


「……彼は」


「彼女かもしれないだろ」


小声の訂正が入る。


「……とにかく、あの存在は、少なくとも今のところ敵意はありません」


黒翼の人物は、そのやり取りに割り込まない。


「情報を隠さない、嘘はつかないと言っていました。

 それは、覚えておいてください」


先生は一度、全員を見回した。


「それで――」


少し言いづらそうにしてから、続ける。


「これから、この世界で生きていく可能性が高い。

 なら、最低限、お互いを知る必要があります」


「……自己紹介、ってこと?」


誰かが言う。


「そう」


先生は頷いた。


「そして――」


再び、黒翼へ視線が向く。


「あなたにも聞きたい。

 あなたは、何者なんですか」


少しの間。


それから、黒翼の人物が口を開いた。


「名前は、ルナスだよ」


声音は低いが、どこか穏やかだった。


「立場としては……傍観者に近いかな。

 この世界の住人でもないし、君たちの仲間というわけでもない」


ざわ、と小さく空気が揺れる。


「干渉は、できるだけ控えるつもりだよ。

 質問には答える。

 ただ、答えられないこともあると思う」


そう言って、静かに口を閉じる。


「……じゃあ」


一人の男子が、手を挙げた。


「こっちも、名乗った方がいいよな」


周囲が頷く。


「クラスとして動くなら、隠す意味もないし」


最初に立ち上がったのは、学級委員の女子だった。


「えっと……5組の、佐倉。

 特別な能力とかは、今のところ分からない」


「同じく、山本。

 運動は得意だけど、剣とかは触ったことない」


「伊藤。

 ゲームは好きだけど、現実で役に立つかは微妙」


次々と、名前と簡単な自己紹介が続く。


怖さが消えたわけじゃない。

それでも、“知らない集団”から“顔のある仲間”に変わっていく感覚があった。


何人目かが終わったところで、誰かがルナスを見る。


「……ルナスは、これを聞いてどうするんだ?」


少し間を置いて、柔らかな返答が返る。


「君たちのことを知っておきたいんだ。

 できれば、無駄な事故は避けたいからね」


「事故?」


「力の差とか、認識の違いとか、文化のズレとか。

 そういうのを放っておくと……案外、簡単に取り返しがつかなくなる」


空気が、わずかに引き締まる。


「……正直だな」


「必要だと思ってるから」


それ以上は、付け加えなかった。


自己紹介は、最後まで続いた。


全員が名乗り終えた頃、部屋には妙な静けさがあった。

不安は残っている。

それでも――整理は、確かに進んでいた。


ルナスは、一度だけ全員を見渡す。


「ありがとう。

 だいたい、分かったよ」


それだけ。


なのに、不思議と――

ほんの少しだけ、前に進めた気がした。


―――――

???視点


部屋を移された翌日。


生徒たちは、再び王城の一角へ集められていた。

昨日よりも小さな広間。

床には複数の魔法陣が描かれ、壁際にはローブ姿の魔術師たちが並んでいる。


「……なんか、実験室みたいだな」


誰かが小声で言った。

否定する声はなかった。


魚町先生が前に立つ。


「王国側から説明があるそうです。

 不安だとは思うけど、勝手な行動はしないで」


全員が頷く。


やがて、年配の魔術師が一歩前に出た。


「勇者候補――いえ、異界より来訪した皆さん」


言い直す声は、どこか慎重だった。


「これから、皆さんに宿っている力の“性質”を判別します」


ざわ、と空気が揺れる。


「力……?」


「危険なことはしません」

「痛みもありません」

「拒否も可能です」


だが、“拒否できる”と言われて、本当に拒否できる雰囲気ではなかった。


「異界の魂は、世界を越える際に力を得ます」

「それを把握せずに行動する方が、よほど危険なのです」


納得した者と、納得しきれない者。

その両方が、黙って立っていた。


「一人ずつ、前へ」


最初に呼ばれたのは、佐倉だった。


魔法陣の中央に立つ。

杖が掲げられ、淡い光が足元から立ち上る。


「……反応あり」

「属性は光寄り」

「適性は補助・防御系」


佐倉が目を見開く。


「え……?」


「治癒・強化系の素質が高いでしょう」


「……ゲームみたいだな」


誰かが呟く。


判別は、次々と進んだ。


「筋力強化型」

「魔力感応は低い」

「身体強化寄り」


「精神干渉への耐性あり」

「情報処理系の可能性」


同じ結果は、一つとしてなかった。


そして――自分の番。


魔法陣の中央。

光が昇る。


「……」


魔術師たちの動きが、一瞬止まる。


「……反応が微弱?」

「いや、違う……」


「表層に力はない」

「だが……空白だ」


「空白……?」


思わず聞き返していた。


「器としての余地が大きい、という意味です」

「現時点では、何にも染まっていない」


「……当たり? 外れ?」


「どちらとも言えません」

「危険にも、可能性にもなり得ます」


曖昧な答えだった。


最後に残ったのは――


部屋の隅。

壁にもたれる黒い存在。


翼。

角。

尻尾。

黒い鱗。


「……あの人も、やるのか?」


「――ルナス殿」


呼ばれて、一歩前に出る。


魔法陣に足を踏み入れた瞬間、

空気が変わった。


光は立ち上らず、

代わりに魔法陣そのものが軋む。


「測定不能……!?」

「術式が弾かれている……!」


「危険です、解除を――」


「無理しなくていい」


静かな声。


「これは器じゃなくて、中身を見ようとしてる。

 この魔法じゃ、見れないだけ」


魔法陣は、静かに消えた。


「……判別不能」

「規格外、ということですか」


「そうなるね」


それ以上の説明はなかった。


けれど、生徒たちは理解してしまった。


――同じ場所に立っていても

――同じ枠には、最初からいない


力の判別は、これで終わった。


戻る途中、誰かが小さく言った。


「……俺たち、本当に異世界に来たんだな」


誰も、笑わなかった。


ただ、それぞれが、

自分の中に“何かがある”と知ってしまっただけだった。


物語は、確実に次の段階へ進んでいた。

いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。

見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです

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