39.バイバイ
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セリス視点
「カイゼル……何でここに」
セリスは銃を構え、視線を逸らさず問いかけた。
空の裂け目から降り立った“それ”は、見慣れた冷徹さも威厳も捨て去り――
まるで退屈に飽きた子供のように頭をかきむしる。
「あー……いいよもう」
その気の抜けた声は、場違いなくらい日常的で。
「は?」
カリナが声を裏返らせる。
ルナスはカリナを流し見るだけで、興味を削ぎ落としたように手を振り放った。
「カイゼルはもうおしまい。
これからはルナスって呼んでね。
セリス、正直に言うけど――飽きちゃったんだよ」
飽きた。
ただそれだけで、戦場の空気が氷のように固まったのが分かった。
「……っ」
セリスの背を汗が伝う。
(最悪……!
カイゼルのときはまだ“筋書き”があった。
悪役としての役割、行動の理由……全部あった。
でも今目の前にいるのは――役割を捨てた“龍”の本体。
気まぐれ一つで世界を創り、壊し、書き換える……
そんな存在が、物語を投げ出した)
ルナスは軽く手を振り、つまらなそうに言う。
「安心してよ。今日は攻撃とかしないから。ちょっと聞きたいだけ」
「……なにを?」
喉が焼けるような渇きを誤魔化しながらも、銃口はぶれない。
ルナスは微笑んだ。
どこか物語の“ナレーター”のような、俯瞰した笑みだった。
「セリス、君はこの世界が好きかい?」
「……あぁ」
気づけば、考えるより先に言葉が出ていた。
「そっか。じゃあ――おめでとう」
「……え?」
「君は『造られた存在』から、
最初からこの星に“いる”存在にしておいたよ」
「……は……?」
理解の枠外すぎて、脳が追いつかない。
ルナスは肩をすくめて続ける。
「言ったでしょ、“飽きた”って。
でも君はもう、自分で選んで、自分で生きてる。
そんな存在を消すのは……ちょっとね。
僕の気分だけで消すには惜しかった」
その声音は、本当に些細な善意のようで――
だからこそ、底知れずに恐ろしい。
「それと安心して。
今後一切、この星には来ないよ」
風が止んだ。
空気が、世界そのものが、その言葉を飲み込むように静まり返る。
セリスは息を呑む。
(……この星はルナスに“見捨てられた”のか?
それとも……やっと“解放された”のか?)
ルナスは微笑んだまま、ゆっくりと背を向ける。
「――物語はここから、君たちの好きにしていいよ」
そして、軽い調子で手を振った。
「バイバイ」
黒い羽が一枚舞い落ち、
その姿は音もなく闇へと溶けて消えた。
いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。
見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです




