37.反撃
続きです
――心臓が、再び打った。
深い闇の底で止まっていた鼓動が、ゆっくりと震えを取り戻す。
その瞬間、セリスの全身に何かが流れ込んだ。
冷たいようで、熱い。
焼けつくようで、それでも心地よい――。
(……これは……ルナスの……力?)
微かに瞳を開いた。
視界が滲む。
そこは、崩壊した戦場。
黒い空が裂け、瓦礫が浮かび、魔力の嵐が吹き荒れている。
セリスは膝をついたまま、息を吐く。
「……まだ、終わっちゃいない……」
周囲では、カリナが倒れ、ルミナが必死に結界を張っていた。
イリスも血を流しながら、ゼロ――いや、“それ”の動きを見据えている。
「……カイゼルの断片、完全に……暴走してる……!」
ルミナが叫ぶ。
“それ”はもはや人の形を保っていなかった。
影と結晶が混ざり合い、巨大な塊となって空を覆う。
黒い光が無数の瞳のように点滅し、世界を見下ろしている。
セリスは立ち上がる。
体の中に、さっきまでなかった“鼓動”があった。
心臓ではない。もっと深く、魂の奥で鳴る音。
――ドクン。
空気が震えた。
銃身の内部で、封じていた魔力が自動的に共鳴する。
光が滲み、装甲が軋み、銃そのものが変化を始めた。
「……これが、ルナスの……“龍”の力……」
背中に熱が走る。
黒と金の紋様が皮膚に浮かび上がり、瞬時に光へと変わった。
髪が宙に舞い、瞳の色が銀から紅へと染まる。
カリナが呆然と見上げる。
「……おい……セリス、まさか……」
セリスはゆっくりと息を吐き、空を見上げた。
「――ああ、もう逃げない。ここで終わらせる」
銃を掲げると、空気そのものが形を変えた。
周囲の魔力が収束し、白と黒が交差する。
ゼロの影が唸りを上げ、世界が再び震える。
「“主”ノ力ヲ……模倣スル気カ……」
闇が吠えた。
セリスは冷たい笑みを浮かべる。
「模倣? 違う。――これは、僕の力だ」
白光と闇が激突する。
世界が悲鳴を上げ、重力が歪む。
そして――新しい“戦い”が始まった。
空が裂けた。
雷鳴のような音と共に、セリスの体を中心に光の環が広がる。
ルナスの声が、どこか遠くで響いた気がした。
――「龍とは、世界の理を超えた存在。人が触れれば、それは“力”ではなく“結果”となる。」
(……結果、ね)
セリスは小さく笑う。
その背から、二枚の黒銀の翼が展開した。
金属でも魔法でもない、純粋な“概念”が形をとった翼。
羽ばたき一つで、闇を押しのける衝撃が走る。
「……っ、これが……セリス……?」
カリナが目を見開く。
ルミナもその魔力の流れに圧倒され、言葉を失った。
セリスの銃が変質していく。
銃身に浮かぶ紋様が回転し、中心に紅いコアが現れる。
まるで“心臓”を持つように、光が脈動していた。
「――“龍装・第一律”」
引き金が鳴る。
弾丸が放たれる瞬間、世界の時間が止まった。
黒い闇を穿つ光線が直線的に走り、影の群れを一瞬で蒸発させる。
音が遅れて響くと同時に、地面が爆ぜた。
ゼロ――否、“カイゼルの影”は、腕を翳してそれを受け止める。
だが、影が砕けた。
「馬鹿ナ……我ガ闇ガ……!」
セリスは静かに言い放つ。
「お前の闇は、光を恐れてるだけだ。だったら――押し潰すまでさ」
ゼロが吠える。
「調子ニ乗ルナァァァァッ!」
影が暴れ、触れた大地が反転する。
上下も、時間も、歪む。
まるで世界そのものが拒絶するような圧力。
だがセリスは、一歩も退かない。
彼女の足元に魔法陣が展開され、無数の魔力弾が宙に浮かぶ。
「第二律・連鎖展開――“天穿”!」
白銀の弾丸が一斉に撃ち出され、空間を裂く。
影が悲鳴のような音を立て、次々に消滅していった。
ルミナが息を呑む。
「……魔力構築速度、魔力量、全てが桁違い……あれ、本当に人間……?」
イリスが低く呟く。
「違う。――恐らくは、セリスを生み出した奴らの理想的な兵器だ」
セリスの視線がゼロを捉える。
「まだ立てるなら、立てよ。今度は――容赦しない」
ゼロの身体から、黒い血が滴る。
それでも、紅い目が光った。
「我ハ……主ノ……代行者ナリ……!」
再び、闇が世界を覆う。
だがその中心で、セリスの翼が強く羽ばたいた。
黒と白が衝突し、空が震える。
星の残滓が降り注ぐ中、二つの力が真正面からぶつかり合う。
――空間が裂ける。
黒と白の光がぶつかり合い、戦場はまるで彷徨う星雲のように渦巻いた。
セリスの背の黒銀の翼が、闇を切り裂く衝撃波を放つ。
無数の魔力弾が影の塊に突き刺さり、爆ぜるたびに世界が微かに震える。
ゼロは砕けながらも立ち上がる。
「馬鹿ナ……我ガ……闇ガ……!」
その声はもはや人の声ではなく、世界の底から響く轟音のようだった。
「……僕の力は、まだ終わっていないよ?」
セリスの瞳が紅く光る。胸の中心で龍装の力が脈打つたび、世界の時間がわずかに引き戻されるような感覚が走る。
――ドドドドド。
翼を羽ばたかせ、周囲の魔力を一気に吸収する。
銃の紋様が回転し、紅いコアが炸裂寸前の鼓動を刻む。
その瞬間、セリスの体から放たれる光が、影の群れを押し潰す。
「第二律・連鎖展開――“天穿”! 第三律・強制発動――“龍震”!」
空間そのものを裂く光が、ゼロの体を直撃する。
黒い結晶と影が砕け散る。
だがゼロは微かに笑う。
「……無駄ナ……我ハ……“主ノ力”……完全ナリ……」
セリスは冷たい笑みを返す。
龍装の力が全身を包み込み、銃の弾丸は赤と白の光を纏った。
一斉に撃ち出された弾丸が、ゼロの胸の黒い光の中心を貫く。
衝撃で空間が崩れ、瓦礫と影が渦巻き、光が夜空を切り裂いた。
――止まる、世界。
その瞬間、闇の中心でゼロが膝をつく。
影と結晶が崩れ落ち、黒い光が弱まる。
そして、長い沈黙の後――
「……終わりか?」
セリスは息を整え、翼を畳む。
砕け散った影の残滓が、微かに光を反射しながら地面に降り注ぐ。
カリナが駆け寄る。
「セリス……おまえ、すげぇ……!」
ルミナも結界を解除し、震える声で呟く。
「……これが………セリスの力?」
イリスは短刀を握り直し、まだ警戒しながらも頷いた。
「……この戦い、確かに終わったようだな」
闇の残滓の中、ゼロの残骸が光を吸い込むように消え、夜空に平穏が戻る。
セリスは銃を下ろし、仲間たちに微笑む。
遠くで、ルナスの声が風に乗って聞こえた気がした。
――「次は君自身が、選ぶ側だ。楽しみにしているよ」
空はまだ黒い部分を残していたが、セリスの背中の翼は確かに、未来への光を掴んでいた。
いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。
見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです
なんも思いつかないのでお休みします




