36.覚醒
続きです
闇が――脈動する。
世界そのものが、黒い心臓の鼓動に呑まれていくようだった。
セリスは銃を構えたまま、息を呑む。
「……なんだ、これ……!」
ゼロの胸に宿る黒い光は、もはや“断片”の輝きではなかった。
それは脈打ち、軋み、まるで生き物のようにゼロの身体を侵食していく。
「……カイゼル様……」
ゼロの声は震え、次第に濁った。
「吾輩は……あなたの……影……完全なる……器に――」
骨が鳴る。
筋肉が裂け、皮膚が黒い結晶に覆われていく。
左目が、紅く――完全に染まった。
カリナが身を引く。
「な、なんだよあれ……! 人間じゃねぇ!」
「退け!」
イリスが叫ぶよりも早く、黒い衝撃波が炸裂した。
地面が抉れ、瓦礫が宙を舞う。
セリスは咄嗟に結界を張り、ルミナを庇った。
「くっ……! これはもう、断片の暴走じゃない!」
ルミナの瞳が震える。
「魔力の流れが……完全に壊れてる!」
ゼロの声が、もはや人間のものではなかった。
低く、響き、世界の底から滲むように広がっていく。
「――――消エヨ」
その瞬間、戦場の空が割れた。
闇が雨のように降り注ぎ、地平が裏返る。
魔力の奔流が暴走し、周囲の大地ごと飲み込んでいく。
セリスは銃を構え、冷や汗を流した。
(……やばい。このままじゃ、空間ごと崩壊する)
「全員、後退! ここはもう――!」
「――遅い」
闇の中から、無数の影の腕が伸びた。
それはまるで、神の指のように正確に、セリスたちを絡め取る。
ゼロ――いや、“それ”は、ゆっくりと歩み出す。
黒い翼の残滓が背から伸び、空気が震えた。
「見ロ、コレガ“主”ノチカラダ」
声と共に、空が崩壊する。
星が砕け、闇が流れ落ちていく――
セリスは歯を食いしばった。
「……なら、撃ち抜いてやるよ。その力ごと!」
銃身が光を放ち、最後の魔力弾が装填される。
指が、ゆっくりと引き金を――
――そして、世界が真っ白に弾けた。
白光が視界を焼き、音も重力も、一瞬で消える。
セリスは反射的に結界を展開したが――間に合わなかった。
全身を貫く衝撃。
魔力の流れが乱れ、思考が途切れる。
(……クソッ、ここで……!)
伸ばした手の先で、仲間たちが何かを叫んでいる。
だが、声は聞こえない。
世界が遠ざかる。
やがて、重力が――消えた。
――――――
「……セリス」
闇の底で、その声が響いた。
セリスはゆっくりと目を開ける。
そこは――何もない空間。
光も音もなく、ただ“存在”だけが浮かぶ場所。
「…………カイゼル……いや、ルナスか」
「やあ。よく僕の声を認識できたね」
闇の中に、漆黒の翼が現れる。
ルナスはゆったりと歩み寄り、微笑んだ。
「…君がいるということは、僕は死んだのかい?」
セリスの声は低く、冷え切っていた。
「いや? 生きてるよ。正確には――“死にかけてる”けどね」
「……どういうこと?」
「簡単だよ。肉体が死にかけてるだけ。魂をここに呼び寄せたんだよ」
ルナスが指を鳴らす。闇の空間に波紋が広がり、崩壊する戦場が映し出された。
「見える? 君の身体は、まだ向こうで必死に生きてる」
「……助けるつもりはないのか」
「ないね。だって“カイゼル”が助けたら、物語的に台無しだろ?」
ルナスは薄く笑う。
「ただ――力はあげるよ。覚醒シーンにはぴったりだしね」
「……覚醒……?」
ルナスは答えず、指先を唇に当てた。
「静かに。次に目を覚ますとき、君は……いや、君たちは“龍”の力の一端を垣間見ることになる。
――それでも魔法少女たちと歩む覚悟があるなら、止めはしない」
闇が、再び波紋のように広がる。
セリスの意識が、ゆっくりと沈んでいく。
最後に、ルナスの声だけが響いた。
「……次に会うときは、君自身が“選ぶ側”だよ、セリス」
――そして、闇は完全に閉じた。
いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。
見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです




