35.始まり
続きです
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皇国・戦略会議室
「――今後の対カイゼル戦について、正式に作戦部を再編する」
イリスの声が響くと、場の空気が一気に引き締まった。
セリスは腕を組み、静かに頷く。
「少数精鋭の案、正式採用ってことだね」
「そうだ。サイカ様の予知を無視するわけにはいかない」
イリスは壁面の魔導パネルを操作し、四つの部隊名を映し出す。
•第一戦術部隊〈ヴァルナ〉:主力。セリス・カリナが所属。
•第二魔導解析班〈アルマ〉:ルミナが担当。敵の魔力解析と封印術。
•第三観測班〈オラクル〉:サイカ直属。未来予知と星の魔力監視。
•第四特務班〈イグニス〉:諜報・暗殺任務。イリス指揮下。
カリナが口を開く。
「へぇ、なかなか面白そうじゃん。でもセリス、また無茶すんなよ?」
「……気をつけるよ」
セリスは微笑むが、目の奥は覚悟に満ちていた。
その時――
「報告です!」
兵士が駆け込む。
「北部境界線に異常な魔力反応を確認! 恐らくゼロによるものかと!」
一瞬で空気が張り詰める。
イリスが低く言い放つ。
「……来たな」
セリスは椅子から立ち上がり、銃を手に取る。
「行こう。――ここからが本当の始まりだ」
――――――
廃墟のような大地に冷たい風が吹き抜ける。
月明かりの下、瓦礫の上に立つゼロの姿は、まるで影そのものだった。
「……来たか」
ゆっくりと顔を上げる。残された片腕に宿る魔力が、鈍く紫に光る。
対するセリスは、コートの裾を翻しながら銃を構えた。
「やあやあ、久しぶりだね。僕に吹き飛ばされた腕はくっついたかい?」
ゼロは薄く笑う。
「……愚問だな。カイゼル様の恩寵により、失ったものなど容易く取り戻せる」
「へえ、そう。便利なご主人だこと」
セリスは銃口を軽く傾け、魔力の装填を始める。
背後では、カリナの剣が月光を反射し、ルミナの魔法陣が静かに展開されていた。
ゼロの足元から黒い影が地を這うように広がっていく。
「この場で消し去る。お前たちは“世界の矛盾”だ」
「そんなセリフ、悪役が言うときのテンプレだよ?」
セリスの口元にわずかな笑みが浮かぶ。
「でもいいさ。――君を倒せば、“始まり”に近づける気がする」
ゼロの瞳が赤く光る。
セリスの銃身が閃光を放つ。
夜の静寂が、一瞬で砕け散った。
銃声が夜空を裂き、弾丸が光の軌跡を描き、ゼロへと迫る。
だが、ゼロは微動だにせず、黒い影が弾丸を飲み込む。
「……無駄だ。カイゼル様の影は、あらゆる攻撃を呑み込む」
「だったら――その影ごと貫くまでさ!」
セリスは銃を素早く回転させ、魔力を上乗せする。
引き金を引くたびに、空気が震え、爆ぜる光が戦場を照らした。
カリナが前に飛び出す。
「おらぁッ!」
炎を纏った剣で影を切り裂くが、裂け目から無数の腕のような影が伸び、彼女を掴もうとする。
「ちっ……ウザい!」
一閃。カリナは反射的に剣を振り払い、影を焼き切る。
ルミナが後方で呟く。
「……広域で焼くね」
指先に光が宿ると、無数の魔法陣が宙に浮かび、雷撃が降り注いだ。
ゼロは眉ひとつ動かさず、片手を掲げる。
「闇よ、喰らえ」
雷が影に飲まれ、光は消える。
イリスが即座に距離を詰め、短刀を構える。
「無駄口が多い」
無音の一閃がゼロの頸元を狙うが――影が一瞬、彼女の動きを止めた。
「……浅いな」
「なら、深くするまでだ」
イリスは無表情のまま、再び刃を振るう。
戦場を魔力の光と影が交錯する。
その中心で、セリスの瞳が鋭く光る。
(影が動くたびに、魔力の流れが一瞬だけ乱れる……!)
セリスは瞬時に構え直し、銃口をゼロの右足に定める。
「動きを止める!」
引き金を引く――
弾丸が直撃し、ゼロの足元の影が弾け飛ぶ。
「ッ……!」
ゼロの動きがわずかに止まった。
「今だ、カリナ!」
「任せとけぇ!」
カリナが跳び上がり、炎を纏った刃を振り下ろす。
轟音。
地面が爆ぜ、炎が夜空を照らす。
煙の中から、ゼロの姿が現れた。
ボロボロになりながらも、なお立っている。
「……さすがだな。だが――」
胸の中心、黒い光が脈打つ。
セリスが眉をひそめる。
「まさか、それ……」
「“主”の断片だ。貴様らなど、これひとつで滅ぼせる」
黒い光が暴走し、空間が歪む。
次の瞬間、視界が一面、闇に染まった。
―――――――
カイゼル(ルナス)視点
視界が闇に包まれ、戦場の輪郭はほとんど消えた。
ルナスは玉座のような高みから、じっと観察している。
「ありゃ……」
思わず声を漏らす。
「マスター、どうかされましたか?」
従者のルネが尋ねる。
「うーん……セリスたちが影に入っちゃった」
ルナスは黒い翼を軽く揺らし、闇に広がる影の気配を確認する。
「それは……いいのですか?」
「よくないね」
ルナスは首を振る。
「見えにくいのが一番だけど、あそこは魔力が濃すぎる。魔法少女は耐えられないかもしれない」
影の中で、セリスとゼロの戦いは続く。
銃弾と魔法の光が闇に浮かぶ影の中で交錯し、無数の黒い手が飛び交う。
ルナスは黒い瞳を光らせ、冷徹に観察する。
(……この濃度なら、魔法少女はかなり制限されるね)
影の波動と魔力の揺らぎを追いながら、ルナスは静かに笑みを浮かべる。
(さあ、次はどちらが先に手を出すか……)
戦場では、セリスが影の動きを見極め、銃口を定める。
カリナが炎を纏った剣で次々と影を切り裂き、ルミナが雷撃で広域を焼き払い、イリスは刃の軌跡でゼロの動きを縛る。
しかしゼロは影の中で悠然と立ち、黒い光の塊が胸で脈打つ。
ルナスの観察眼は、体内にある“主の断片”を正確に捉えていた。
(……やっぱり、あの断片はオーバースペックすぎたね)
ルナスは黒い尾をゆっくり揺らし、楽しむかのように戦況を見守る。
闇の中、セリスたちの銃火と魔法が渦巻き、ゼロの影がそれを飲み込む。
ルナスは冷静に息を吐き、次の展開を待つ。
(うーん、ジリ貧だね……この状況ならピンチをチャンスに変えても大丈夫だよね?)
いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。
見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです
愉悦の神はもうしません




