29.下僕
遅くなりました、続きです
――――――
数週間後。
街にけたたましいサイレンが鳴り響く。
「緊急! 特Aランクが出現! Bランク以下の魔法少女は住民の避難を優先してください!」
管制の声が各地に響き渡り、通信を受けた魔法少女たちは一斉に動き出す。
「特A……!?」
「そんなの、私たちじゃ相手にならない……!」
焦りと緊張が走り、若い魔法少女たちの顔が強張る。
上空を覆う黒雲。その中から滲み出るように現れたのは、まさに災厄そのものを具現化した巨影だった。
「……これが、特A級……」
住民の悲鳴と、建物が崩れ落ちる轟音が街を揺らす。
だが前線へと向かう二つの影があった。
「特Aランクか……ついに出たな」
イリスは鋭い眼差しで巨影を見据える。
「そうだね……にしても、大きいな」
セリスが感心したように息を漏らした。
街の中心部にそびえ立つ巨影は、ビルを軽々と見下ろすほど。全身を覆う甲殻は黒鉄のように硬質で、背には不気味な光を脈打たせる結晶が突き出ている。
その一歩ごとに地面が陥没し、街全体が震えた。
「……あれも、元は人か」
イリスの声には僅かな緊張が混じる。
「……そうだね」
セリスが低く応じ、一歩前に進み出る。手にしたライフルの銃口が巨影を正確に捉えた。
次の瞬間――赤い双眸がぎらりと光り、二人を標的とする。
「――ッ!」
咆哮。
大気が裂け、街全体を震わせる衝撃波が広がった。窓ガラスが一斉に砕け散り、瓦礫が降り注ぐ。
イリスは咄嗟に氷壁を展開し、セリスの前に立つ。
「来るぞ!」
巨影の振り下ろした腕が地を砕き、氷壁は一撃で粉砕された。破片が白い光を散らしながら崩れ落ちる。
「うぇ、すごい威力。直接食らったら死ぬかもね」
セリスが軽口を叩くが、その額には冷や汗が滲んでいた。
「冗談を言っている場合ではない。あれ一発で街ごと吹き飛ぶぞ」
イリスが鋭く言い放つ。
巨影は再び咆哮し、両腕を振り上げる。赤黒い魔力が渦巻き、周囲の建物が次々と崩れていく。
「はいはい……攻撃力は凄いけど、防御はどうかな?」
銃声と閃光。
巨影の片腕が跡形もなく吹き飛んだ。
「……っ!」
巨影は痛みに似た咆哮を上げ、残った腕を暴力的に振り回す。地面がひび割れ、瓦礫が宙を舞った。
「そこそこかな。半身ごとのつもりだったけど」
セリスが肩をすくめて呟く。
「……その力、あとで説明してもらう」
イリスはため息をつき、両手を掲げる。氷の鎖が地面から立ち上がり、巨影の足を絡め取った。
「今のうちに叩き込む!」
氷が一気に広がり、巨影の半身を凍り付かせていく。
セリスは再び銃を構え、狙いを定めた。
「よし、今度こそ胴体ごと吹き飛ばしてみよう」
引き金が引かれる。弾丸が巨影へと迫り――
「そこまで」
「「!?」」
突如として現れた謎の人影。
その手には、巨影を吹き飛ばすはずだった弾丸が、握り潰されたように止まっていた。
「不思議な弾だ……吾輩の掌がヒリヒリする」
赤黒い瘴気をまといながら、人影はゆっくりと手を開いて見せる。掌には焦げ跡のような痕が刻まれていた。
「……貴様は何者だ」
イリスは氷槍を呼び出し、セリスの前へ半歩出る。だが隣のセリスは表情を歪め、銃を構え直していた。
イリスは気づく――セリスの魔力が、これまで見たことのないほどに荒れ狂っている
「おい、セリス。落ち着け」
「……あぁ、分かってるさ」
短く答える。だが視線は謎の人影から逸れない。
人影は不敵な笑みを浮かべ、影を払った。
灰色の肩まで伸びた髪。黒い執事服。中性的な顔立ち。頭と腰からは豹のような耳と尻尾が覗いている。
「改めて名乗ろう。吾輩はゼロ。敬愛すべき我が主、カイゼル様の下僕だ」
その瞬間、巨影は怯えるように後退し、咆哮を止めた。場内に異様な静けさが広がる。
イリスの背筋に冷たいものが走った。――こいつは、巨影よりも遥かに危険だ。
「下僕……?」
セリスは銃口をゼロに向け、低く呟く。
「イリス、そいつは僕が相手をする。君は巨影を――」
言い切るより早く、ゼロの姿が掻き消えた。
気づけば、セリスの眼前に立っていた。
「それは駄目だ。……カイゼル様に歯向かう虫は、最初に潰しておかないとな」
――張り詰めた空気が、臨界を迎えようとしていた。
いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。
見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです




