27.がっかり
続きです
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「じゃあ、どうしようかな」
セリスは考え込む。
「まずは、自己紹介からがいいんじゃね?」
カリナが隣で提案する。
「そうしよっか」
セリスは生徒たちに向き直った。
「初めまして。僕はセリス。この度、この国の巫女様であるサイカ様に推薦され、ここで教えることになった、ただの魔法少女だよ」
ざわ……と場の空気が動いた。
「巫女様の推薦……?」
「ただの魔法少女って言ってるけど、推薦される時点で只者じゃないでしょ」
生徒たちは互いに顔を見合わせ、ざわつく。
セリスは軽く手を振り、笑みを浮かべた。
「まあ、そんなに固く考えなくていいよ。僕は先生の立場にはなるけど、偉そうに説教するつもりはない。わからないことがあれば遠慮なく聞いてくれて構わない」
その気安さにほっとした生徒もいたが、小さく「先生……?」と呟く声も混ざった。
カリナがにやにやしながら口を挟む。
「セリスはな、こう見えて俺でもヒヤッとするくらいの力を持ってるんだ。『ただの』って言葉に騙されんなよ」
その一言に、ざわめきがさらに広がった。
セリスは肩をすくめ、悪戯っぽく笑う。
「やめてよ、期待されても困るなぁ。まあ、戦闘のときに証明できれば十分だよね」
生徒たちの表情には緊張と興味が入り混じった。
――訓練所の空気は、次にセリスが何を見せるのかで張りつめていった。
「ハイ」
手を挙げた生徒にセリスが向き直る。
「どうぞ、君は?」
緑の髪を揺らす少女が少し緊張した面持ちで口を開く。
「えっと……私はリオナ・フェルナ。よろしくお願いします!」
セリスは軽く頷き、笑みを浮かべた。
「リオナ、質問は?」
「はい、セリスさんの魔法少女のランクを教えて欲しいです」
セリスは一瞬、言葉に詰まった。
「あー……そっか」
カリナが察したように呟く。
「カリナ、なぜセリスは固まっている?」
ルフェインが不思議そうに尋ねる。
「セリスに、ランクなんてないんだよ」
「なに?」
「あいつが活動し始めたのもここ最近だし、ランクをつけられないのもある。政府に認知されていないからね」
セリスは答えをどう返すか、頭をフル回転させる。
「先生?」
リオナが心配そうに声をかける。
「えーと……」
「すまないが、その件に関しては極秘だ」
そう言い放ったのは、いつの間にかそこに立っていたイリスだった。
「イリスさん! そうだったんですね、すいません」
リオナは慌てて頭を下げる。
「ありがと、イリス」
「貴様が余計なことを喋らない方がマシだ」
イリスが冷たい眼差しをセリスに向ける。
「信用ないねー。じゃあ、ついでに的、作ってくれない?」
「何故だ」
「皆の魔法のレベルを見たいから」
「そうか」
次の瞬間、氷の的が出現する。
「うん、じゃあ皆、あの的に向かって得意な魔法を当ててみて」
セリスが生徒たちに向き直ると、クラスの一角から生徒達の声が聞こえた。
「イリスさん、すごくない?」
「変身しないであんな遠くに魔法を発動するなんて」
「今回の先生、ちょっとかっこよくない?」
「そうそう、顔は可愛い系なのに、所作からかっこよさが滲み出てるよね」
普通の女子高生たちの様な会話が、訓練所に柔らかく響く。
「あー……なるほど、これは酷いな」
セリスは頭に手を置き、天を見上げた。
「セリス……一応断っとくが、このクラスは全員新入生だぞ」
ルフェインが釘を刺すように言う。
「うん、わかってるよ」
セリスは肩をすくめて笑う。
「でも、この子たち、魔法少女――つまり正義の味方に憧れてここに入ってきたんでしょ?
酷くない? 配信とかではきっと綺麗なところしか見てないだろうけど、少し考えれば分かるのに」
「新入生にしても、がっかりだよ」
セリスはため息をついた。
「一応聞いておくけど、2、3年生はまだマシなのかな?」
ルフェインに向かって尋ねる。
「……正直に言おう」
ルフェインは静かに息を吐く。
「ここ最近は全体的に質が下がっている。Sランクが3人しかいないなんて、以前では考えられなかったことだ」
「……そっか」
その声には落胆があった
「とりあえず、皆…的に魔法を当ててみて」
生徒たちが次々に変身し、訓練所に様々な光が煌めく。
「…妖精は質よりも量で勝負したいらしい」
セリスはその光景を冷たい眼差しで見つめた。
「なあ、そんなに酷いのか? 俺たちと比べて」
カリナがセリスの隣に来て尋ねる。
「比べること自体、君たちに失礼だよ。君たちと違い本格的な戦闘をしていないとはいえ、もう少しできるとは思っていたね」
セリスの見たことのない冷たい声と瞳に、カリナは背筋が寒くなる。
―――――
数十時間後
訓練を終え、四人は静かな廊下を歩き、サイカの居室へ戻ってきた。午後の陽射しが壁に差し込み、疲労の色がそれぞれの表情を縁取る。
「どうでしたか?」
サイカは客間の椅子に腰掛け、丁寧に淹れたお茶を差し出しながら尋ねた。
セリスは湯気の上がる茶碗を軽く指先で弾き、苦笑を浮かべる。
「期待はずれかな――正直言って、僕の銃を兵士に持たせた方が遥かに有意義だよ」
カリナとルミナは一瞬ぎょっとし、イリスは冷えた表情のままセリスを睨む。しかしサイカはゆっくりと頷き、沈着に答えた。
「そうおっしゃるのも分かります。ですが、我々は人と力の両方を育てねばなりません。兵士に武器を配ることと、魔法少女たちを鍛えて前線で戦わせることは、求める成果が異なります」
「要するに、量産できる“兵器”に頼るのは短絡的だってことか」
セリスは指を組み、顎に当てながら続ける。
「現実的な即効性で言えば、装備と戦術の改善で被害は減らせる。今のままだと、カイゼルの配下が増えたとき、こちらが消耗するだけだ」
イリスが静かに前に出る。
「セリス、具体的に何を提案するつもりだ?」
その問いに、セリスの口元にいつもの軽やかな笑みが戻る。
「三本柱で行こう。まず一つ、訓練内容の即時改訂。基礎制御の反復と状況判断のシミュレーションを増やすこと。二つ目、対影・対擬似生命(カイゼル由来)用の対策班を立ち上げる。装備と戦術を専任で研究するチームだ。三つ目、有望な魔法少女――せめてAランクに届く才能を持つ者を集める。妖精協力のもとで、魔法少女志願者の早期発掘と育成ラインを作る」
ルミナが眉を寄せる。
「つまり人を増やすの?」
「うん。ただし無差別ではない。素養があり、制御力を高められる者を選別する。妖精の協力があれば未来予知の側面も活用できる」
サイカは茶碗を静かに置き、深刻な面持ちで言葉をつなぐ。
「全て国として手配します。ただし条件があります。第一にセリスさん、あなたの監督下で行うこと。第二に、軍事転用を厳格に制限すること。第三に、私の監視の元で実験設備を運用すること」
セリスは一度大きく息を吐き、椅子にもたれた。
「ふむ。監督か。嫌いじゃないけど、監視は勘弁ね。まあ、実験は僕側でやりたいから最後のは譲れない」
にやりと笑ってから、言葉を付け加える。「ただし、銃をそのまま兵に配るのは反対。代わりに僕が設計を詰めて、安全装置と変換効率の下限を設定する。そうすれば一般運用も可能になる」
イリスが小さく息を吐き、渋々頷いた。「……妥協点だな。カイゼルの脅威を考えれば、我々には時間がない」
話し合いは続き、ささやかな合意が積み重ねられていく。外では風が吹き、世界のどこかで新たな影が形を成しつつあった。だが、少なくともその日、彼らは次の一手を得た──不十分でも、確かな準備の一歩を。
整えて
いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。
見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです




