26.訓練所
続きです
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ルフェインがまだ険しい視線を向けている中、セリスは軽く手を打った。
「で、僕はクラスを持つの? それとも戦闘訓練の時だけ?」
あまりにも気軽な調子に、学園長室の空気が一瞬ずっこける。
ルフェインは額を押さえ、ため息をひとつ吐いた。
「……貴様というやつは。初対面でその態度、恐れ入るな」
「えー? 仕事の内容は最初に聞いておかないと困るでしょ」
セリスは悪びれもせずに笑う。
ルフェインは数秒の沈黙ののち、淡々と告げた。
「基本は“特別講師”として扱う。戦闘訓練を主に、必要に応じて各クラスへ呼ばれることになるだろう」
「ふむふむ、なるほどね。じゃあ担任持たなくていいんだ。助かるー」
セリスは心底ほっとしたように胸をなでおろす。
「正直言って、僕より弱い奴に懇切丁寧に授業するって苦痛だからね」
その一言に、部屋の空気がピシリと凍りついた。
ルフェインの長い耳がぴくりと動き、黄金の瞳が細まる。
「……言葉を選ぶということを知らんのか、貴様は」
「本音を言っただけだよ? でも、戦える奴に教えるのは嫌いじゃない。実際にぶつかり合えば早いでしょ」
セリスはにこりと笑い、挑発するように言葉を重ねた。
ルフェインは深く息を吐き、机に組んだ指をとんとんと叩く。
「……まあ、戦場で叩き込む方が貴様には向いているかもしれんな。だが、弱き者を導く役割も忘れるなよ」
「善処するよ、学園長さん」
肩をすくめながら、セリスは軽い調子で返す。
「それにしても急だったのによく受け入れたね」
セリスが机に肘をつき、興味深そうに問いかけた。
「ああ、サイカ殿の依頼ということもあるが……学園に新しい風が欲しいとも思っていたのだ」
ルフェインは静かに答えたが、その口元にはわずかな苦笑が浮かんでいた。
「新しい風、ね。嵐じゃなくて?」
セリスが軽口を叩くと、学園長の黄金の瞳が鋭く光る。
「……荒れるだろうな。だが、それでこそ学びの場というものだ」
「へえ、意外と度量があるんだ」
セリスは笑いながら椅子にもたれ、足を組む。
「じゃあ、遠慮なくやらせてもらうよ」
「好きにせよ。ただし――責任は取ってもらうぞ、セリス」
部屋に重たい静寂が落ちた。
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ルフェインに着いていくと、広大なドーム状の建物が目に入った。魔力で補強された石造りの壁に、天井には光を通す大きな結界が張られている。
「ここが戦闘訓練所だ」
ルフェインが静かに告げる。その声にはどこか試すような響きがあった。
「へぇー……広いね。これなら暴れても壊れなさそう」
セリスは天井を仰ぎながら口笛を吹く。
「早速で悪いが、次に来るクラスで貴様の力を見せてもらう」
「……いきなり公開実演? 手慣れてるねー」
セリスは片眉を上げて笑う。
「新任の教師がどの程度の実力を持つのか、生徒たちが知ることは重要だ。加えて、私自身も確認しておきたい」
ルフェインの目がじっとセリスを射抜く。
「なるほど。じゃあ派手にやっちゃっていいのかな?」
「壊すなよ。訓練所は高い」
「……そこは気を付けるよ」
セリスは苦笑しつつも、どこか楽しげに肩を回した。
――その時、訓練所の扉が開き、次の授業のクラスがぞろぞろと入ってくる足音が響いた。
「お! セリスじゃねえか!」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはカリナがいた。
「カリナか。……貴様、知り合いだったのか?」
ルフェインが怪訝そうに問う。
「うん。でもあの子と戦うのなら、ここは壊れちゃうかもね」
セリスが肩をすくめながら冗談めかして言うと――
「ダメに決まっているだろう。それにSランク魔法少女の魔法に耐えられるほど、ここは硬くない」
ルフェインが苦い顔で制す。
「そっか。じゃあルミナとかイリスも、基本的に戦闘訓練の時は見学なのかい?」
セリスが首を傾げると――
「そうだぜ。あいつらが本気でやったら訓練所ごと吹き飛ぶからな」
カリナが代わりに答えた。
「でもイリスとかは、戦うより他の奴に教えてることのほうが多いぜ。剣でも魔法でも、とにかく説明が丁寧なんだ」
セリスは思わず吹き出す。
「へえ、あのイリスがね……意外と面倒見いいんだ」
「意外とどころか、学園内じゃ頼られっぱなしだ。真面目すぎるくらい真面目だからな」
カリナが肩を竦める。
ルフェインも小さく頷き、
「Sランクである彼女やルミナ殿は、ここでは“戦力”としてよりも“指導者”として価値がある。君もその役割を担うことになる」
セリスは顎に手を当て、ふっと笑った。
「そっか……じゃあ僕も、ちょっとは“先生っぽく”見せないとダメかもね」
「そこは態度次第だな!」
カリナが豪快に笑い、場の空気が少し和らいだ。
いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。
見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです




