25.エルフ
続きです
皇立魔法学園
「いやー……でかいねー」
セリスは堂々とした校門の前に立ち、そびえ立つ校舎を見上げていた。
白亜の塔がいくつも空へ突き出し、魔力を帯びた結界がきらめく。門をくぐらずとも、この学園が背負う格と歴史の重みは伝わってくる。
「ここで僕が“先生”するのか……なんか場違いな気しかしないんだけど」
苦笑しながら髪をかき上げるセリス。
通りがかった生徒たちは、怪訝そうに、あるいは興味深そうに彼を眺めて通り過ぎた。
「……おい、何故ここにいる」
背後から低い声。振り返ると、学園の制服をきっちりと着こなしたイリスが立っていた。
「へー、似合うじゃん」
セリスは感心したように笑みを浮かべる。
「でも……やっぱり違和感があるね」
「そんなことはどうでもいい」
イリスは眉をひそめ、腕を組む。
「何故、生徒用の校門で突っ立っているのだ」
「え、ここから入るんじゃないの?」
セリスは首を傾げる。
「……教師なら教職員用の入口を使え」
冷ややかな口調に、セリスは「あ、そうなんだ」と目を瞬かせた。
「なるほど、そういうのあるんだ。知らなかったよー」
頭をかきながら子供のように笑う。
「じゃあ、案内してよ。こんなに広いと迷子になるからさ」
「はー……仕方ない」
イリスはため息をつき、視線を逸らす。
「サイカから貴様のサポートをするよう言われているからな」
「おお、頼もしいねぇ。イリスがガイド役なんて贅沢だ」
セリスはにやにやとついていく。
「勘違いするな。任務の一環だ」
イリスはぴしゃりと切り捨て、足早に校舎の方へ歩き出した。
広い校庭を横切る二人。朝の登校風景の中で、注がれる視線は少なくない。
見知らぬ人物と国内で有名なイリス――その組み合わせは、やけに目立っていた。
⸻
「ここが学園長室だ」
イリスが扉を示して立ち止まる。
「おー、ここか。うん、覚えた」
セリスは軽く頷き、部屋の気配を探るように目を細める。
「なら挨拶してこい。私からはすでに連絡してある」
「手際いいねー。じゃあ、失礼して」
セリスは扉を押し開けた。
中にいたのは――机に腰かけた小柄な人物。
一目見れば、どうしても「子供」にしか見えない。
「子供?」
「誰が子供だ」
低い声と同時に、何かが飛んできた。
セリスは反射的に手を伸ばし、それを受け止める。
細身の万年筆だった。
「……あぶないなー」
眉を上げ、セリスは笑う。
「万年筆は投げるものじゃないよ」
改めて相手を見据える。背丈は自分の半分ほど。顔には幼さが残り、短く整えられた緑の髪。そして――尖った長い耳。
「へー……初めて見たよ、エルフは」
「だろうな」
学園長は肘をつき、苛立ちを隠さず返す。
「初めてでなければ、エルフに向かって子供などと口にするものか」
「ごめんね」
セリスは両手をひらひらさせて苦笑する。
「僕、素直だからさ。思ったことはつい口に出ちゃうんだ」
鋭い目が細められる。
「……口の利き方を覚えろ、人間」
「で、君が学園長さんでいいのかな?」
にこりと笑い、気にする様子もなく問いかける。
小柄な人物はしばし沈黙ののち、胸を張り名乗った。
「――我が名はルフェイン・エル=カーナ」
小さな体に似合わぬ、深く硬質な響き。
「皇立魔法学園の学園長にして、エルフ王家の血を引く者だ」
「へえ……すごいね。見た目とのギャップにびっくりした」
セリスは口笛を鳴らし、感心したように言う。
「……貴様」
ルフェインの眉がぴくりと動く。だがすぐに冷静さを取り戻し、鼻を鳴らした。
「まあよい。口の軽さも、しばしは見逃してやろう。サイカ殿の依頼ゆえな」
「ふーん。てかエルフに王家とかあったんだね」
セリスは首を傾げ、気楽に言葉を続ける。
「数が少ないと言っても、元々は同じ人間でしょ?」
ルフェインの瞳が細くなった。
「……なるほど。やはり貴様は“外”の者だな。無知ゆえか、あえて挑発しているのか」
「挑発? そんなつもりないよ。ただ思ったことを言っただけ」
肩を竦め、にやりと笑うセリス。
「エルフは人と同じ根を持つ。だが、決して同じではない。我らは長命であり、魔の理に近い存在……」
ルフェインは机を指で叩き、淡々と続けた。
「そして、その長い歴史を束ねるために“王家”がある。少数だからこそ、秩序が必要なのだ」
「へえー、なるほどね」
セリスは素直に頷く。
「でもさ、長生きだからって必ずしも偉いわけじゃないでしょ? 僕なんて生まれてまだ数年だけど、君より色々やってるかもよ」
ルフェインの眉がぴくりと動いた。
「……礼節を欠くな。ここは学園だ。貴様が今後、誰を相手にするのかを忘れるなよ」
いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。
見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです




