20.遊び相手
続きです
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カイゼル(ルナス)視点
「ん、やられたか」
ルナスは遠くで、自らの魔力を分け与えた存在が消滅するのを確かに感じ取った。
その瞬間すら愉快げに受け止め、唇の端を吊り上げる。
「さて、普通ならここで幕引き……ってところなんだろうけど」
椅子の背にもたれ、指先で机を軽く叩く。
「物語を見守るだけじゃ退屈だ。……もう少し“遊ぼう”か」
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魔法少女視点
「大丈夫?」
ルミナが駆け寄り、息を整えながら声をかけた。
「ああ……」
イリスは額の汗を拭い、吐息を漏らす。
「普段やらない封印という手段と、他の二人と魔力を合わせるのは……さすがに堪えた」
まだ彼女の周囲には白い冷気が漂い、封印の余波が残っていた。
「……まあ、しばらくは大丈夫だと思うよ」
セリスが氷・炎・雷で形成された檻を見やりながら言う。真剣な眼差しには一切の油断がない。
カリナが剣を地面に突き立て、荒い息を整える。
「それより……アレはいったい何だったんだ?」
静寂。
檻の中で蠢く黒い影は完全には動きを止めておらず、異様な気配を発し続けていた。
イリスが目を細め、低く呟く。
「……私たちがこれまで戦ってきたものとは、根本的に違う。肉体も魂もなく、ただ魔力そのものが形を取ってる……」
セリスも頷き、視線を影に注ぐ。
「そう。普通の魔物なら斬れば血を流すし、魔核を壊せば消える。だけど、あれは……」
ルミナが腕を組み、いつになく真剣な声音で割り込んだ。
「生物っていうよりは……機械っぽい。命令に従って動く兵器みたいな」
訓練場に、重苦しい空気が漂う。
カリナがセリスを見やり、問いかけた。
「で、セリス。お前はアレを何だと思う? ……さっき、核が出て来た時に何か言ってただろ」
「……聞こえてたのか」
セリスは小さく息を吐き、片眉を上げる。
「まあ、予想にはなるけど」
イリスが視線を送る。
「いい。この場で一番“奴ら”に詳しいお前の意見を聞かせろ」
セリスはしばし考えるように目を閉じ、やがてゆっくりと口を開いた。
「――あれは、魔物じゃない。
カイゼル……カイゼルの魔力そのものを素体にして造られた、“擬似生命体”。」
彼女の言葉に、三人の背筋が凍る。
――その時、檻の中の黒影が軋み、外から叩かれるように氷が震えた。
檻の中で、影がぐらりと形を変える。
墨を水に垂らしたような黒が凝縮し、背からは禍々しい翼が二枚、ゆっくりと広がった。
「な……っ!? 封印の中で進化しているだと!?」
イリスの声が震える。
「いや、違う……あれは戻ろうとしているんだ、魔力の本来の持ち主の形に」
セリスの眼が、恐怖と理解で鋭く光る。
影はゆるりと顔を上げ、四人を見渡す。
その目に瞳はなく、ただ深淵のような闇が覗いている。
「フフ……矮小なれど妾の力を縛るとは見事よ。されど――」
翼を大きく広げるたび、檻が軋み、ひび割れていく。
「妾を閉じ込めるには、あまりにも狭い檻であったな」
雷鳴のような破裂音。
氷と炎と雷で築いた三重の檻が、一斉に砕け散った。
「カイゼル!」
「先程ぶりだの、セリスよ」
「……何故貴様がここに」
イリスが冷静に問う
「ふむ、不可思議なことを聞くの。この肉体は妾の魔力で出来ているのだぞ」
「つまり、本体じゃない」
イリスの言葉に、影――否、“カイゼルの化身”はくつくつと笑った。
「左様。妾の魔力を分け与え、生まれた擬体にすぎぬ」
黒翼を広げ、影は一歩前へと進み出る。その足が大地を踏むたび、黒い波紋が地面に広がり、石畳が崩れていった。
「だが、侮るなよ。妾の“魔力”を受け継ぎし器――すなわち、今ここに立つ妾は、妾そのものだ」
セリスは唇を噛む。
「……分身でありながら、意思を共有している……」
「要は“どこにいても”カイゼルと相対しているのと同じ、ってわけか」カリナが剣を構え、肩越しに吐き捨てる。
影は悠然と頷き、視線を彼女へ。
「うむ。妾に刃を向けるその心意気、嫌いではないぞ」
翼が大きく打ち振られる。
黒い風が吹き荒れ、空気そのものが重く淀んだ。
「だが、安心せい今回は挨拶だけである」
「それをどう信じろと」
「そうさな……ああこの手を見よ」
4人は警戒するが手を見る
その手はすでに大きなヒビと無数のヒビが入り今にも崩れそうであった
「其方らの攻撃で既にこの体はボロボロ、さらには妾が降臨したことによって崩壊が加速した。故に挨拶なのだ」
黒い手を広げて見せながら、カイゼルの化身は愉快そうに嗤った。
指先からは黒い砂が零れ落ち、地面に落ちるたびにじゅ、と音を立てて消えていく。
「……つまり、今なら倒せるってことか」
カリナが剣を握り直す。
「待って」
セリスが低く制した。
「倒しても意味はない。あの身体が砕けようと、本体に傷一つ付かない」
「うむ、まさしく」
影は肩をすくめて肯定する。
「だが――其方らが“妾を滅ぼせる存在”であることは理解した。……実に愉快よ」
四人の背に冷や汗が伝う。
それは敗北ではない。けれど勝利とも呼べぬ、曖昧な緊張。
「奴、先日とは性格が違くないか」
イリスが困惑まじりに聞く
「ああ、カイゼルはこっちが素だよ。基本的には戦闘狂だからね。弱い奴と思う奴には前の方がいいらしいから」
「つまり、君たちはカイゼルに遊び相手として認識された」
セリスが言う
「次に会う時は――」
黒翼が広がり、空気そのものが軋んだ。
「本物の妾が相手をしよう」
その言葉と共に、化身の身体はひび割れから崩れ、黒い塵となって霧散していった。
静寂。
残されたのは、まだ震える心臓と、重い予感だけだった。
いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。
見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです