17.龍は仲間を作る
今回はルナス視点です
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カイゼル(ルナス)視点
「助かったー。いやー、切り上げるタイミングがわかんなかったから。ありがとね、ルネ」
「いえ、当然のことですので、マスター」
ルネ――ルナスのスマホを人型に変化させた存在――が、落ち着いた声で応じる。
ルナスは少し笑みを浮かべ、肩越しに周囲を見回す。
拠点と呼べるほどの場所ではないが、辺りにはルナスの魔力が漂っていた。
「で、問題って?」
「はい、こちらをご覧ください」
映し出されたのは、以前ルナスの感情が昂ぶった際に漏れ出し、空間さえ歪ませた黒き魔力だった。
「あー……まずいね。このまま放置したら、最悪この星が壊れちゃう」
「回収するかー」
ルナスは空に手を出したすると……はるか宇宙にあったはずの魔力が目の前に出現した
「…めんどいけど吸収かな」
ルナスが魔力にてを入れようとした時―
「お待ちを、マスター」
「? どうしたの」
「この魔力を、有効活用しませんか?」
「有効活用ね。わざわざこれを? いつでも出せるよ?」
その瞬間、ルナスの周囲から黒い魔力がふわりと溢れ出す。
「…あれ? ちょっと薄いかな」
「ええ。今のマスターは肉体を得たことで少し弱体化しております。ですので、あれを出したのは、肉体を得る前――つまり魔力の質としては、今のマスターよりも高いのです」
「なるほど、でどうするの?」
「あの魔力を使い仲間を増やしましょう」
「仲間?作らない方針じゃなかった?」
「失礼しました、増やすより作るという方が適切でしたね。すなわちあの魔力を用いセリス様のような分身体や魔物を制作しましょう」
ルナスは膝を折り、床に手をついて黒き魔力の渦を見た。周囲の空気が微かに震え、魔力の匂いが鼻腔をくすぐる。
「仲間を『作る』か……面白いな」
ルネは静かに頷き、端末のような手元を操作する。スクリーンに細かな図式と数値が浮かび上がる。
「マスター、ただし条件がございます」
「条件?」
「はい。この魔力は高密度で質が良い反面、性質が不安定です。無計画に量産すれば、世界の魔力バランスを崩し、意図せぬ“副作用”が発生します。ですので、制御器と雛形が必要です」
ルナスは口元で笑いを崩す。
「制御器ね……面倒だが、そこはルネに任せるさ。で、どんなやつが作れる?」
ルネの目が淡く光る。
「大別すると二通りです。一つは“分身体”――マスターの意思を限定的に反映する疑似的な生命体。セリス様のように独立行動を取れます。持たせる魔力量を操作すれば強さは自在です。もう一つは“魔物”――純粋に攻撃特化で、知性や自我は最低限に留めます。用途に合わせて設計可能です」
ルナスは立ち上がり、黒き魔力の渦に手を差し伸べる。指先をほんの少し触れただけで、渦はやわらかく反応した。
「なるほどな。分身体は“顔”と“駒”、魔物は“量産兵器”ってことか。悪くない」
ルネが小さく首を傾げる。
「ただし、マスター。分身体を作る場合は“人格生成”の負担が発生します。以前のマスターなら平気でしょうが今の状態でやるとマスターの核である“本体”が薄まる危険性があります。魔物ならその心配は少ないですが――」
「副作用な、わかってる」ルナスは頷く。
「でも、暇潰しに世界を見守るだけじゃ物足りない。ちょっとだけ刺激を与えてやろう。まずは試作一体。分身体一体と、使い捨ての魔物数体。性能は抑えめにしておけ。問題が出たら即回収だ」
ルネは無言で了承し、魔力収束のための紋章を展開する。ルナスの周囲に黒い光が渦を巻き、ゆっくりと形を取り始めた。
黒い魔力が糸のように紡がれ、光と闇の縫い目から人影が浮かび上がる。形はまだ粗く、表情は作りかけの仮面めいていた。
「試作一号、準備完了」ルネの声が静かに響く。
ルナスはそれを見下ろし、低く呟く。
「名前は――ああ、まだ必要ないか。そいつは“演出”役にしてやろう。さて、世界をちょっとだけ騒がせるか」
黒き渦はゆっくりと収束し、試作体の輪郭が確定していく。外套の縁でさざめく影、目に宿る淡い光――それは確かに“作られた者”だったが、その瞳はどこか、ルナスを覗き込むようでもあった。
ルネが小さな確認音を立てる。
「マスター、投入する初期命令を」
ルナスは指を鳴らし、軽やかに命令を口にした。
「まずは君を“問題児”として街に放とう。名は……“試作一号”で良い。それと、セリスの相手をしてもらおう、あいつの反応を見たい」
夜の闇を背に、試作体はゆっくりと首を動かした。黒い瞳が微かに光り、やがて静かに笑ったように見えた。
「面白くなってきた」ルナスは囁き、暗がりへと姿を溶かすように消えていった。
いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。
見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです