16.野望
続きです
「結論から言えば……まあ、君たちなら使えると思うよ」
イリスが静かに問い返す。
「どういう意味だ」
セリスは肩をすくめ、軽く笑う。
「そのまんまだよ。魔物にダメージを与える――って意味ならね。普通の弾丸を込めれば、形式上は一般人でも撃てる。けど――」
掌の光をちらりと弄びながら、言葉を続ける。
「僕ほどの威力は出ない。あれは僕専用に調整した“変換器”みたいなものだから、僕以外の魔力で動かすと変換効率ががたがたになるんだ」
ルミナが前に詰める。
「つまり実質的に、君以外には使えないってことー?」
「そういうことさ」
セリスは淡々と頷く。「それに、あれは使用者の魔力を弾に変換してるから、魔力が少ない人間が扱うと──場合によっては命取りにもなりうるよ」
「君たちの技術力がどんなもんかは知らないけど、あれを再現するのは無理だろうね」
「………そうか」
室内に重く沈んだ空気が流れる。誰も言葉を発せず、張り詰めた緊張が壁に反響している。
その空気をものともせず、セリスは椅子の背に軽く体を預け、にこやかに口を開いた。
「それで、他に聞きたいことはないのかい?」
――まるでここが尋問室ではなく、ただの雑談の場であるかのように。
その声の軽さが、逆に室内の重苦しい緊張を際立たせる。
イリスは視線を落とし、唇を引き結ぶ。
ルミナは小さく息を吐き、カリナは拳を握りしめたまま俯く。
セリスの笑みだけが、異様に鮮やかに浮かび上がっていた。
「……では、あの竜族とメイドについて話してもらおうか」
セリスの表情がわずかに曇る。
「…うーん。そうだな、一つ聞きたいんだけど」
「なんだ」
「君らはあの竜族と戦って勝てる自信はあるかい?」
イリスの眉がぴくりと動き、静かに細められる。
「……質問に質問で返すのか」
セリスは口元にうっすら笑みを浮かべるも、瞳には先ほどまでの軽薄さが消えていた。
「いや、意地悪がしたいわけじゃないんだ。ただ――君らが“どこまで本気で見ているのか”知りたいんだよ」
カリナとルミナは、先の戦闘と呼べない光景を思い出し、唇を噛み沈黙する。
イリスは二人の横顔を一瞬だけ見やり、再びセリスへ鋭い視線を向けた。
「……勝てるか勝てないかは状況次第だ。だが、退くつもりも屈するつもりもない」
その答えに、セリスは「なるほど」と小さく呟き、肩で息をついた。
「……なら、いいや。じゃあ答えようか――あの竜族とメイドについてね」
空気がひりつき、監視員たちですら息を呑む。
「……彼女達、今は違うけど、僕も含めてある組織に所属していたんだよ」
イリスの眉がぴくりと動く。
「組織……だと?」
セリスは組まれた手をほどき、拘束の光輪に縛られたまま天井を仰ぐように視線を流す。
「そう。“研究”と“実験”を至上の価値とする……少し歪んだ集団さ。僕も、竜族も、あのメイドも……そこで“作られた”存在なんだよ」
ルミナが身を乗り出す。
「作られた? 竜族が? あれほどの力を持つ存在が?」
「竜族の…まあいいか、カイゼルやメイドのルネは正確には……“作り替えられた”と言った方がいいかな」
セリスは淡々と続ける。
「元々はただの竜族や人間だった。だけど組織は彼女らに魔力を注ぎ込み、構造を組み替え、効率的に“兵器”として動けるようにした。僕は……その副産物みたいなものだ」
カリナの表情が険しくなる。
「兵器、だと……」
セリスはうっすら笑ってみせる。
だがその声音には、どこか影が差していた。
「そう。その結果、カイゼルに滅ぼされた。自ら生み出した兵器に破壊されるなんて、ある意味本望だよね」
イリスは沈黙を貫き、ただその言葉の真意を見極めようとセリスを射抜くように見つめる。
「……本当か?」
「本当だよ。嘘みたいだけどね」
「……そうか。カイゼルといったか? 奴はお前を裏切り者と呼んでいたが、何があったんだ?」
「簡単だよ。僕が反発したんだ。彼女のやり方や目標はあまりにもひどかったからね」
「やり方? 目標?」
「そう。彼女カイゼルは、この星の魔力を独占し、より強い存在として生まれ変わろうとしているんだよ」
イリスの視線がさらに鋭さを増す。
「……独占、そして生まれ変わろうと? あの竜族はさらに強くなるつもりか」
セリスは軽く息を吐き、肩越しに視線を漂わせる。
「そうだね。彼女らは“作り替えられた”存在だけど、本来の意識はそのまま。カイゼルに限って言えば、強くなるために自ら組織の実験に志願したんだ」
カリナが拳を握りしめ、唇を噛む。
「……何というか……それって、単なる暴走じゃないのか」
セリスは微笑むが、瞳の奥には影が差す。
「暴走かもしれない。でも、単なる暴走じゃ片付けられない。彼女の行動には計算もあるし、理想もある。だから余計に厄介なんだよ」
ルミナが首をかしげ、小さく呟く。
「理想のために人や世界を犠牲にする、ってことー?」
「そういうことさ」
セリスの声は静かだが、その言葉には冷たい現実味が宿っていた。
いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。
見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです