15.「僕」の魔法
続きです
セリスは拘束の光輪に縛られたまま、わざとらしく咳払いをする。
「じゃあ、改めて自己紹介をしよう。僕はセリス――ただの魔法少女さ」
軽く肩を竦め、無邪気な笑みを浮かべる。
イリスの瞳が氷のように細くなる。
「……ふざけたことを。貴様が“ただの魔法少女”なら、ここに座っているはずがない」
冷ややかな声が収容区画に響き渡る。
カリナが思わず舌打ちし、ルミナも剣をわずかにきらめかせた。
それでもセリスは怯む様子もなく、むしろ楽しげに目を細める。
「おや? 疑ってくれるのは嬉しいけど……“ただの”って言葉ほど、親近感が湧く便利な肩書きもないと思わない?」
軽口を叩きながら、組んだ足を揺らす。
「まあ、いいや……それで? 何を聞きたいのかな?」
その声音は、まるで取引の主導権が自分にあると信じて疑わぬ者のものだった。
イリスの視線が鋭さを増す。
「……まずは、貴様のことについてだ」
セリスは小首を傾げ、興味深げに片眉を上げる。
「具体的には?」
「貴様の魔法だ」
イリスは一歩踏み込み、冷たい声で告げる。
「貴様から回収した銃を解析してもらったところ……ただの銃だったそうだ。――何故、貴様はそれを用いて魔物を討伐できる?」
収容区画の空気がさらに張り詰める。
背後の監視員たちですら息を潜め、目の前の会話の一言一句を聞き逃すまいとしていた。
セリスはしばし目を閉じ、ふっと口元に笑みを浮かべる。
「……なるほど。やっぱりそこから来るんだね」
片目を細め、イリスを見据えた。
軽く肩をすくめながら、椅子に背を預ける。
「銃そのものはただの鉄の塊さ。いや、少し違うけど関係ないよ。“僕が撃つ”から意味を持つ。……まあ、僕ならではの原理、とでも言っておこうか」
イリスの目が細まり、声に冷えた鋭さが宿る。
「はぐらかすな」
セリスは小さく笑い、両手を上げて見せた。
「はぐらかしてるわけじゃないさ。ただ……“答えてしまえば僕という存在そのものが説明できてしまう”。――ということだよ」
「……何が言いたい」
「わからないかい?仕方ないな」
「じゃあ、まず僕の魔法について詳しく話そうか」
セリスは軽く前屈みになり、指先で机をとんとんと叩く。
「僕の魔法は――言ってしまえば魔力の変換だよ」
イリスの眉が僅かに動く。
「……魔力の変換?」
「そう。君たちが魔法を使うときに発生する氷や炎や雷なんかはどこからきていると思ってる?」
セリスの口元が緩む。
「そう、君たちからわずかに溢れた魔力が君たちの魔法に応じて変化しているんだよ」
「それは、無意識に行われること。僕を除いてね」
収容区画の空気が一瞬ヒリつく。
「…ぶっちゃけるとね、僕は魔力を物資や物体に変化させることができるんだよ」
言葉が落ちると同時に、セリスの掌に淡い光が蠢き出す。光は宝玉のようにまとまり、次第に硬質な塊へと収束していった。皆の視線がそれに吸い寄せられる。だがルミナは浮遊剣を構えたまま警戒を緩めない。
イリスが冷たく問いただす。
「実証するのか?」
セリスは片肩をすくめ、掌の小さな結晶体を見下ろす。
「いいよ。言葉だけで信用されるタイプでもないだろうしね」
指先で弾くと、結晶は鋭く光り、短い閃光とともに収容区の壁へ飛んでいった。弾は硬質な音を立てて壁に突き刺さり、そこから亀裂が幾本も広がる。魔法的な衝撃ではなく、まるで高密度の弾丸が物理的に衝突したかのような破壊だ。
「なんだと……?」カリナが剣を持ち。ルミナは浮遊剣を複数引き寄せ、警戒を解かない。
セリスは淡々と椅子に戻り、静かに説明する。
「僕のやっていることは“魔力を特定の物性へ変換する”ことだ。君たちが放つ属性(氷・炎・雷)は“波”や“現象”として出る。僕はそれを“物”に変える。結果として、普通の銃や刃物でも“魔物を討つ”形に変換できるんだ」
イリスの眉がさらに深く寄る。
「それは――規範を超えている。そんな変換が可能なら、理屈で管理できるものではない」
「その通りだよ」とセリスは苦笑する。
「だから政府は僕を“管理”したがる。けどね、全部がただのチートってわけでもない。制約があるんだ」
ルミナが興味を隠せず訊く。
「制約?」
セリスは少しだけ表情を曇らせる。
「簡単に言えば“素材(源泉)”が必要だ。魔力はどこからでも拾えるけど、変換に使う“量”と“品質”によって、出来上がるものの性質が変わる。大量かつ高密度の魔力を即座に変換すると、周囲の魔力環境に影響が出る。長くやればやるほど、周囲の魔力は枯渇していく――つまり、短期決戦向きで、無制限には使えない」
イリスが眉をひそめる。
「……つまり、環境次第で力の出し方に限界がある、ということか」
セリスは肩をすくめ、椅子に深く腰を下ろす。
「そう。それに、前提として僕が変換するものの構造を理解していないといけない。まあ、ざっくりとした理解でも、無理矢理なら変換はできるけどね」
ルミナが浮遊する光剣を微かに揺らしながら、低く呟く。
「つまり……計算が必要ってことー? 単なる力任せじゃないんだねー」
「その通りさ」
セリスはゆっくりと笑みを浮かべる。
「計算、感覚、経験――全部必要だ。だから僕の魔法は“僕専用の武器”なんだよ」
イリスの瞳が鋭く光る。
「……しかし本当に貴様にしか使えないのか?」
セリスは視線を室内の観察員たちに流し、そして再びイリスたちに戻す。
「ふふ、そこが――君たちが一番知りたいことだろう?」
いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。
見にくい、ここの文章がおかしい、面白くない、などありましたら教えて頂きたいです