14.尋問
続きです
「ここではダメだ……場所を移すぞ、ルミナ」
イリスが冷静に告げる。
先ほどの戦闘の余波で、上空にはすでに報道ヘリが旋回し、無数のドローンが光を点滅させながら集まり始めていた。
街の人々も遠巻きにカメラを構え、ざわめきが路地を取り巻いていく。
「……そっか。こんなとこをメディアに見られたら、余計面倒だもんね」
ルミナは浮遊する光剣を維持したまま、視線をセリスから逸らさず頷く。
「おい待て!俺はまだコイツを――!」
カリナが炎剣を構え直そうとするが、イリスが冷たく睨む。
「落ち着け、カリナ。今は市民の目と報道を優先する。……奴に逃げられても追跡する方法はある」
カリナは歯噛みしつつも炎を収め、渋々頷いた。
セリスはそんな三人を見て、口元を歪める。
「へぇ……やっぱり君ら、“見せ物”になるのは困るんだね。さすが皇国の顔、ってやつ?」
その挑発にもイリスは動じず、背を向けて歩き出す。
「――来い。場所を移す」
「ルミナ、そいつを拘束しとけ」
ルミナが軽く頷くと、セリスの首もとに淡い光の輪がひゅっと現れた。
光は柔らかく瞬きながら回り、やがて静かに輪郭を結ぶ。
「これは?」とセリスが首を傾げる。
「ぼくの意思で君の体の自由を奪えるやつだよー」
ルミナの声は気だるげだが、言葉に含まれる鎮静の意志は明確だった。
光の輪は微かに震え、セリスの肩や手足の動きをじわりと制限する。銃を完全に構え直すことはできない程度の拘束だが、狩人の手札を一本縛るには十分な力がある。
「随分と物騒なものを」とセリス。指先で軽く輪を触れるように見せるが、肝心の力には触れられない。表情は依然として笑っているものの、瞳の奥に細い警戒が走る。
「君は危なそうだからねー」ルミナは淡々と距離を詰める。光剣の列は緩くセリスを取り囲み、逃げ道を限定した。
「……はい、お願いします。よし、回収班を呼んだ、すぐ来るそうだ」イリスが端末に短く指示を送る。夜空の向こうで、既に数機の黒い影がこちらへ向かっていることを三人は視認する。
サイレンが遠くで鳴り、報道ヘリのライトが路地を洗う。だが、上空から近づくのは――ただのヘリではない。政府の回収班の機体。光学装置、拘束用の魔導具、それに対魔物用の特殊火器を満載した編隊だ。
―――――――――
数時間後、政府直轄の地下施設にて。
厚い強化ガラス越しに収容区画が広がり、魔導的な封印陣と監視用ドローンが規則正しく並んでいる。
その中心に、椅子に腰掛けているのはセリス。拘束の光輪はいまだ首元に輝き、身動きを縛っていた。
「奴はどうだ?」
低い声で問うのは、施設責任者の将校だった。
「はい、今のところは抵抗するつもりはないようです」
報告する隊員が答える。
観察室のガラス越しに立つイリスは、無表情のまま視線をセリスに向けていた。
「……妙だな」
彼女は呟く。
カリナが横で腕を組み、苛立ちを隠そうともせず声を上げる。
「妙も何も、余裕ぶってるのが気に食わねぇんだよ! 捕まってんのに、なんであんなに落ち着いてるんだ」
ルミナは肩をすくめ、淡々と答える。
「んー……まあ、見た目ほどは困ってないんじゃないかなぁ。あの人、ずっと余裕そうだったし」
イリスは腕を組み直し、静かに吐息を洩らす。
「……こちらの環境でさえ警戒していない。ならば――あの竜族と関係があるのは確かだろう」
ガラスの向こうで、セリスはのんびりと足を組み替え、こちらに気づいたように顔を上げる。
にやりとした笑み。
そして――唇の動きだけで、確かにイリスたちへこう告げていた。
「――待っていたよ」
施設の空気が、一気に張り詰めた。
「…開けろ、私が直接話す」
「危険では?」
「ぼくの拘束がある限りは大丈夫だよー」
ルミナが代わりに答える
「……ゲート開きます」
分厚い隔壁が軋むような重低音を響かせ、ゆっくりと開いていく。
魔導封印の光が走り、重苦しい空気が観察室から収容区画へと流れ込んだ。
「……ガチで行くのかよ、イリス」
カリナが剣の柄に手を掛けながら睨む。
「あれだけ余裕を見せる相手だ。間接的な質問では埒が明かない」
イリスは冷たい声で答えると、ブーツの音を響かせながら歩みを進める。
隔壁が完全に開ききった瞬間、セリスがぱちりと目を細めて笑った。
「君は……ああ、イリスか、いやー変身していない状態で来るなんて余程僕を信用してくれてるのかな?」
「勘違いするな」
イリスは冷ややかに言い放ち、セリスの真正面に立つ。
「これは貴様に対しての信用ではない。では、問おうか――お前自身と、あの竜族のことについてを」
いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。
見にくい、ここの文章がおかしい、などありましたら教えて頂きたいです