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龍は世界を渡る  作者: 人外主人公大好き
12/18

12.龍は存在感を放つ

続きです


(さて、ここまでが本体から共有された脚本……これ以降は僕が自分で進めないとな)

セリスは心の中で呟き、ライフルを握る手に力を込める。


目の前には氷を纏うSランク魔法少女イリス。

そのさらに向こうには、漆黒の竜――カイゼル。


シナリオの筋はここまで。

この先は、誰も知らない。セリス自身が選び、切り開く道だ。


「……さあ、どう動くか」

彼女の口元に、わずかに笑みが浮かんだ。


――――――――――

イリス視点


(……まずいな、奴――セリスと呼ばれていたか? ただでさえ手一杯だというのに……何者だ、あの竜族は)


イリスは無意識に震える手を押さえつけ、唇を噛んだ。

目の前に立つ漆黒の竜、その存在感だけで心臓が締め付けられる。


「……貴様、何者だ」

絞り出すように問いかける。


「……」


返答はない。

だが――沈黙そのものが、言葉以上に圧を帯びていた。


「答えないのかい?……カイゼル」


「何を言っている」


(……違う。意識されてすらいない……認知すらされていない。奴にとって、私は羽虫のような存在に過ぎないのか)


冷気ではない震えが背筋を走る。

手の震えが止まらない。いや、全身が小刻みに震えている。


(……やっておくか)


イリスは懐から小さな装置を取り出し、緊急救助用の機械を押し込んだ。

微かな光が走り、信号が夜空へと飛んでいく。


(……しばらくしたら、カリナとルミナが来るはずだ。それまでは……耐え凌ぐ)

その時だった。

夜空を裂き、複数の巨大な炎弾がカイゼル目掛けて降り注いだ。


「む」


轟音と爆炎。

Sランク級の魔物ですら、まともに喰らえば致命傷は免れぬはずの攻撃――。


だが。


「……何だ」


炎が収まった後も、カイゼルは無傷のまま立っていた。

衣の一片すら焦げていない。立ち姿は微動だにせず、ただ漆黒の威容を保ち続ける。


「!! カリナか」


イリスが息を呑む間に――一筋の炎の軌跡が隕石のように落下。

轟きと共に大地を揺らし、灼熱の衝撃波が路地を吹き抜けた。


そして、爆炎の中から現れたのは――

赤き焔を纏う少女。

炎の剣を肩に担ぎ、眩い闘志をその瞳に宿す。


「待たせたな、イリス!」


カリナが地面を踏み鳴らし、イリスの隣に立つ。

「早かったな、カリナ」

イリスが僅かに肩の力を抜く。


カリナは炎の剣を肩に担ぎ、にやりと笑った。

「当たり前だろ!俺より早い奴なんて、この世でルミナくらいしかいないんだからな!」


炎を纏った瞳が煌めく。

「そのルミナも――今回ばかりは俺より遅かった!!」



「誰が遅いってー?」

気だるそうな声が、カリナのすぐ背後から降ってきた。


「うわっ!びっくりした……ルミナ! それは心臓に悪いからやめろって、いつも言ってるだろ!」


「ごめんねー。でも、気づかないカリナが悪いんじゃない?」


「ぐぬぬ……てめぇ、俺をバカにしてんのか?」


「あははー、いやー鈍感だなぁって思っただけだよ」


火花とゆるさが入り混じるような二人のやりとりに、イリスは額を押さえた。

そして――


「……仲睦まじいことこの上ないけど、場面は考えて欲しいな」

皮肉を滲ませて口を挟んだのはセリスだった。


「? 誰だお前」

「君は誰ー?」

カリナとルミナが同時に疑問を口にする。


「今はどうでもいい。気にするな」

イリスが冷たく答え、二人を制した。


「ぬしらは……ああ、魔法少女というやつか」


低く響く声と共に、漆黒の竜カイゼルの視線が、初めてイリスたちに正面から向けられた。

その瞬間、三人の背筋を走るのは、本能を凍りつかせるほどの威圧。


「「「――開花!」」」


三人の声が重なり、眩い光が夜空を切り裂く。

イリスの周囲には結晶のような氷の花が咲き誇り。

カリナの炎は燃え盛る大翼となって背から噴き出す。

ルミナの足元には稲妻が奔り、身体を取り巻く光が電撃の鎧へと変じた。


魔法少女――その極致を解放する術式、「開花」ある段階に至った魔法少女にのみ許された力



「……ふむ」

カイゼルの黒色の瞳がわずかに細められる。

三人の魔法少女の“開花”による光と闘志を前にしても、その声音には退屈そうな響きすらあった。


――その時。


「主人様、緊急の要件が発生いたしました」


低く澄んだ声と共に、カイゼルの横の空間が裂け、そこから一人の影が現れる。

黒と白の衣装に身を包んだメイド。動作の一つ一つが絵画のように優雅で、ただそこに立つだけで場の緊張をねじ曲げた。


「……ルネ」


「お久しゅうございます、セリス様」

ルネはセリスへと深々と一礼した。


セリスは目を細め、ライフルを軽く傾けた。

「……こんなタイミングで来るとはね」


「主人様、急ぎお戻りください」


「……そうか」

カイゼルは低く唸り、天を仰いだ。

「いいところだったが――致し方あるまい」


その黒色の眼差しが、最後に魔法少女たちを、そしてセリスを順に見据える。

圧倒的な“存在の差”を刻みつけるように。


「覚えておけ。これは終わりではない……

 いずれ必ず――再び相まみえよう、魔法少女。……そして、セリスよ」


次の瞬間、空間の裂け目が収束し、カイゼルとルネの姿は霧散するように消え去った。


――残されたのは、張りつめた沈黙と、なお肌に残る圧迫感だけだった。


いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。

見にくい、ここの文章がおかしい、などありましたら教えて頂きたいです

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