11.龍はお披露目をする
今回は長めです
「さて、我々……というか私にとっては、話し合いで終わるのならそれでいいのだがな」
イリスの声は冷たく、夜気よりも鋭く響いた。
「話し合い?」セリスが嘲るように笑い、肩に掛けたライフル銃を軽く叩く。
「脅しの間違いでしょ……それに、君たちの要件は――僕の魔法だ」
イリスの瞳がわずかに細められる。
「……察しがいいな。今人類が喉から手が出る程に欲しているのが君の魔法だ……君自身が一番理解しているはずだ」
セリスは目を細め
「…そうだね、現象人類の叡智の結晶は魔物に対しては役立たずもいいところだからね。そして、未知数の魔物まで出てきたそんな時に銃を使い魔物を狩っている僕が現れたんだから」
イリスは腕を組み、わずかに顎を引いた。
「……理解しているのなら話は早い。君の力は、人類にとって希望となる。だが同時に――制御不能なら絶望にもなり得る」
「制御不能?」セリスは小さく笑みを浮かべる。
「なるほど……要は僕を“管理下”に置きたいわけだ」
イリスの冷たい眼差しが揺らがない。
「そう受け取っても構わない。いずれにせよ、君を野放しにはできん」
「……やっぱりね」
セリスはライフルを構え直し、照準をイリスへと向けた。
「結局、君たちの正義は僕にとっては枷にしかならない」
「枷ではなく、秩序だ」イリスの周囲に氷の結晶が浮かび上がる。
「――人類の未来のために。ここで従うか、それとも敵になるか。選べ」
セリスは小さく呟く
「……やっぱりこうなるのか」
瞬間だった
「「!」」
セリスが引き金を引くと同時にイリスは氷壁を展開、セリスの弾丸は氷壁によって止められた
(……思った以上に強度があるね、あの氷壁)
(……想像以上に破壊力があるな、まさか私の氷壁にヒビが入るとは)
その時セリスは閃光弾を取り出し、イリスに向かって投げた
「閃光弾!目を閉じろ!!」
イリスは仲間に向かって叫んだ
夜を切り裂く白光と轟音。
狭い路地は一瞬で昼のように照らし出され、仲間の魔法少女たちが思わず顔を覆う。
「これで、しばらくは動けないでしょ」
セリスは走り出そうとしたが、
「!」
「……まじか」
セリスの足元は凍っていた
「この程度でSランク魔法少女が怯むとでも?」
確実に閃光弾を喰らったにも関わらずイリスの冷たい瞳がセリスを捉えていた
(しかし、閃光弾か……魔法少女にも効くとは。ますます奴を野放しにはできんな)
(Sランク……結構やるね、しかし本体の話は当てにならないな)
セリスは氷に囚われた足を見下ろし、舌打ちした。
ライフルを構え直すも、その銃口を見てもイリスの瞳は一切揺らがない。
氷壁の向こうで、仲間の魔法少女たちも視力を取り戻しつつある。
「ここで確保する……!」
イリスの声が凍てついた空気を震わせる。
次の瞬間、地面から氷柱が一斉に噴き上がった。
逃げ場を塞ぐように連鎖し、セリスの身体を突き刺さんと迫る。
「っとと……!」
セリスは銃口を氷柱へ向け、連射。轟音と共に氷片が四散するが、攻撃の密度が高すぎる。
「――チィッ!」
右肩をかすめる氷刃。鮮血が闇夜に散る。
イリスは冷酷に告げた。
「もう逃げられないぞ、手足の一本くらいは覚悟しとけ」
だが――セリスは苦笑を浮かべ、肩口を押さえながら呟く。
「……そう思うだろ?」
その言葉と同時に、彼女の足元の氷が内側から爆ぜる。
煙と閃光を仕込んだ小型魔道弾――氷の隙間に先ほど仕込んでいた罠が炸裂したのだ。
「――っ!」
イリスの視界が再び揺らぐ。
その隙に、セリスは建物の壁を蹴り上げ、イリス達から距離をとった
(…何をするつもりだ?)
「警戒しろ!奴は特Aランクの魔物を討伐したことがある何かしら切り札があるはずだ!」
セリスは高いビルの縁に立ち、夜風に髪を揺らしながらライフルを構え直した。
月明かりに照らされるその姿は、狩人のようでもあり――追い詰められた獣のようでもあった。
「切り札……ね。僕はただ、生き延びるために仕掛けを撒いてるだけさ」
言葉と同時に、セリスの周囲に光の紋章が浮かび上がる。
それは銃弾と共鳴するように脈動し、周囲の魔力を吸い上げていた。
「まさか……!」
イリスの瞳が見開かれる。
「魔力変換……!? この規模でやる気か!」
セリスは静かに銃口を下ろし、標的をイリスへ向ける。
「本当は使いたくなかったんだけどね――“対魔物仕様”は、人にも十分効くんだ」
背後の仲間たちが息を呑み、氷壁を再び展開するイリス。
だが、その瞬間にはもう――セリスの引き金が引かれていた。
夜空を裂く閃光。
轟音と共に放たれた弾丸は、ただの物理弾ではない。
周囲の魔力を収束・圧縮した特殊弾――“魔力破砕弾”。
氷壁に直撃した瞬間、壁は凍りついたまま粉々に砕け散った。
「な……っ!?」
イリスの表情がわずかに揺らぐ。
瞬きをする間にセリスはイリスの首元にナイフを押し当てた
「…貴様、接近戦も行ける口か」
「そうだよ、初見のやつは大体ライフルを見て僕が接近戦が苦手だと勘違いするからね」
イリスは微動だにせず、冷たい瞳でセリスを見返した。
首筋に冷たく当たる刃にも怯まず、吐息ひとつ乱れない。
「……ならば誤算だな。私も私の魔法も“至近距離”でこそ真価を発揮する」
言葉と同時に、イリスの身体から冷気が爆ぜた。
一瞬で周囲の空気が凍りつき、白い霧が広がる。
「――っ!」
セリスは反射的に跳び退き、氷結の衝撃をかわした。
刃を押し当てていた位置は瞬く間に氷の棘に覆われ、もし一拍遅れていれば腕ごと凍りついていた。
「危ないなぁ……本当に人を殺す気?」
屋根の端に着地しながら、セリスは皮肉げに笑う。
イリスは表情を変えずに告げる。
「その気がなければ、君のような怪物は捕らえられん」
氷の霧が立ち込める中、セリスはライフルを構え直した。
その瞳には一瞬の躊躇もなく、ただ――狩人の鋭さだけが宿っていた。
「……いいね、Sランクと戦うのは。楽しい」
両者の間に、再び殺気が走る。
(けど、そろそろかな?)
その時――イリス、そして仲間の魔法少女たちですら同時に気付いた。
夜の空気が震え、影が揺らぎ、圧倒的な存在感が場を支配する。
「セリスよ……随分と楽しそうではないか?」
声は低く、しかし全てを圧し潰すように響き渡った。
次の瞬間、闇を裂くように現れたのは――黒。
目も、髪も、竜族の象徴である角も、羽も、尾も、全てが漆黒に染まっていた。
その存在はまるで夜そのものを凝縮したかのようで、ただ立つだけで周囲の光が掻き消えていく。
「妾達を裏切った分際で……まだ生き延びていたとはな」
イリスでさえ思わず息を呑み、仲間たちは言葉を失う。
圧倒的な力の気配に、戦闘の緊張が一瞬で別次元の恐怖へと変わっていった。
セリスは冷や汗を垂らし、苦い笑みを浮かべる。
「……はしゃぎ過ぎたかな。最悪だよ……よりによって君に見つかるとはね、カイゼル」
いかがでしたか?楽しんでもらえたのなら幸いです。
見にくい、ここの文章がおかしい、などありましたら教えて頂きたいです
イリスのカイゼルに対してのやつは演技です