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ライターアースと笑おう  作者: 六助
プロローグ
4/33

悪魔と始める共同生活

 共同生活で必要なのはマナーです。

 間違っても相手のベットに潜り込んだり、風呂場でばったり遭遇してはいけません。

 「んあ……」

 カーテンの隙間から僅かに差す木漏れ日と、朝っぱらからうるさい鳥類どもの鳴き声によって俺の意識が覚醒した。

 「あー、だりぃ」

 解消しきれていない眠気が頭に伸しかかり、再び眠りに誘おうとするが、そこは強靭な精神力によって振り切る。

 名残惜しみながらも、俺は毛布を剥がし――――そこで気がついた。

 「ふにゅー、むにゃむみゃ」

 俺の隣で、女の子が眠っていることに。

 

 

 「なんだ、悪魔か」

 よく見てみると、それは昨日、玄関から召喚されてきた悪魔だった。

 あー、そういえば今日から一緒に住むとか言ってたなぁ。

 「家賃と食費はもらったからな、朝飯は一人分多めに作るか」

 俺は素早く着替えを済ませ、台所へと向かう。

 当初の頃は面倒だった飯の準備も、今では惰性でこなせるようになった。

 忙しい朝は、昨日の晩に仕込みをしておくのが賢い主婦の知恵だと町内会で教えてもらったし。

 「あー、そうなると弁当も二つか……」

 幸い今日は休日なので、朝飯だけで済むが、週明けからは二人分の飯も作らなければいけない。なんか知らないが、あの悪魔も転校生として俺の学校に通う事になった。

 契約上、俺と悪魔はある一定以上の離れてはいけないんだとか。

 「作り置きとかも必要だよなぁ」

 どうせ元々、今日は買出しの予定だったんだし、悪魔に手伝わせて色々買いに行こう。

 「と、できたか」

 本日の献立は、ワカメの味噌汁とご飯、漬物、アジの塩焼きだ。香ばしい味噌の香りと、ご飯の蒸気が実に食欲を促してくれる。

 我ながら、なかなか美味そうにできた。

 「……おはようございます」

 悪魔がなぜだか暗い顔で台所に顔を出す。

 「おう、おはよう。今、飯が出来たところだからテーブルに着いてくれ」

 「はい……」

 食卓にそれぞれ皿と箸を分け、朝食の準備は整った。

 「じゃ、いただきます」

 「いただきます」

 味噌汁を啜り、目の前の悪魔がしょんぼりと飯を食べている理由を考える。

 あれ? 飯、は美味いよな?

 「なぁ、悪魔。俺の飯、ひょっとして口に合わないか?」

 「いえいえー、とっても美味しいですよ」

 悪魔は即座に答えた。

 嘘をついている様子は無い。

 だとしたらなんだ? しっかり泊る部屋も用意していたし、布団だってしっかり敷いてやったはずだよなぁ……ん? 布団?

 「っていうか、お前! なんで俺の布団に入って来やがったんだよ!?」

 「反応が遅いです!!」

 突っ込みをいれた瞬間、悪魔に突っ込まれた。

 「陽平さん、反応が遅すぎですよ! 正直、私は無視されたのかと思って、ちょっと心に傷を負っちゃいましたよ!」

 「知らねぇよ、つーか、布団に入ってくるな」

 「バカですか!? 陽平さん! 『朝起きたら女の子が僕の布団に(以下略)』は同居モノでは欠かせないイベントなんですよ!」

 「それこそ知るかよ!」

 俺と悪魔は口論しつつ、箸を進めていく。

 「そもそもですねぇ、陽平さんはこんなに可愛い女の子と一つ屋根の下だっていうのに、何も感じないんですか?」

 「だってお前、悪魔だろーが」

 「悪魔だって見た目は女の子ですよ? ぶっちゃけ、えっちぃこともできちゃいますよ?」

 「魂取られそうだからいいわー」

 「軽い口調で断られたっ!?」

 しくしくと泣い真似をする悪魔を無視し、俺はアジに齧りつく。

 「つーか、味噌汁が冷める。さっさと食え」

 「はいはいっと。もう、相変わらず陽平さんはドライですね」

 「相変わらずってなんだよ」

 ふふふっ、と意味ありげに悪魔は微笑む。

 どうやらこの悪魔と俺は前回に面識があるらしいのだが、あたりまえだが俺はこいつのことなんかさっぱりだ。

 一方的に他人と面識があるっていうのは、なんだか気持ち悪い感じられるが、まぁ、スルーしておこう。

 俺と悪魔は食事を平らげると、共同で食器を片付ける。

 以外にも悪魔が手際良く食器を洗うので、いつもより早く片付けることができた。

 「さて、飯も食ったし、食器も洗ったし、洗濯は昨日まとめてやっておいたし」

 「準備は万全ですか?」

 悪魔の問いに俺は頷く。

 「それでは、【ライターアース】から世界を救う作戦会議をしましょう」

 


 まず、昨日悪魔が説明したことを簡潔にまとめるとこうだ。

 期限は一ヶ月。

 最終目標はこの惑星から危機と取り除くこと。具体的に言えば、この惑星を破壊しうる力を持った異能力者の、【ライターアース】の排除だ。

 そして、その【ライターアース】と、それに協力する可能性のある異能力者三人が、このちっぽけな田舎町に存在していること。

 「で、合ってるよな?」

 「オッケーですよ、陽平さん」

 では、と悪魔が言葉を繋げ、

 「今日はまず、詳しいルール説明から始めましょう」

 悪魔は自前のホワイトボードにペンを走らせていく。

 「私はとある四つのルールによって行動を制限されています。

 1.悪魔は【ライターアース】についての情報は持ち越せない。

 2.悪魔は三人の異能力者についての情報は持ち越せない。

 3.悪魔が異能力者を感知できるのは、異能力が発動した後に限る。

 4.悪魔は異能力者に対して、直接的な排除行動をとることを禁じる。

 と、まぁこんな感じですね」

 「つまり、お前はほとんど頼りにできないってことか?」

 「ええ、そう思っていただいた方がいいですね」

 この悪魔が前回で経験した記憶はほとんど持ち越せないってわけか。

 だが、それでもまだこちらに優位がある。

 【ライターアース】というあだ名を持つ異能力者。

 世界を壊しうる能力をもつ者が存在しているとあらかじめわかっていれば、ある程度の準備や覚悟をすることができる。

 「質問だ、お前は昨日、世界を破壊しうる異能力者のことを【ライターアース】と呼んでいたが、それはそいつの能力に関係している呼称なのか?」

 「回答不可能です。ただ便宜的に付けた呼び名なのか、それとも能力名を指すのかわかりません。その情報については私の記憶に存在していませんから」

 「ふん、予想はしていたがやっぱりそうか」

 どうやら呼び名以外の情報は持ち越せていないらしい。

 だが、もしもその呼び名が能力名だったときの予想はしておいたほうがいい。

 「ライターアース……大地、いや【星の書き手】か? なんつーか、これが能力名だとしたら、かなり嫌な予感しかしねぇんだけど」

 「あははは、万物創造能力とかだったら、嫌ですよねぇ」

 「軽々しくチートみたいな能力例を言うなよ。絶望したくなる」

 悲しいことに、そんなチートなんてありえないと俺は断言できない。

 この星を破壊しうるほどの異能なのだ。それくらい力を持っていたとしても不思議ではない。むしろ、そうだと仮定したほうが納得がいく。

 ……はぁ、このことはとりあえず保留しておこう。

 いきなりやる気を失いたくないしな。

 「次の質問だ。異能力者を感知する条件として、その異能が発動するって言ってたけどよ。それは異能が発動した後は継続してその異能力者を感知可能なのか? それとも、異能が発動したときだけ感知可能なのか?」

 「それは前者ですねー。一度異能を感知したら、継続してその異能力者を感知可能です」

 「その感知の精度や効果を及ぼす範囲はどれくらいだ?」

 「距離は制限されていません。どこにいても感知可能、居場所の特定が可能です」

 「ふむ、それはかなり助かるな」

 一度異能を感知してしまえば、誰が異能力者か特定できる。

 こちらがあちらを一方的に知っているという状況は、かなり有利に働く。

 それがどんな異能だとしても、ある程度対策を立てることによって、無力化することもできるかもしれない。

 「だが、それは悪く言えば後手に回り続けなきゃいけないってことだよな?」

 「その通りです、陽平さん。私の感知だと、どうしても先手を打つことはできませんね。最悪の場合、【ライターアース】が一ヶ月後、正確には30日後になりますが、その時にしか能力を使わないことも考えられます」

 「そして、ゲームオーバーか」

 悪魔の感知は頼りになる。が、それに頼りすぎれば自滅する。

 「できれば異能力者を感知に頼らず発見したいんだが、異能力者に共通する条件、みたいなものは無いのか?」

 「んー、そうですねー」

 悪魔は腕を組んで思考を開始した。

 恐らく、ルールで縛られていない、持ち越せた情報を整理しているのだろう。

 「参考になるかわかりませんが、ウイルスを開発した研究所のデータだと、異能を発現しやすいのは十代中盤の中高生に限られるみたいです。そして、精神に何らかの異常を持っているみたいです」

 「精神に異常? うつ病とかそんなのか?」

 「うーん、曖昧ですけど、どちらかというと『心の闇』って言った方がしっくりくる感じです。どうやらウイルスは、悩み多き青少年が大好きらしいので」

 「まー、中二病って奴もあるしな」

 要するに、何か心に問題を抱えている奴を探せばいいわけか。つっても、どうやって?

 「地味な聞き込みしか無いですよー」

 「やっぱ、そうか。面倒だな……ていうか、心を読むなよ」

 「うふふふふー」

 悪魔の不敵な笑みを聞きながら、俺は頭を抱えたくなってきた。

 異能力者と相対するってだけでもきついのに、その上、まず探すところから始めなきゃいけないだなんて。

 唯一の救いは、ここが田舎町でそれほど人口も学校数も多くないってことだけだな。

 「と、そういや肝心のことを聞き忘れていた」

 「ふんふん、なんですか、陽平さん? 私のスリーサイズなら――――」

 「異能力者への対処なんだけどよ」

 「しくしく、また無視されましたぁ」

 泣き真似がうぜぇ。

 俺が舌打ちすると、悪魔はけろりとした表情で肩をすくめた。

 「はぁ、それでな。俺は結局、異能力者をどうすればいいんだ? 世界を壊すのはいけませんって説得すればいいのかよ? それとも、バトル展開で一人一人、拳で友情を育めばいいのか?」

 「どちらでもいいですよ、三人の異能力者の場合なら」

 悪魔は今までのおどけた雰囲気を消し、凄惨に微笑む。

 「ただし、【ライターアース】は殺してください。説得、和解なんてしようと思わないでください。無意味ですから」

 「おいおい、物騒だな。普通に仲良く手を取り合ってハッピーエンドはできねぇのかよ?」

 「ええ、できません」

 悪魔は笑顔で否定した。

 「相手は仮にも世界の壊しうるほどの存在。つまり、それだけの力を得るほどの『心の闇』を抱えた異常者なんです。言葉なんて決して届かないし、存在自体が罪みたいなものなんですよ」

 だから、殺してください。

 何の感情も感じさせない声で、悪魔は言った。

 「安心してください、陽平さん。例え、貴方が【ライターアース】を殺したとしても、それが貴方の罪にならないようなアフターケアもありますし、貴方が望めば殺人の記憶も消してあげますから」

 「まったく、サービスがいいな」

 「知らないんですか? 悪魔って実はサービス業なんですよ」

 おどけて笑う悪魔。

 だが、その瞳はどこまでも冷たい。

 背筋が凍りつきそうな、嫌な威圧感を悪魔は俺に向けてきやがる。

 強制的に人を従わせるような存在感を、一介の高校生に向けてやがりますよ、こんちくしょう。

 だが、それとこれとは別だ。

 

 「断る、誰が殺人なんかしてたまるかよ」


 こちとら反抗期まっさかりの高校生だ。

 悪魔の言うことなんて簡単に聞いてやるものか。

 「勝手に俺の不可能をお前が決めるな。俺ができないことは俺が決める。俺がやらなきゃいけねぇことは俺が決める」

 だから、

 「俺は【ライターアース】と笑い合える結末を探す。くそつまんねぇバッドエンドなんてお呼びじゃねーんだよ、悪魔」

 俺の答えに、悪魔は冷たい視線を返す。

 「驕らないでください、陽平さん。たかが人間ごときが、自分以外の誰かを救えるとでも思っているんですか?」

 「笑わせるなよ、悪魔。たかが悪魔ごときが俺の価値を決めるんじゃねぇ」

 冷たい視線を砕くように、俺は悪魔を睨み返した。

 「どうせ世界を救うんだ。ついでに他人の一人や二人、俺が救ってやるよ」

 あほらしいほどハッピーエンドで行こうじゃねーか。

 誰も死なずに、誰でも笑顔になれるような、飽き飽きとしたハッピーエンドを目指してやる。

 中途半端な俺でも、それくらいはできるはずだ。

 そう、俺の親友だった奴が信じていたはずだろーが。

 「あはっ、あははははは!」

 俺の言葉に、悪魔は心底愉快そうに笑い出した。

 「あはははははっ! やっぱり、陽平さんは陽平さんです! 貴方はやっぱり最高ですね!」

 「ちょ、いきなり笑い出すなよ。驚くっつーの」

 悪魔はしばらく俺の隣で笑い続け、

 「うん、陽平さんならきっとできますよ」

 そう、無責任に俺を信頼しやがった。

 

 

 「あー、そういえばだけどよ。お前って、名前とかあるのか? ほら、いつまでも『悪魔』じゃどうかと思ってよ」

 「そうですねー、一応、前回使っていた偽名があるんですけど」

 「へぇ、どんなのだ?」

 「聖名せいな あかりっていうんですよー」

 「合ってないにもほどがあるじゃねぇか!」

 

 そんなこんなで、俺と灯は世界を救うことにした。


 

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